第38話 アーグ討伐3
刀夜は最後の進撃を合図をおこなった。
突撃隊は先行して道を進み、後衛は死に損ないのアーグに止めを刺しながら進んでゆく。
思わぬ反撃を食らったアーグは逃げたものの山賊のアジトの広場で行き止まりとなってしまう。奥への抜け道は燃えさかるバリケードで刀夜が通れないようにしておいたからだ。
アーグの逃げ道は行き止まりの洞窟に入るか、崖下だけとなる。だがこの崖は壁面も地面も岩場となっており、掴まることのできるような草木も生えていないためとても降りれるような代物ではない。
一部のアーグが死を覚悟で崖を飛び降りた。落ちて岩に叩きつけられてしまい、身動きできない所を上から矢で射られてしまう。
広場で果敢にも応戦するアーグはすでに数で逆転している刀夜達から複数の矢を浴びる羽目となった。
こうして表に出てきたアーグはものの十数分で
あまりにもあっけない結末に村人達は『もう終わりなのか』と
まるですべて終わったかのような喜びであったが、刀夜には最後の仕事が残っている。洞窟内の敵を
この仕事は刀夜が一人で行うこととなっており、それは本人が志願したものだ。だが
「これだけやれれば十分じやないか、危険を犯して洞窟に入ることもあるまい」
その言葉に刀夜は怒った。
「ダメだ! 1匹でも生き残りがいれば復讐されるぞ!!」
刀夜はアーグの習性には
それに加えて刀夜にはどうしても確かめたいことがある。この作戦の本当の狙いはその件と復讐なのだから。
刀夜の気迫にブランキは驚き、歓喜に沸いていた連中も押し黙ってしまう。
刀夜は鞄から自作の大きな砂時計を取りだした。
「30回だ。もしその間に帰ってこなかった場合は捜索に来てくれ」
砂時計は体感2分なので30回は約1時間だ。
刀夜のただならぬ雰囲気にブランキは心配になる。
「なぁ、本当に一人でいいのか?」
「ああ、中は狭い。一人のほうがやりやすい」
こうなってはもう止められない。刀夜とは短い間であるが彼の言動からあまり人の忠告を素直に聞くタイプではないとブランキは肌で感じていた。何を隠くそう自分が同じタイプであるから。
「……わかったもう止めない。幸運を祈るよ」
刀夜は松明の入ったリュックを背負い、タオルで鼻と口をマスクする。手の平より少し大きいミニクロスボウを右腕に巻き付けた。そして玄を引いて矢をセットしておく。
これは至近距離用の飛び道具だ。有効射程は精々3から5メートルほどしかなくて殺傷力も低い。だが相手の動きを止めたり、近づきたくないときには有効な武器となる。
そしてショートソードと松明を構えて洞窟に入っていった。ボウガンを腕に巻き付けたのは両手が塞がってしまうためだ。
洞窟に入るとまだ煙の臭いが微かに残っている。強く呼吸をすればこちらも麻痺してしまうかもしれない。だが煙より獣臭のほうが酷く鼻が曲がりそうだ。
洞窟に入ってすぐに倒れいるアーグを発見する。剣で頭に一撃を入れると体をビクリとさせた後、動かなくなった。
通路の直ぐ右奥に2匹目、同じく頭に一撃を入れる。
情報通り洞窟の通路には松明を
さらに進むと十字路に遭遇する。
情報では両脇は部屋となっているが……十字路のど真ん中でアーグが倒れており、刀夜は舌打ちした。
両脇にある部屋の中を確認したいが倒れているアーグが邪魔なのだ。仕方なく左右の部屋を警戒しつつ、倒れているアーグに剣先を振り落とす。
アーグの握力は人の足を握り潰すほど桁外れな力を有している。まさしく顔のデカいゴリラといったところか。ゆえに刀夜としてはあまり近づきたくない。
ショートソード程度の長さでは咄嗟に襲われた場合、掴まる危険性がある。
止めを刺した後、鞄から細長い棒を取り出す。先端に美紀から奪った鏡が取りつけてあるのでそれで部屋の様子を伺った。
最悪なことに両部屋ともアーグが倒れているではないか。これは最も刀夜が恐れていたパターンだ。片方を攻撃している間に後ろから襲われるのはごめん被りたい。
通路の十壁面から字路ギリギリまで体を寄せてクロスボウを撃つ。
矢がアーグに刺さると気絶していた獣が跳ね起きた!
刀夜を視認すると襲いかかろうと迫りくる。対して刀夜は冷静に反撃の準備をとりつつ後退した。
それを追いかけてアーグは十字路へと出てくる。刀夜はさらに下がって先ほどの松明の位置より後ろを陣取った。
アーグがその松明の位置に来ると、刀夜は腰にぶら下げていた小袋を奴の顔めがけて投げつける。
アーグは小袋を手で払いのけると中から白い粉が舞う。すると粉は松明の炎に引火して一瞬にして獣が炎に包み込まれた。
ほんの一瞬ではあるが突然、目の前で炎に包まれたことで獣は驚き慌てた。
刀夜は獣が怯んだ隙にショートソードを急所目がけて突き立てる。見事、心臓を貫ぬく。血が吹き出すのと同時に掴まれないよう直ぐに抜いて距離をとった。
アーグは糸の切れた人形のように崩れて倒れてしまうと、刀夜はさらに倒れたアーグに念のため頭に一撃を入れる。
頭蓋骨が叩き割れる感触が手に伝わってきた。
もう何度も経験しているが嫌な感触だと思いつつも刀夜は表情にそれを出さない。
洞窟を充満させた麻痺毒は致死量には足りない程度のものなので、吸い込み具合で効き目に個体差が生じてしまう。殲滅だけが目的なら毒を使いたいところだ。
再び十字路に戻ってくると鏡で中を確認をした。
先ほどの騒ぎで起きないとなるとかなり麻痺毒が回っているのだろうと判断した刀夜は、残ったアーグに次々と止めを刺していく。
彼は順調に残ったアーグを始末してゆき、残りは奥と手前の二部屋となる。手前の部屋に入るとその光景に刀夜は全身の血が凍りついた。
「――――ッ!」
彼はこの事態を予想していた。分かっていた。覚悟はしていた。だが目にすれば動揺は押さえられない!
刀夜は探していたソレに触れて冷たくなっているのを確認すると、脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。
血まみれで倒れている女性。
脇腹から血を流している男。
男が手にしている包丁も血まみれ状態だ。
そして血に染まった幼い両手……
それは一瞬の出来事だった。
我に返ると変わり果てたその無惨な姿が再び目に入る。刀夜は吐き気と殺意が押さえられなくなった。
苦しそうによろめきながらも、その部屋を後にしてもう1つの部屋の前に立つ。これまで奴に遭遇しなかったということは奴はこの部屋にいるはずだ。
チマチマと安全を確認する気など起きなくなった刀夜は唯一扉のある部屋の戸を蹴り飛ばす。
そこには今までのアーグとは異なる大きな体の女王が山賊の盗品である王座のような椅子にだらりと座っていた。そして体には山賊が奪った宝石を体に巻き付けていた。
彼女は麻痺毒に犯され、刺激臭で目をやられて、ぜーぜーと息を切らしている。
「獣の分際で、人様みたく着飾りたいのかよ……テメエノ血でも着飾っておけ!」
刀夜は手にした短剣で椅子の手すりごと女王の右腕を貫く!
「ガアアアアアアアアアーーーーッ!」
激痛に襲われた女王は左腕で刀夜を
腰に戻しておいたショートソードを再び抜いて振り回している腕を切り裂く!
だが切り落とすつもりで振り切ったが刃は通りきらない。
「くそッ、なまくらめ!」
言葉を汚く吐き捨てると剣を真っ直ぐ相手に向ける。瞬発力を最大限に発揮させると突進して女王の左肩を椅子ごと貫いた。
刀夜は女王に掴まれなよう警戒して直ぐさま距離をとったものの、すでに女王にその力は残っていなかったようだ。
女王の片眼が開いて刀夜を睨み付けてきた。その眼にムカついた刀夜は身動きできなくない女王の顔に松明を押し付けてる。
炎で焼かれると女王の断末魔の声が洞窟に響いた。
刀夜は開いている片眼をあえて潰さないように反対側の顔をじわじわ焼きつける。
肉の焼けた臭いが漂ってくる頃に松明を捨てた。
鞄から二本の短剣を取り出して両手に持つと殺意を撒き散らしながらゆっくりと近づく。
「お前を殺しに来た男の顔をよぉぉぉぉく、見やがれえええええええええッ!!」
刀夜が雄叫びような声をあげ。女王を足蹴にして両腕を振り回して彼女を切り裂き、突き刺し、えぐり、切り上げ、滅多切りにした。
女王の眼にはそれが何に映っただろう……
悪魔か、鬼か、はたまた死神のような化け物の姿だろうか。血走った目に獲物を食らいつくような口、そこにいるのは人ではない者に見えただろうか。
女王はやがて眼光を失う。
それでも刀夜は気がふれたかのように短剣を振るい続ける。
やがて息が上がって力尽きると刀夜は大の字になって後ろに倒れた。せっかく買った服は獣の臭い血で上も下も真っ赤と成り果ててしまう。
…………どれほど時間が経っただろうか、刀夜はようやく我に返った。
一時間以内に帰えらないと捜索隊が来てしまう。
せめて『彼女達』の酷い姿は誰にも見せてやりたく無い。刀夜が一人で潜った理由はこれだったのだから。
体を起こすと醜い女王の姿が目に飛び込んだ。獣の分際で王様のような椅子に座っていることがどうにも気に入らない。
横から椅子を蹴り上げて女王を椅子ごと地に落としてやった。実に下らないことではあるがこれで多少は気が晴れるような気がした。
だがその時、刀夜の目に椅子の裏にあった宝箱が目入る…………
「?」
刀夜はその宝箱がどうにも気になって仕方がない。『宝物庫』なのにわざわざ隠してあることに。
そして不用意ではあったが彼はそれを開けてしまった……
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