第114話 襲撃リセボ村1
リセボ村は人口6000人ほどで、村というには少々大きい。主な産業は畜産と農業でピエルバルグに下ろして生計を立てている。
元々、彼らはここより南東の街に住んでいた者達である。100年ほど前に頻繁にモンスターの襲撃を受けるようになり、金持ちの一部がピエルバルグの街に移籍した。
だが襲撃の威力は増すばかりで残っていた彼らはとうとう街を捨てざるを得なくなる。
先にピエルバルグに移り住んだ金持ちは難民となった者達のためにリセボ村を作って彼らを助けたのだ。
だがそれでも収容できなかったのでリプノ村が作られた。そして元住んでいた彼らの街は廃墟となり、今ではモンスターの巣窟となっている。
金持ちが出資しただけあってブランキのいたプルシ村に比べれば村の防壁はしっかりとしている。
訓練生達はそんな村の防壁の門を潜った。さすがにずっと馬に乗っていると股間が痛い。初めて馬に股がって訓練していた頃を彼らは思いだしそうだった。
だが目的地に着いたからといってゆっくりはできない。寝床は村の自警団が用意してくれてはいるが、それ以外は自分達でやらなくてはならない。
馬小屋に馬を運んで餌を与える。自分達の食事を自炊する。食ったら食洗、掃除、寝床の用意、明日の準備、そして訓練。
やることは多く、疲れはてて爆睡する。
夢を見る暇もない。
◇◇◇◇◇
朝日が昇ると同時に村の半鐘がけたたましく鳴った。訓練で慣らされた訓練生は一斉に目を覚まし、急いで装備を整える。
「なんだ! 聞いてないぞ! また抜き打ち訓練か!?」
「あの教官達ならやりかねぇ」
急いで着替えつつも訓練生は笑い声を上げた。
突如、部屋の扉が勢いよく開く。
すでに装備を整えた禿の教官の怒鳴り声があがる。
「実戦だッ!! 各自早急に装備を整えろ!」
訓練生たちは硬直し青ざめた。実戦を想定した抜き打ち訓練はよくある。だがそれと異なるのは教官が殺気だっていることだ。つまり本当の実戦なのだと直感で分かった。
◇◇◇◇◇
防壁の上でリセボ村の自警団が緊迫した状況で遥か先の草原を見つめていた。団長の覗く望遠鏡の先には大小様々なモンスター軍団が黒い塊となっている。
ざっくりと数えても200は越えていそうであった。対してリセボ村の自警団はわずか50名ほどである。
厳しい表情でモンスター軍団を見ている団長に教官が尋ねた。
「カルラ団長、どうですかな?」
「ゴーン部長……」
年配のカルラと呼ばれた女性はこのリセボ村自警団の団長である。自警団のマークの入ったフルプレートと団長である証の赤いマントを着用している。
いかつい男どもをまとめ上げているだけに、かなりの強面をしている。
彼女は使っていた望遠鏡をゴーン教官に渡した。受け取った教官は望遠鏡を覗く。
「
基本的にこれらモンスターは別種同士が共に行動する事などない。縄張りを争いで戦ったりするほどである。なにのに共闘して村や街をこうやって襲ってくることがあり、それはずっと謎とされてきた。
「大半はリビットですか……」
「だが敵の中に妙なものが一匹混じってる」
そう言われて教官は中央にいる異形な姿のモンスターに驚きを隠せなかった。回りにいるドレンチとリビットから身長は推定3メートルほど、色は黒く触手のようなものが生えている。
連中とは距離がありすぎて望遠鏡の倍率ではあまり詳しくは分からないが、異様な雰囲気を醸し出していることだけは確かであった。
「見た感じではグリグリンというモンスターに似ているが、あれは変種体かも知れない……」
「聞いたことのないモンスターですな」
「正直申いうと私も見たのは初めてだよ。かつて私たちの先祖が住んでいた街を襲撃された際の記録書物にあったモンスターに特徴が似ている」
「ふむ、なんにせよあれだけの数、相手するのは難しいですな……ピエルバルグへの応援が必要でしょう」
「それならすでに早馬をだした。昼過ぎには着いているはずだ」
「となれば先鋒の第一陣の到着は夜中ごろか」
龍児達はフル装備による訓練なので移動には1日を要したが、軽装で最小限の装備と屈強な足腰を持つ馬に乗る早馬隊なら半日で駆けつけてくる。
ただし人数は20から30名程度である。
龍児たち訓練生も防壁からモンスターの一団を望遠鏡で覗いていた。変異体の一匹を除けば座学で習ったモンスターばかりである。
とはいえ実物を見るのは初めてだ。
「あの背の高いヤツがドレンチってヤツか。本当に木みたいなヤツだな」
「梯子を持ってるわね」
由美が嫌そうにした。
ドレンチの身長は約4メートルほどである。一応生物ではあるが表皮が固くなっており、ひょろ長いので木のように見える。
このモンスターに由美の矢は通らないので不利であった。さらに動きはトロいが力はかなり強い。
武器は大きなこん棒を使ってくるが今回は対防壁用の梯子を持っている。
「あれを壁に引っ掻けてリビットどもを侵入させようって腹か。モンスターの癖に知恵使ってんじゃねーよ。まったく」
颯太が悪態をつく。
「そのリビット、数がめちゃくちゃ多いよぉ~」
葵がうんざりっといった感じで気分が悪くなりそうであった。
「まるでゴブリンみてぇ」
「いえ、餓鬼でしょ」
「いやいや、あれはゴブリンだろ」
「餓鬼です!」
「ゴブリン!!」
「餓鬼!!」
「どっちでもいいわよ! そんなの!!」
颯太と由美の言い合いに葵が怒る。ただでさえあれを相手にするのかと思うと
「あとは犬みたいなDWウルフか、あの一本角で刺されたら一発で死にそうだな……」
「うわぁ~想像したら鳥肌たった!」
葵は寒そうにブルブルと震えた。
当然であるDWウルフは人の身長より大きい大型の狼のような獣で白い毛皮に黒の斑模様。頭から生えている角は龍児の使っているバスターソードよりかは短いが刃渡りは遥かに大きい。
あんなもので貫かれれば下手すると真っ二つになりかねない。
ただの訓練のはずだったのに……
四人はなぜこのような事になったのかと、ため息が漏れた。
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