第57話 策士美紀
男子が戦い方について興じている頃、女子は恋ばなで盛り上がっていた。無論こんな話題を振り
「ねぇ、もし、もしもの話よ。帰れないとしてここでずっと暮らすとしたら皆は誰と暮らすの?」
美紀は目を輝かせて皆の反応に期待を寄せた。
「先生はもちろんブランキさんだよねぇ~」
美紀は今朝の一件を思い出して流し目でニヤニヤとした。
「そんなの決めていません!」
智恵美にしてみれば今は恋愛どころではない。教師として生徒達を守らなければならない。そんな使命にかられていた。
ただその重荷に、もし何かにすがり付けるなら人生のパートナーよりは希望や神にすがり付きたい気分である。
「葵ちゃんなら誰?」
「ん~無難に晴樹くんかな」
彼の名前が上がったことに梨沙が顔をひきつらせた。例え話でも片想いの相手を名乗られたら、さすがに気が気ではなく面白くない。
「お~、梨沙ちゃんと被ったね」
「ちょ、ちょっと何言い出すんだよ、私は何も言ってないだろう!」
梨沙が焦って美紀に突っかかる。まるで今の自分の気持ちを見透かされたかのような気になったからだ。
梨沙が晴樹のことを好きになったのは実にベタな内容である。晴樹はつんけんしている自分にも気さくに話しかけてくれる。
そして決定打となった事件は他の不良とやり合ったときだ。一対複数という不利な状況で彼が割って入って止めた。相手側の怒りは晴樹にも向けられることとなるがその時に普段とは異なる威圧力を彼は見せつけた。
以来、彼に興味を持つようになり何度か後をつけてみると彼は剣道部の有名人だった。それもかなり強い。
だがそんな彼の周りにはいつも女子が取り巻いているので近寄ることができなかった。自分は不釣り合いだと勝手に決めつけ、この想いを心の奥に閉まった。それ以来ただ彼を見つめることしかできなかった……
「もぉ~今さら隠したってみんな知ってるから意味ないよぉ。梨沙ちゃんって可愛いんだから」
バレバレだった……
「ち、ち、ち……」
梨沙は照れ隠しで『違う』と言いたかったが、それでは彼への思いまで嘘になりそうな気がして何も言えなくなる。
「ば、ばかぁ!!」
他に言葉が思いつかなかった彼女は立ち上がって荷物の裏へと隠れて縮こまってしまう。
「梨沙さんって本当に変わったわよね」
智恵美先生が昨日にも思ったことを再び口にした。
「変わったと言うより、こっちが本来の梨沙なんだと思うよ。色々
ひどい言い様である。
「負けてないし、メッキじゃない!」
物陰から聞いていた梨沙が全否定するが、どう聞いても負け犬のなんたらにしか聞こえない。彼女の中で認めたくないという想いが筒抜けで思わず皆は笑ってしまいそうになる。
美紀はそんな彼女に半ば呆れて仕方が無いと言った感じで肩を
「でも、私は今の梨沙さんのほうが好きですわ」
「おお、これは意外なカミングアウト発言。舞衣さんは梨沙さんが好きと」
葵はわざと意味を履き違えて舞衣をからかい始めた。このまま順番に普通に聞いて回るより面白そうだと思ったからだ。
「ちょっと葵さん。何でそうなるんですか!」
予想通りの真面目な返答が帰ってくる。
「ん? やはり拓真くんのほうが良かった?」
「それも違います。特定の相手はいません」
「えーッ。それ、つまんなーい。テキトーでもくっ付けて遊びたーい」
葵は子供のように駄々をこねだす。美紀もそうだが彼女も類友でこの手のくっついた離れたと言った話には目がない。
ただ、それだけなら他の女子も同じではあるが彼女の場合は相手が必ずしも男女とは限らず無節操である。
「もし生き残ったのが舞衣さんと拓真くんだけなら、この地でアダムとイブなってもらって生まれてくる子に私達の名前をつけてもらうの。頑張って29人産んでね」
「産めません!!」
葵のからかいがエスカレートし始めたので美紀が助け船をだすことにした。ただし他の女子が思いもよらぬ方向へと。
「いやいや葵殿。生き残るのが必ずしも男女とは限りませぬぞ。男X男やも知れませぬ。ふふふふ」
「おおう。するってぇと龍児と晴樹とかか」
「拓真と晴樹、刀夜と晴樹も捨てがたいわよ。ふふふふ」
「受けの晴樹は外せませんなぁ~」
「ぬふふふふふふふふ」
怪しげな会話に晴樹がくしゃみをした。
「こ、恋ばなが腐っていく…………」
由美が
「じゃあ由美は誰がいいの?」
「…………」
由美は真面目に考えだす。だが即答できるような相手が思い浮かばない。しかたなく彼女は消去法で考えてみた。
まず颯太は論外、お調子者の印象が好みではない。拓真は真面目だが日々の生活であの調子で会話していたら疲れることこの上ないので却下。
龍児は悪くない。長身の自分が並んでも、あの巨体なら目立たないだろう。だが後先考えない性格はいかんともしがたい。
刀夜は見た目は今一だが生活力は高そうな気がする。だが日々の会話はとても詰まらなさそうだ。自分もペラペラと喋るほうではないので静かな生活も悪くないが、さすがに毎日は退屈だ。
となると結局この話は誰もが無難な晴樹を選ぶのではないかと思えてきた。
「――由美、そんなに真剣に考えなくてもインスピレーションで答えてよ」
中々答えずに腕を組んで真剣に考え混んでしまった由美に葵はせかした。折角の話のテンポが阻害されてしまったからだ。
「そうねぇ、晴樹くんかしら。次点で龍児か刀夜かな……」
「おーまたまた出ました晴樹くん。さすがイケメン。ガンガンポイントを稼いでます。完全独走状態です。こうなってくると二位争いに注目が浴びる!」
葵はまるで実況中継のように司会を始めた。話を振ったのは美紀だが、ここに来て葵のエンジンは最高潮となる。
「
「……男……キライ……」
「――予想通りの展開だったね」
美紀が念のため聞いてみたものの予想通りの返答であった。一体なぜそこまで男がキライなのか疑問に思って聞いてみようとするが舞衣に先を越されてしまった。
「まだ美紀さんのを聞いてませんわ」
「あたし? んーあたしは刀夜くんかな」
「えーッ!!」
皆が一斉に声を上げたが、一番大きな声を上げたのは荷物から頭を飛び出した梨沙である。
「なんでよ? 迫られたら困るからって私にボディーガード頼んだんじゃないの? 嫌だったんじゃないの?」
「え? 嫌だよ」
「はぁ?」
梨沙は美紀との会話についてゆけず、困惑の顔を隠せなかった。
「聞き間違いかしら、さっき刀夜がいいって聞こえたんだけど……」
「うん、だって刀夜くんてやり手だから、一杯お金を稼ぎそうじゃない? 彼となら生活に困る気がしないから」
美紀のトンでも発言に梨沙は空いた口が塞がらない。
「美紀さん、あ、あなたまさか…………」
舞衣はいち早く美紀に一杯食わされたことに気がついた。
「うん。暮らすなら誰がいいかとは聞いたけど、誰が好きかなんて聞いてないわ」
「ひどッ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます