第119話 龍児初陣2

 広場のリビットを片付けたことにカイラとゴーンが安堵した。だがそのとき防壁の左翼が急に騒がしくなる。


 二人は騒ぎの元をみて驚いた。


 DWディザートワーウルフの巨体が宙を舞って防壁を越えてるではないか。


「ば、ばかな。どうやって!?」



 二人は慌てて防壁外を見るとDWウルフは一番傾斜の弱くて長い梯子はしごを駆け上がっていた。それは梯子はしごの端をドレンチが持ち上げたことで可能となった。


 だが毎度うまいく訳でもなく大半は足を滑らして落ちてゆく。そのような中の一匹が突破に成功したのだった。


 たかが一匹、されど一匹。


 DWウルフは強靭で強い。


 鋭い爪は甲冑かっちゅうを切り裂き、強靭なあごと牙は戦士の四肢を引きちぎる。そして最大の武器、つるぎのような角は人を真っ二つにする。


 本来なら門が空いた所で決戦用として投入されるモンスターであるが、なかなか門が開かないので次の手段に出たのであった。


◇◇◇◇◇


 DWウルフは猫のように空中で一回転して門前の広場に降り立つ。その巨体に見合った威圧的なオーラは周りの空気を一変させてしまう。


 そして我ここに見参と言わんばかりに遠吠えで周りを威嚇いかくした。


 その迫力に龍児を賛美していた声は静まり、誰もが硬直する。


「おのれええええ!」


 勇敢な自警団OBの男が槍で立ち向かった。だがDWウルフはその槍を角で軽く弾くと、まるでお手玉でもするかのように男を角で跳ね上げてしまう。


 宙を舞った男は信じられないといった顔をした。


 そして落ちてきた所を自慢の角で男を真っ二つにした。その間、DWウルフは一歩も動いていない。


 DWウルフは鋭い眼光で龍児を睨んだ。彼なりの決闘のつもりであろうか。


 龍児もバスターソードを大きく振り回してぎ払いの構えでDWウルフの意思に答える。


 言葉は通じずとも互いの目が語る。


 決闘だ!!


 互いにらみ合いながらジリジリと間合いを取り合う。


「うおおおおおおおおッ!!」


 先に動いたのは龍児だ。彼は今回初めて気合いの声を上げた。龍児が大きく踏みこんだ瞬間、DWウルフも踏みこんでくる。


 バスターソードと角が激しく激突!


 予想を上間る衝撃に龍児は大きく後ろに弾き飛ばされて驚かされた。


「クソッ、なんつーパワーだ!!」


 だがそれ以上に驚かされたのはDWウルフのほうである。DWウルフの体重は800キロ以上はある。


 正面からぶつかれば人間なんぞに打ち負ける訳がないのである。にも関わらずDWウルフも後ろに弾かれた。


 激しくぶつかった為に頭がクラクラする。DWウルフは頭を振って意識を取り戻した。


 その間に龍児が鬼のような形相で迫ってきた。

 バスターソードのぎ払いをサイドステップでかわすと流れるような上段からの切り落としにDWウルフは角で弾き返す。


 本来ならここで止めの突き攻撃でフィニッシュである。しかし先程から龍児の攻撃を角で受けると凄まじい衝撃で脳震盪のうしんとうを起こしそうで次の一手が打てない。


 DWウルフは受けに回れば負けると悟ると先手に出ることにする。器用にも前後の突進による突きと振り回すような動作で龍児に防御をさせる。そして体重差を利用して押し潰す手段に出た。


 チャンスが訪れるとココぞとばかりに一気に押しに出た瞬間、龍児はDWウルフの角の攻撃をバスターソードで受け流した。


 DWウルフが驚愕きょうがくする。


 そのような技、いままで使っていなかった。


 隠し持っていた!?


 してやられたことに怒りを覚えるが龍児からの反撃が来る。もはや引くことも押すこともできなくなり、二人の攻防は一進一退を繰り返された。


 近接の早い攻防の展開は互いフルパワーを乗せての攻撃ができない。だがDWウルフはいまだ自分が有利だと感じた。


 再度体重差を生かした攻撃に出る。


 だが今度は受け流しなどさせない。


 DWウルフは単調となっていた龍児のバスターソードの刃に噛みつく。


 意表を突かれた龍児は驚いた。まさかそんな捨て身に出るとは思いもよらなかった。


「こ、コイツ……白刃取りのつもりかよ!」


 するとお互いの動きが止まった。


 DWウルフは勝ったと思った。


 このまま押し倒すもよし、爪で切り裂くもよし。


 動きを止めれば選択肢は多い……勝利を確信する。


 だが龍児から凄まじい闘気を感じた。ただならぬ気配にDWウルフに緊張の糸が張った。この状態で一体何をしょうというのか?


「舐めるなあああっ!!」


 バスターソードは噛みついて動かない……ハズ!?


 だがじりじりとバスターソードが動く。


 精一杯噛みついているのになぜ動く!?


 DWウルフは焦る。


 このまま剣を引き抜かれたら切り裂かれる。


 彼の脳裏にその光景が浮かんだ。


 やも得ずダメージ覚悟で後ろへと飛び退くと、口元を切り裂かれて裂けている口がさらに裂けた。顎が閉まりきらずだらりとして血がしたたる。


 DWウルフは喉を鳴らすような声を上げると龍児を強敵と認めた。


 龍児は再びぎ払いの構えをとり、DWウルフを睨み付ける。


 互いが最後の勝負にでようとしていた。


 同時に動くが、フェイントをかけて龍児のぎ払いをバックステップかわす。


 次の振り下ろしを今度はこちらが受け流して角を突き刺す!DWウルフは龍児の攻撃パターンを読んで踏み込んだ。


 だが龍児は振り切った体制から体を一回転している。龍児のバスターソードは再びぎ払いであった。


 しかも速度は先ほどよりも早い!


 突進モーションに入っていたDWウルフはもはや回避できない。野生の本能で体を無理矢理捻ってダメージを最小限にしようとする。


 龍児のバスターソードはDWウルフの前足を斬り飛ばす。


 足は縦回転で激しく地面を転がってゆくと柵の杭に突き刺さって止まった。


 DWウルフは片足を奪われて転げた。それでも立ち上がり満身創痍まんしんそういで龍児をにらもうとする。だがDWウルフの目に映ったのは容赦のない龍児の猛攻の姿だった。


 バスターソードの剣先が地面スレスレを滑空すると天空をめがけて駆け上がる。


 次の瞬間、DWウルフの首が宙を舞って勝負が決まった。勝利の祝杯だとばかりに龍児へ血しぶきが降り注ぐ。


「フーッ」


 バスターソードを地面に突き刺して体重を預けて休息をとる。


 そしてリビットのときと異なり、龍児は肩で息をしながら縮こまるように小さくガッツポーズをとった。


 彼にとって本当に強敵との戦いであったのだ。それだけにこの勝利は嬉しかった。


 龍児は村人から再び勝利の喝采かっさいを浴びることとなった。

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