第118話 龍児初陣1

 門前の広場に次々とリビットが現れた。門を守っているのは訓練生二人を含む八人である。


 防衛ラインを形成するなか龍児が前にでると同じ門を守る団員の目に留まった。


「おい、新兵! 前に出るんじゃない!!」


 リセボ村の自警団の男が龍児を止めようとするが、同じ訓練生のクルーガがリセボ村の彼の腕を掴んで止めた


「だめです。彼に近づいたら巻き込まれますよ」


 自警団の男は訓練生の妙な言いように理解が追い付かない。頭にクエスチョンマークを一杯浮かべて何を言っているのかと目が点となった。


 龍児が背中に担いでいるバスターソードを抜く。


 自警団の男はソレを見て彼の言ったことをようやく理解する。それはバスターソードとは名ばかりの代物だった。


 刃渡りはバスターソードとほぼ同じであるが長さが異常であった。身長190を越える龍児が持っていたため違和感が無かったが抜いてみれば一目瞭然、恐ろしく長い。


「……あんなもの振れるのか」


 その疑問は当然である。長い分重量は大きく、振り回せばその重量は更に重く感じるだろう。


 先輩方の見守る中、龍児はぎ払いの構えをとる。リビットは嫌でも目立つこの男を囲んで一斉に襲おうと距離を縮めて囲もうとした。


 だが龍児が一歩踏みこんだ瞬間、突風と共に彼の剣は姿を消す。同時に彼を囲もうとしていたリビットの先頭集団も消えた。


 龍児は振り切った剣を流れるように上段の構えに変える。


 リビット達はなにが起きたのか理解できず、天高くそびえ立つ龍児の剣にただ呆然と見上げたまま身動きできなかった。


 振り落とされた剣が龍児の眼前にいた2匹を押し潰す。手首を捻り、水平にすると再び左側をぎ払った。


 そんな龍児の暴れっぷりを伺っていた先輩方はゆっくりと雁首がんくびを揃えて左側を見た。防壁には吹き飛ばされたリビットが叩きつけられて血みどろの地獄のキャンバスと化としている。


『なるほど……確かに巻き込まれたら大変だ』


 クルーガの言葉の意味を知った先輩方はようやく我に帰る。


「いかん、戦闘中であった。各自距離を取ってリビットどもを門に近づけさせるな!」


「ハッ!」


◇◇◇◇◇


「おいおい、とんでもない化け物がいるじゃないか」


 防壁の上で龍児を見ていたカイラ団長が度肝を抜かれた。ゴーン教官がやや意地悪に彼女にいう。


「どうです? ヤツと闘って勝てますか?」


 教官の間では龍児と闘って勝つのはかなり難しくなってきており、よくどうやって攻略するか議論の対象となっていた。


「…………」


 彼女は暫く考えるとニヤリとした。


「まぁ、なんとかなるでしょうよ……」


「ほう、どう攻略しますか?」


 カイラ団長は虚勢ではなく本当に龍児の攻略方法をいくつか見出だしていた。


 もし地上でアレを見ていたら龍児の迫力の前に直ぐには思いつかなかったかも知れない。彼女は防壁の上から見ていたため龍児の動きのパターンが極度に少ないことに気がついたのだ。


 龍児は切り落としとぎ払いしかできなかった。それは彼が2ヶ月という短期間で力を身につける為に多くの技を身につけるより一つの技を昇華させることに時間を割いたからである。


「ではどうやって攻略しまする?」


「手っ取り早いのはヤツの長物を封じればよい。狭い場所に誘い込んでしまえばいい。沼地や砂場のように足の効かない場所でもいい」


 カイラは龍児の長所を的確に分析していた。龍児は一見パワー型のように見える。いや、実際にパワー型なのだが、彼の力の源は足腰の強さにあった。


 超重量の剣に振り回されずに扱うには大地に根を張ったかのように踏ん張れる足腰が必要である。


 そして体重移動シフトウェイトである。常に踏ん張れるようすりり足ですばやく移動を行う。


 この2つにより彼の驚異的な戦闘力が発揮されているのだからどちらかを奪えば良いのだ。


「なるほど。確かに上から見れば一目瞭然か……」


 ゴーン教官はカイラの説明に納得した。小さな村とは言え、屈強な男達を押し退けて団長にまでのし上がっただけのことはあると彼女に敬意を抱いた。


「ガチでやりあえばどうですかな?」


「それでも勝てるね」


 これも虚勢ではない。彼女は本気で勝てると思った。


「どう攻略します?」


「ヤツの懐に飛び込むまでよ。パターンは少ない。テンポも単調とあらばたやすい」


「しかし、あのリーチですよ」


「なぁに。私には経験と技術がある」


 そういって彼女は左腕のライトシールドをモーニングスターで叩く。それは技を限定してシールドで受け流して懐に飛び込むのだと彼女は言っているのだった。


「その方法は並大抵の度胸ではできそうにないですな」


「ふふふ、最もヤツがもっと技のバリエーションを増やせばそれも難しくなるがな。楽しみなことよ」


 彼女はソレを楽しんでいるのは教官だということを見抜いていた。


◇◇◇◇◇


 村の人々は龍児の圧倒的な迫力に見とれて彼に声援を送った。龍児は最後のリビット粉砕すると剣を地面に突き立てて一息ついた。


「ふー。やっとこさエンジンかかってきたのに打ち止めかよ」


 龍児は集中力が途切れると注目されて声援が向けられていることに気がついく。彼らの声に答えるべくガッツポーズでカッコをつけてみせた。


「むー我々も戦っているのだが……」


 門を守っていた先輩方もリビットを退治し終えると膨れた。だが龍児が注目を浴びるのは仕方がないと理解もできた。


 あのような派手な戦いかたは誰にでもできるものではない。彼にしかできないと分かっているからである。

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