第96話 就職先を探せ

「ねぇ、美紀達はお金とか稼いでいるの?」


 葵はふと疑問に思ったことを尋ねた。


「私と梨沙は討伐報酬が残っているけど……刀夜が私達にも出来る仕事を割り振ってくれているからお給料をもらっているわ。1日銅貨10枚」


「安っす! そんな低賃金で働かすとかブラック企業かよ!」


 颯太が金額の安さに驚く。銀貨に換算して月15枚。この世界における街での一般月収入は銀貨25枚からで多い人で100枚ほどである。


 だが颯太の言い分に対して美紀は指を指して怒った。


「何言ってんのよ! 三食寝るとこ付きで毎日風呂入れるのよ。あんたなんか人に給料払える甲斐性すらないじゃない!」


 美紀の突っ込みにぐうの音も出ない颯太は悔しそうに歯ぎしりをした。


「お風呂! 羨ましい!」


 葵がうらやむ。何しろ刀夜の家を出てからは節約でずっと風呂に入っていない。頭は痒くなるし何より体の臭いが気になった。そしてそれは由美も同じである。


「刀夜様はいつ入りにこられても良いと言っておられました。女の子には酷だからと……」


「あう~ッ」


「ああ言って飛び出した手前、戻るのはちょっと」


 葵と由美は刀夜に飛び出した後の展開が読まれていることを悟る。まるで手の平で踊らされているような気分となり、釈然としない。


 刀夜はリリアに彼らがプライドを優先しいる内は連れて帰るなと言われている。


「あのー、皆さんお金が無いのですか?」


 リリアが皆の様子から状況を察した。


「無い。なぁ、コネとか無くとも働ける先は無いのか?」


 龍児が尋ねる。こうなったら彼女の知識を借りるしかない。背に腹は代えられないし、刀夜に頭を下げるよりかはマシである。


「そうですねぇ、個人的にお店の人と仲良くなるとか……」


「時間がかかるのは無理よ」


 由美は金銭的にそんな猶予は無いので却下した。リリアは顎に指をあて該当しそうな職種を記憶から探してみる。


「ならば、しがらみの無い職種とかなら雇ってもらえるかと」


「それはどんなんだ?」


「……傭兵とか」


 皆の頭がガクリと落ちた。


「ちなみに傭兵ってどんな事するんだ?」


「主に商人の荷車の護衛とか、自警団からの臨時討伐依頼とかですが死亡率の高い任務が多いので、余程の実績が無いと……」


「あたしーむーりー」


「私も」


 二人はつい先日の山賊襲撃事件で新人君と歴戦の者達がどうなったか思い知ったばかりである。その他にも闇家業などもあるが大半が犯罪者となるのでリリアはそれは口にできなかった。


 荷物の護衛などは襲撃が無ければ楽な仕事ではある。だが一度襲われたら最後となる可能性が高い。


 何しろ襲う側は勝てるか判断してから襲ってくる。襲われる側は襲われた時点で負けが確定したようなものだ。


「龍児、何考えてる? 止めとけよ、死ぬぞ」


「わーかってるよ。だけど他に選択が無いなら……」


 龍児が言葉を詰まらせた。そこまで命をかけるようなことではないし、ついてきた3人にそんな危険な橋を渡らせるわけにはいかなかった。


 最悪、奴に頭を下げるしかないと龍児は考える。


「自警団はどうですの?」


「自警団は傭兵より遥かに良いですよ。しっかり訓練を積ませてもらえますし、熟練者も多いです。余程の事が起こらないかぎりは死ぬことも少ないです。ただ、あそこは信頼性が重要なので推薦が無いと入れません」


「だめかー」


 葵が再び項垂れると、龍児が大声を上げて立ち上がった。


「あーッ! そう言えば俺、レイラさんに誘われていたんだった!」


「レイラってこの間、家に来られた自警団の?」


 リリアは龍児を訪ねてやって来た自警団の女の人を思い出す。赤い瞳が印象的な人であったので彼女はよく覚えていた。


「リリアちゃん記憶力いいねー。確か副隊長だったかな」


「え、それって凄いコネですよ」


 リリアは彼女がそんなに偉い人だとは思っていなかった。人を呼びに来るなど基本的には下っ端の仕事だからだ。


 それなのにわざわざ副隊長が迎えに来るということは龍児は彼女にかなり気に入られていることになる。彼らが入団できる可能性はかなり高いと思った。


「よっしゃ、じゃあ早速会いに行こうぜ」


 龍児が荷物を拾い上げると皆も立ち上がった。


「リリアさん助かりましたわ。ありがとう」


「ありがとねリリアちゃん」


「お役に立てて良かったです。私もそろそろ戻らないと」


「こっちこそ引き留めてゴメンね」


 皆がゾロゾロと出ていこうとすると、ウェイターから嫌みを言われる。


「今度は何か注文してよね!」


 そんな彼女に龍児は済まなさそうに苦笑いで謝る。だがウェイターは期待していないと腕を組んでため息をついた。

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