第115話 襲撃リセボ村2

「攻撃するとしたらやはり弓か」


 龍児は嫌そうにクロスボウを取り出すと、他の皆もクロスボウを取り出した。


 龍児は正直いって弓が苦手だ。それは颯太、葵も同様なので扱いやすいクロスボウを使用している。命中率は上がったが装填に時間がかかるのがネックである。


 対して由美は自慢の改造したロングボウを取り出す。彼女のロングボウは刀夜に頼んでスタビライザーを取り付けていた。弓の反動やねじれを吸収し、ブレを押さえて命中精度を上げてある。


 刀夜の曖昧な記憶と由美の説明を元に慣れない調整を、刀夜は何度も何度も夜遅くまで根気よくやってくれたのだ。お陰で彼女の弓の命中率および連射能力は自警団一である。


 由美は刀夜のことが嫌いだ。由美も刀夜も理屈や理論を重視するがその根本は異なる。刀夜は命を軽んじている節があり、そういった点ではまだ龍児のほうが気が合う。


 だが刀夜の職人気質は信頼感がある。彼は要求以上のことをやってのける。そこに到る難問から決して逃げない。


「お前たち命令あるまで打つなよ」


 教官から釘を刺された。


 状況に飲まれて勝手に攻撃されては叶わない。初撃は大量に敵を倒す好機なのである。二激目からは警戒されて分散するので当たりにくくなるのだ。


「カルラ団長、どう戦いますか?」


 教官がカルラに尋ねた。


 団の規模はピエルバルグの自警団のほうが圧倒的に大きい。また実戦経験もピエルバルグのほうが圧倒的に多い。


 だが階級はカルラのほうが上なのだ。しかもここはリセボ村なのである。団の規定としては教官や龍児達はカルラの配下となる。


「時間を稼ぎたいので籠城戦だ。敵は城壁から内部に進行し門を開ける算段でしょう。梯子を仕かけてくるドレンチにはバリスタで、あとは弓と剣、熱湯や投石で対処」


「しかし、バリスタの数は……」


「ええ。見てのとおり3機しかない。ドレンチを殲滅するのは不可能だ。白兵戦は覚悟するしかない」


「なんにせよ門を守りきれるかが鍵ですな」


 カイラはゴーンに頷くと、防壁左翼にいる自軍に指令をだす。


「タイガ! ホーク! ホーネット! フランカ! 門の護衛に回れ!」


「ハッ! 門の護衛に回ります!」


 屈強そうな戦士達が敬礼して配置に向かう。同時に教官からも右翼にいる自軍に命令を発っする。


「クルーガ! 龍児! お前達も門の護衛だ!」


「ハッ! 門の護衛了解しました!」


 クルーガは復唱して敬礼で答える。


 龍児は自分が呼ばれるとは思っていなかったので意表をつかれたような顔をした。できることなら仲間が手の届く位置を望んでいた。


「お、俺もか!?」


「そうだ、門をやられたらDWウルフに雪崩れ込まれてあっという間に殺られるぞ。責任重大だと知れ!」


 命令とあっては仕方がない。諦めて返事をして階段を降りようとする彼に教官は声をかける。


「龍児……」


「なんだ?」


「防壁は突破されるだろう……」


 教官は敵の方向を向いたまま、重そうに語りかけた。そんな雰囲気に龍児は喉を鳴らす。教官は首だけ曲げて龍児の顔をみる。


「お前のバスターソードは下のほうが生きる。リセボ村の連中に見せつけてやれ……」


「!」


 教官からこうも期待されたのでは答えたくなる。龍児は自身にカツを入れた。


「おうよ! 仲間の事は任せたぜ」


 彼はガッツポーズで防壁の階段を降りていった。


◇◇◇◇◇


 村内部では会戦の準備でてんやわんやであった。自警団OBが再び剣を手にして村人達に指示を出している。


 門が突破された場合を想定してバリケードを組む。


 村中から矢や武器、盾をかき集める。


 防壁戦用にお湯を沸かす。


 鍛冶屋は矢尻の量産を急ぐ。


 負傷兵を集める施設を準備する。


 リセボ村では医療魔術師はマスカーという青年一人しかいない。ピエルバルグの魔術ギルドにもっと増やして欲しいと再三頼んだが人手不足を理由に一人しか送られてこなかった。


 平常時であれば彼一人でも良いがいくさとなれば話は別である。


 しかしピエルバルグの魔術ギルドは送ってもらえるだけだもありがたいと思えと言う。高飛車ではあるが実際、魔術師は貴重であり人数がいないのが現状だ。そして才能が絡む分、自警団のように簡単には補充できない。


 彼は自身の信仰している親愛なる神、メェルスに祈りを捧げていた。彼は不安だった。この後に起きるであろう大量の負傷者に対処しなくてはならないからだ。


 この世界の魔法はゲームのように魔力だのMPだのそのようなものはなく魔法はマナさえあればいくらでも発動できる。そしてマナは至るところに存在する。


 ところが魔術を発動する際には全身にマナが流れるため体内が傷つくのである。多少酷使してもそうそう死ぬようなことはない。筋肉を酷使したら筋肉繊維が断裂して筋肉痛になるのと同じレベルである。


 しかし限度を極端に越えると死に至ることがある。彼は神に命を捧げた以上、ヘドを吐いても魔法を唱え続けるだろう。


 痛みを堪えて再出陣する兵をみて自身の限界を越えるかも知れない。彼にはそのような経験がないため自分の限界が分からないのだ。


 彼は神に祈りを捧げる……


◇◇◇◇◇


「敵! 進撃!!」


 見張りに着いていた自警団の団員が大声を張り上げる。ついに敵の進撃が始まった。


 そのような中、防壁の上で颯太は望遠鏡をずっと覗いていた。初めて見る敵をどう攻略するか考えていたのだが、彼は別のことに興味がわく。


「なぁ……」


「…………」


「おいってばよ!」


「ん? あたしにいっていたのか?」


 由美は自分に語りかけられてるとは思ってもみなかった。


「そうだよ」


「すまん。で、なんだ?」


「敵のあの梯子ってさ、ヤツらが作ったのか? 随分頑丈そうだけど……」


「いや、そんなの私に聞かれも……答えれると思うか?」


「――そりゃそっか……」


 颯太は望遠鏡を覗きながら問答する。彼は単に気になっただけである。他愛のない単なる会話のつもりだった。


 だがその言葉は団長と教官の耳に入り、彼らはギョっとした。慌てて望遠鏡を覗きこむ。


 梯子の長さは約8メートルから10メートルほど。全体は木でできているが補強の為に金属をあしらっている。しかも先端にはご丁寧に防壁に固定できるようハーケンまで付いていた。


 二人は悩む。あの梯子をその辺りから拝借したのか、連中が作ったのかでことは大きく異なる。


 もし前者ならあまり問題にはならない。だがそんな都合よく手に入る分けない。だが後者だった場合は厄介なのだ。


 いま眼前にいる敵には梯子を作れるモンスターはいない。であればどこかにその敵がいるということになる。


 それも梯子を作れるほどの知能をもったモンスターか、まだ見知らぬ何かがあるのか。


 カイラは念のため四方の警戒を厳にと激を飛ばした。

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