第3章 戦慄の巨人兵編
第107話 生きていた拓真
ザーーーーーー。
川の流れる音が絶え間なく聞こえ続けている。
たまらなく
すると口の中に水がガボガボと雪崩れ込んでくる。
苦しい。もう入らない。飲めない。呼吸ができない。肺に水が入る。
止めろと叫ぶこともできない。
男はどうやら水中のようだ。
水面から誰かが両手を広げ迫ってくる。
彼女? 知ってる。誰だ?
忘れてはいけない。誰だ?
命の恩人だ。誰だ?
「さぁ、目を覚ましなさい」
彼女の
「智恵美せんせええええぇぇええッ!!」
拓真は号泣しながら目を覚ました。
見開いた目に飛び込んできたのは 所々に葉っぱが生えている一風変わった木の天井……辺りを見回すと見覚えのある街の建物の部屋とはまったく異なる部屋だ。
また別世界にでも紛れこんだような感覚に
一見ログハウスのような部屋だが至る所から天井と同様に若々しい葉っぱが生えていて生々しさが漂う。異質な雰囲気に羽の生えた妖精がでてきても驚かない自信がある。
拓真は体を起こすと布団がはだけて妙にスースーとする。視線を落とせば自分は何も身に付けていない状態だと気がついた。
一体誰が脱がしたのか?
気絶してるのを良いことに
諦めてうなだれると自分の腕の傷痕が目に入り、あれは夢ではなく現実に起こったことなのだと思い知らされた。
大きな悲しみの波が押し寄せ、再び拓真は水の底へと引き込まれた。
◇◇◇◇◇
暗闇の中を馬車が暴走した。
拓真は馬をコントロールしようと試みるがうまくいかない。振動が大きくて暴れる馬車から落ちないようにすることで精一杯であった。
智恵美先生は頭を抱えてうつ伏せになっているが、ずっと半狂乱気味で泣きわめいたままだ。山賊の嫌がらせの攻撃が心底恐ろしかったのだ。
片柳
拓真は龍児達の馬車を探すが周りは月明かりもない漆黒の闇で見えるはずもない。彼らどころか自分達がどこを走っているのかすら分からないのだ。
後ろから馬に乗った山賊が二人、いまだに追いかけてくる。振り向いて彼らを確認した拓真はしつこい連中だと腹立しく思う。
この馬車にはもう彼らが狙っている荷物はないというのに。であれば彼らが追いかける理由はひとつしかない。智恵美先生と咲那だ。正確には女性だ。
連中とは荷物を放り出した際に大きく距離を空けてはいるがランタンの光で馬車の位置は明らかだ。
加えて彼らが使っている馬は拓真たちのと異なり、夜目が効く種の馬だ。もっとも両者とも馬に似ているだけで地球の馬とは異なるのだが。
拓真達が乗る馬車の右前方奥に松明の灯りの集団がどこかに向かおうと疾走していくのが見えた。それは山賊の別動隊である。追いたてられた商人の馬車に止めを刺しに行ったのだ。だが拓真の位置からでは、それがなんだったのか分からない。
この時、龍児達が商人の馬車を降りていなければ彼らに襲われて二度と帰らぬ人となっていただろう。
拓真達の馬車はやがて岩場と崖からなる渓谷のような場所を走っていた。それはもはや道と呼べないような所で、馬車はさらに激しく揺れていつ壊れてもおかしくない。
突如、大きな岩に当たって馬車の片輪が大きく跳ねた。腹の底から打ちつけるような強い衝撃を喰らい拓真達は宙に投げ出される。
馬車が横転すると三人は幌の布越しに地面に叩きつけられた。骨が折れるかと思うような痛みを伴う。
「ぐうぅぅ、いつつ……」
打ち付けた肩を
何しろ地面は岩だ。暴れた馬の速度で転倒するのはかなり危ない。幸い骨は折れていないようだが、打ち身でかなり痛みを伴っていた。
「先生……咲那……無事ですか?」
拓真はうめき声をあげている二人を心配した。二人は折り重なるように倒れていたが意識があるようなのでひとまず
拓真は落ちていた剣を拾い、杖代わりにしてよろよろと立つ。腰も打ちつけていたようだがこちらは肩ほど酷くはない。
「先生……咲那……」
拓真はもう一度声をかけて、彼女達の意識レベルを計った。
「うう……」
短いうめき声と共に咲那が上半身を起こす。背中の皮が裂けたところが痛い。咲那からは傷の程度は分からなかったが動くことには支障はないと判断した。
彼女は起き上がると下敷きとなった先生を心配した。
「センセ……先生……」
咲那は智恵美先生の体を揺すると先生は少し唸って目を開けた。
「な、なに……片柳さん、河内くん」
先生は体を起こすが背中と後頭部を打ち付けたのか痛たがる。しかし転倒の衝撃のおかげなのか彼女はパニック状態から落ち着きを取り戻したように見えた。
「先生、動けるなら早く移動しましょう」
拓真が手を差し伸べて先生を立たせると、咲那も立ち上がって馬車の外へとでる。辺りは暗闇でよく見えず、ランタンの向きを色々と変えて照らした。
彼らはどこかの岩場に入っていた。大きい岩がゴロゴロとするなか一方は崖となっており、遥か下に川が流れている。
ランタンで照らしても底は見えないが水の音が大きく、水の勢いは相当速いと思われた。
「これは落ちたら死ぬな……」
崖を覗きこんだ拓真の体がぶるっと震える。足を滑らせてはかなわないと後に下がった。
「ともかくどこか隠れないと」
恐らく追撃はやってくる。ランタンを持ったままではすぐに場所がばれる。拓真がランタンを捨てたそのとき、馬の蹄の音が駆け足で近づいてきた。
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