第125話 魔術ギルドへようこそ
龍児達がリセボ村でモンスターの襲撃を受けていた頃。朝早くから刀夜とリリアは晴樹、舞衣、梨沙、美樹をリビングに呼び出していた。無論彼らは龍児があのような事件に巻き込まれているなど知る
リビングのテーブルの上座に刀夜は
向かって晴樹、舞衣、梨沙、美樹が座った。わざわざ改まって何の用だろうかと呼ばれた四人は、また変な事件では無いことを祈りたい気分だ。
刀夜は皆が集まると彼らの表情を軽く見回わして
「集まってもらったのは他でもないリリアのことだ。昨日デュカルド・オルマー氏より魔術師ギルドへの紹介状が届いたので早速登録に行ってこようと思う」
その言葉に集まった四人は微笑みをリリアに向けた。以前に刀夜がオルマー家に暴行を受け、瀕死になりかけたときリリアの素性はバレてしまった。さらに魔法使いであることもバレてしまい、刀夜から彼女の件は秘密にするよう頼まれてた。
それはリリアが奴隷とバレれば世間からは
だがその胸に魔術ギルドの紋章を掲げれることができれば彼女は貴重な魔術師としてギルドからの保護と地位が与えられる。
「これでリリアちゃんの地位は確約されるのね」
中でも一番に喜んでくれたのは舞衣である。奴隷という立場をずっと
一時期、クラスメンバーの崩壊時に火花を散らしそうになったこともあったが、それゆえなのか舞衣はリリアのことを気にするようになった。リリアは賢く、優しく、周りをよく見て気を使う良い子なのだ。
舞衣は彼女を妹のように思っている節があるが、時折その立場は逆転していることもあるようだ。リリアのほうが舞衣よりしっかりしている面が多々あるためだ。
「だが、それでも世間には
リリアは一度は魔術師ギルドに登録はされている。しかし彼女のいた街の消失と同時にそのすべてが失われていた。
刀夜とリリアは家を出ると事前に呼んでいた馬車がきていた。残った者たちに手を振って家を過ぎ去ってゆく。
リリアを魔術師ギルドへ登録するのはなにも彼女の為だけではない。刀夜の最大の目的は魔術師ギルドの大図書館だ。
出入りだけであればギルドへの登録は必要なくデュカルド氏の紹介状だけでことは済む。しかし難解な魔術書を読むのは刀夜の知識では無理がある。
かといってギルドの連中が親切丁寧に教えてくれたりなどするわけがない。彼らは忙しいのだ。
となればどうしてもリリアの知識が必要となる。彼女をギルドに登録しておいたほうが何かと有利なのだ。魔術の教育も受けられて、魔術アイテムを借りたり買ったりもできるようになる点も大きい。
しかし反面、面倒も起こる。
ギルドに登録すると仕事の依頼がくる場合がある。ほぼ強制なのでリリアを取られ、下手をすると数日拘束される場合もある。だがメリットと比較すれば圧倒的に利点が多いので登録しない手はないだろう。
やがて馬車は魔術ギルドへと到着する。刀夜たちが馬車を降りて周りの建築物とは
一見するとアテナのパルテノン神殿のような建物だ。思わずローマのような世界観が拝めるのだろうかと淡い期待に包まれる。
しかし中に入るとごく普通に
広いエントランスには豪華な家具などの調度品のアンティークが並んでおり、いかにも由緒正しきといった雰囲気を
ふかふかとした紺色の
エントランスの端には受付があり、事務服を着た二人の女性は刀夜のほうを見ている。このような場所に異人が来るのは珍しいことだからだ。
刀夜が珍しそうに辺りを見回していると魔術師のローブを
隣には待ち受けの女性が着ているのと同じ事務服の若い女性が付き添っていた。
魔術師が頭に被せているローブを脱ぐと彼女はかなり年配の女性だった。白髪の長い髪がローブから解けてハラりと垂れる。顔は細く、肌は白いを通り越して青白いほどであり、齢を重ねた
金色のイヤリングとティアラが妙に目立つ。年を取っても女性だから飾りたいのか、はたまた術式のような代物なのか……
「当魔術師ギルドへようこそ。連絡のあった試験を受けられるかたですか?」
落ち着いた物腰で老女が尋ねた。その柔らかい表情は見るものに安らぎを与えるかもしれない。
「はい。試験はこの娘が。私は大図書館の利用許可を頂きにきました」
「書状をお持ちですか?」
刀夜は肩に掛けている鞄からデュカルド・オルマー氏の書状を二通取り出した。
それは白い便せんで、手紙と言うにはやや大きめであり、デュカルド氏の直筆にて書かれたものだ。一通はリリアの試験推薦状、もう一通は刀夜の大図書館の利用許可取得推薦状である。
刀夜は書状を老女に渡した。老女は書状を受け取ると裏返しオルマー家の家紋の入ったシーリングスタンプを確認する。
「……確かに。ようこそいらっしゃいました。本日の案内はこの者が行います」
そういって紹介されたのは隣の事務服の女性だ。アイボリー色のショートボブで丸渕メガネをかけている。
顔のパーツは小ぶりだが、ツンと高い鼻、小さいけれどもやや厚みのある唇と目の下にあるホクロが自己主張していた。物静かに本でも読んでいればかなり絵になりそうな女性だ。
「本日の皆さんのご案内を勤めさせて頂きます。ナタリー・カンパリオーネです。まだ雇われて日も浅いですが大船に乗ったつもりで是非お任せ下さい。この魔術師ギルドは見た目は古臭いですが、中は外観とは異なって最先端をいっておりまして、特に厨房なんかは一流のシェフがやっているだけあって料理が最高なんですよー。あ、そうそう、お二人も試験の合間に食べられますので是非堪能していって下さい。オススメはシチューが最高なんですよ。それに――」
前言撤回である。彼女は刀夜の見立てとは真逆な性格だったようだ。ナタリーのマシンガントークは止まることを知らないらしい。しかも彼女の口から洩れてくるのは要らない情報ばかりである。
「ナタリー……」
老女が彼女の名を呼んでジロリと睨み付けるとナタリーのトークはピタリと止まって彼女は硬直した。それは見事な直立不動で自警団の連中には良い見本となるであろう。だが残念なことにここは魔術師ギルドなのだ。
「無駄なことは言わなくてよいといつも言っているでしょ。皆さんが唖然としていますよ……」
「はい!」
ナタリーは元気よく返事をする。しかし彼女の返事はまるで空に向けて返事をしたようだ。
老女は乾いたため息をつく。さぞ手の焼ける相手なのだと伺える。刀夜はこんな人物が案内係で大丈夫なのだろうかと心配になってきた。
「では私は書状をもってゆくので後を頼みましたよ。くれぐれも時間に遅れないように」
「はい!」
老女は念を押すが、またもや彼女は空に向かって返事をする。そんな彼女をみて老女は大きくため息をついて隣部屋へと消えていった。
刀夜はナタリーには頼らないほうが良いような気がした。
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