第112話 それぞれの才能

 龍児、颯太、由美、葵が自警団に入ってもうすぐ2ヶ月が経とうとしている。


 訓練期間がたった2ヶ月という非常に短いために彼らの訓練内容は濃密であった。


 自警団に人員の余裕が無いため訓練期間を短く最低限として残りは実践配備の中で培っていく方針となっている。


 この世界での一般知識が大きく欠落している彼らには非常に困難な内容で特に筆記は訓練後のフォローでもどうにもならない状況である。


 教官の下した判断は実践配備後に学校に通ってもらうこととし、ここでは基礎体力や実務で必要な技能の強化中心に行うと結論をだした。


 佐藤龍児は元から基礎体力が化け物じみており、新人の中では断トツである。


 剣技においても吸収力は高い。また訓練用の通常サイズの剣では彼の体格に合わないために教官から両手剣のバスターソードを渡されるとまるで水を得た魚のように使いこなしてしまう。


 彼に問題があるとすれば防御面と周りを確認せず突っ込んでしまう辺りで、特に後者は何度も注意されている。


 だが厄介なのは彼は悪手と思われる手段でもそのパワーで状況をひっくり返ししまうことが度々あり、教官のいうことをあまり聞かないことである。


 とは言え、今回の訓練生の中では彼の能力は断トツであることは変わりなく、レイラの見込を証明したこととなった。


 久保颯太は四人の中では一番基礎体力がなっていない。日々の喫煙が祟ったのであろう。だが彼は根性があり、何とか訓練にはついてはきていた。


 剣技においては中の下といったところで、これは今回の新人の中ではほぼ底辺であった。


 だが彼は意外な所で思わぬ才能を発揮する。タッグ戦において彼と組むと勝率が上がったのである。


 颯太は直接的な戦闘は避けつつも周りをよく見て投げナイフをうまく使い、パートナーを有利に導くような行動を取ることに長けていた。


 他にもトラップ探知の才能も良い評価が現れた。


 姫反由美は弓道部のエースだけあって、今回の新人の中では長距離攻撃で断トツのトップである。反面、近接戦闘は最下位となったが秀でている部分が突出しているので特に問題視はされなかった。


 しかしながら由美は最下位という位置付けが気に入らないらしく、ショートソードを使っての鍛練には力を注いでいる。


 葵は小柄な身の丈とバスケで鍛えた俊敏な動きで密着するほどの至近距離戦を得意としていた。回り込むような動きでフェイントを交えて、相手の懐に飛び込み一撃を決めるタイプであった。


 この戦法はかなりの肝が据わっていないとできないのだが彼女はやってのけたのである。


 そして葵の武器はショートソードから小太刀に切り替えていた。それは風呂を借りた際に刀夜から渡されたものだ。


「葵ちゃん」


「ん、何?」


 風呂あがりに団扇うちわで頭を乾かしていた葵に晴樹が声をかけた。


「さっき話していた戦法、本当にやるつもりなの?」


「うん。そうだけど?」


「危険すぎるよ」


 晴樹が心配してくれるのは嬉しかった。だが葵が自警団でやっていくにはその戦術しかない。颯太のように投げナイフも試してみたがしっくりとは来なかった。


「でも……あたしはリーチもないし、力もないし、力のある男の人とかに対抗できるのってスピードしかないから……」


 葵は心配してくれた晴樹に苦笑いを返した。彼女は危険なのは重々承知している。だが訓練期間中に他に良い戦法を思いつかなかったのだ。


「葵、その戦い方をするなら相手は一撃で仕留めないと危険だぞ」


 今度は刀夜が危険を促した。


「わかってるわよ」


「ハルに急所の仕留め方を教わっておいたほうがいい。それから武器はこれを使え」


 刀夜は小太刀を2本と複数の丸い玉、そして小箱を渡した。


「これは……」


「小太刀だ。非力なお前でも軽く切り裂くことができるだろう。使ったら俺の所に持ってこい。メンテするから」


「あ、それ、カリウスの時に作ってた試作品のヤツだね」


「試作でもバッチリ斬れるよう研いである」


「あんがと」


 葵が小太刀を手にしてみるとそれはショートソードより遥かに軽るかった。それでいて刃渡りは同等である。


 相手を仕留める際にどうしても剣が重いためにワンテンポ遅れてしまうのが彼女の悩みであった。たが小太刀の重さならその問題を克服できそうであった。


 葵は気にしてくれた二人にお返しとばかりに笑顔を送る。しかし気になるのは丸いのと箱である。


「この丸いのは何?」


「それは、マグネシウムを使った発火弾だ。割ると水と大気に反応して発火する。相手の動きを止めるのに有効だ」


「へ、へぇー」


 葵は困った。それは持ち運ぶこと事態が危険ではないかと……転んだ拍子に割れたら自分が酷い目にあいそうな気がする。正直なところ喜んで良いのか悩む。


「こ、こっちは何かなー」


 こうなると箱のほうも嫌な予感がしてならない。葵が箱を開けると中から鉄製の小さなトゲトゲが一杯出てくる。


「何コレ?」


「マキビシだ」


「…………」


「…………」


「…………」


 小太刀、発火弾、マキビシ……連想できるものは一つしかない。葵はコメカミに血管浮きあげて拳を震わせて問う。


「ねぇ、刀夜はあたしを何だと思ってるの?」


「NINJA?」


 刀夜の頭から煙がブスブスと立ち上がった。確かに葵のその技は忍者といえばそのように見えなくもない。思わずどこぞの隠密のように成敗と言いたくなる。


「まぁまぁ、でも役に立つのは間違いないよ」


 晴樹になだめられて、結局彼女は全部もらうことになった。だがマキビシは鉄靴すら貫く本物であったのに対して発火弾は刀夜のジョークだった。

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