第111話 賢者の弟子
拓真達は一体どうやってこの世界にきたのか?
帰る方法はあるのか?
せめて帰る方法でもあれば彼の生きてゆく目標となるのだが。拓真は自分が異世界人であること、ここに来た経緯を詳細に語った。
「い、異世界人……」
アリスは驚いた。いや信じなかった。
「あ、あははは。もう拓真はジョークうまいッスね…………」
「…………」
「…………」
「あ、あれ……師匠……タクマ?」
重い雰囲気にアリスは冷や汗を流す。
「マジ?」
沈黙のあとマウロウはようやく重い口を開いた。
「拓真よ、自分が異世界人であるなどと二度というでない。命にかかわるぞ」
「…………はい」
拓真は返事をしつつも、ではどうやって帰り方を探せば良いのかと納得いかなかった。
「ふぅーーーーーむ。異世界に通じる嵐か……残念じゃが聞いたこともないな。いかに魔法といえど現実的ではない」
「師匠、拓真の話にあった金属の筒というのが気になるッス。帝国時代文明のものでしょうか?」
マウロウは長い
「わからん。帝国文明については資料がまだまだ少ないからのぉ。近いものなら転送魔法のトランスファー……」
拓真は『転送』という言葉に期待が高まり、思わず興奮気味にマウロウに尋ねた。
「そ、それはどんなものですか?」
「これこれ、落ち着け。トランスファーはお前さんの期待しているような魔法ではない」
「そ、そうですか……」
再び落ち込む拓真にアリスが説明をした。
「魔法トランスファーは二ヶ所の魔方陣の間を行き来する魔法ッスよ。つまり一度、目的地に赴いて魔方陣を描かないと行き来できないッス」
「同じ世界間でないと成立しない魔法じゃ。だから異なる次元の異世界と繋げるような魔法ではない」
「そうですか……同じ世界…………」
拓真は可能性を断たれて再び落ち込もうとしたが、このとき彼のカンは冴えていた。
「……異なる次元……移動魔法……同じ世界…………」
拓真はハッとした。
「同じ世界!」
突然拓真が叫んだので二人は何事と目を丸くする。
「タクマ?」
拓真の頭のなかには今2つの可能性を見いだしていた。
「マウロウさん、時間を超越するような魔法はありますか?」
「時間を超越? ふーむ」
マウロウは考えだした。
拓真が思いついた可能性の一つは、この世界は遥か遠い未来の地球の可能性である。
天文部の金城が月や星座が異なるといっていたが、もし何十億年も経っていれば星座の位置など変わっている可能性がある。銀河系はゆっくりと回転しているのだから。
月とてどんなことになっているか分かったものではない。生物も新種が多く生まれているはずだ。
「なかなか難しい質問じゃな。無いといえば無い。有るといえば有るかも知れない」
「え、どういうことッスか? 謎かけみたいッスよ」
拓真は訳が分からないといった顔をする。アリスにいたっては、また知ったかぶりかと警戒した。
「時間を超越する直接的な魔法は聞いたこともない。じゃがトランスファーのように異なる地点を一瞬で移動する魔法は存在する。どうじゃアリス、なんか気づかんか?」
「ええー」
アリスは悩みだし、悶絶し、色々と変なポーズ取り出した。
「相変わらず悩むとソレか」
マウロウはアリスが悩む姿に笑いを飛ばした。拓真も必死に考えるがもうひとつピンと来ない。
「『一瞬で』じゃよ。魔法とはいえ物理的な移動は時間を消費するものじゃ。なのにトランスファーは距離に関係なくほとんど時間を消費しない。おかしいとは思わんか」
「あー確かに……変ッスね」
「呆れたの、しょっちゅう使っておるのに気づかんとは……」
「慣れすぎて、もうそういうものって感じッス」
アリスは自分で頭を叩いて舌を出した。良い歳して小学生にしか許されないような態度に拓真は哀れな目線を送る。
「古代の魔法にはまだ判明していないことが多い。それらを解き明かして我がものとする。古文書を解析するだけが賢者ではない。しかと心に止めよ」
「はいッス」
「はい!」
マウロウはアリスにいったつもりだったが拓真も元気よく返事をした。それは釣られたのではなく単に感銘を受けてのことであるが……
そんな拓真は二人に笑われてしまった。
「これはワシの持論となるが、トランスファーでの移動中は時間の流れが逆行しているのではないかということだ」
「つまり過去へと飛んでいるってことッスか?」
「そういうことだ。本来の時間と同じ時間だけ逆行するのだ」
「そりゃ、いくらなんでも飛躍してませんか?」
「仮設して実証する。研究とはそんなもんだ。だから面白い」
「まぁ、そこは分かりますがね……」
拓真は話がどんどん脱線していることに少々ウンザリし初めていた。
「過去への話は分かりました。ですが未来へはどうなんでしょうか?」
「未来か、極限にまで加速させれば……などという話もあったが、常識的に肉体が耐えられんじゃろな……」
拓真は考え込んでもうひとつの可能性である地球から遥か離れた同じ銀河、もしくは同じ宇宙にあるこの星に飛ばされた可能性のことを聞いてみた。
「もし、ここが異次元の世界ではなく銀河系のどこか別の惑星だとしたら……別の惑星からここへ飛ばすことは出来ますか?」
「む?」
「ぎ、銀河系? 別の惑星? なんスか?」
アリスは目を丸くして意味がわからないと言った感じであった。マウロウもよくわからないと言った感じだ。
「えっと、つまり……この空の上の遥か先。アリスさんがいっていた宇宙の遥か先。この星に似たような別の星から僕たちを飛ばしてくるなんてことが可能なんでしょうか?」
「トランスファーでは無理じゃが、異次元よりかは可能性が高そうな話じゃの。じゃがそんな魔法は知らんな」
「そうですか……」
拓真は良い閃きだと思ったのだが振り出しに戻ってしまったような気分に陥った。
「じゃがな、拓真よ。その思案は良いぞ。特に後者のは完全に否定できん。トランスファーのような魔法があるのじゃ、もしかしたらあるのかも知れんぞ」
マウロウの言葉に拓真は可能性があるのかと期待に満ちた。
「どうじゃ拓真、ワシの元で研究にいそしんでみんか?」
「え……いいのですか?」
「ああ、かまわん。但しワシの研究の手伝いもするのじゃぞ」
「は、はい。是非お願いします!」
アリスは嬉しそうな顔をする。
「これでタクマはあたしの弟弟子ッスよ」
「は、はい。アリスねえさん! 宜しくお願いします」
アリスは姉と呼ばれたのが相当嬉しかったのか、ニンマリと不気味な笑顔を向けると拓真を抱きしめて小躍りを始めた。
拓真はここで帰る方法を探すこととなった。それは彼にとって生き続ける理由となる。智恵美先生が命をかけて守ったもの、それは皆を元の世界へ返す望み。
拓真は自分に託されたのだと心に刻んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます