第34話 自警団との遭遇
「どうした? 言葉がわからんか? 異人よ」
「い、いや分かるぜ……よ」
龍児はなぜか土佐弁で答えてしまう。突然助けられたことと彼らが日本語を話していることにまだ混乱していた。
「どうやら負傷しているようだな、そっちの男は危険なようだ。パラメ! ヒューリ! 来てくれ怪我人だ!!」
彼女に呼ばれてやって来たのは白いフードを被った二人組であった。胸には何やらシンボルの入った大きな首飾りをしている。
颯太の元に駆け寄った男が危険状態だと即座に判断すると短い木の棒を取り出して呪文を唱え始めた。
「聖なる大地の地母神ラーウルスよ、この者の傷を癒したまへ。ヒール」
男の杖から青白い光が
颯太の傷口はみるみる塞がっていく。
そして龍児にも同じ魔法がかけられて傷口があっと言う間に塞がった。
「ま、魔法だと!? 傷が治りやがった……颯太、大丈夫か?」
「ああ、まだ痛いけど大丈夫かな?」
「本当に大丈夫なの久保君?」
智恵美先生が颯太の傷口を見てみた。
「どうなっているの先生?」
背中が見えない颯太が傷の具合を訪ねる。
「傷口の後はあるけど塞がっているわ、痛みはあるの?」
「ああ、痛みはあるよ、大したことねーけど」
「彼には回復の魔法を施しました。傷跡と痛みは残りますが完治はしていますよ」
魔術師は彼らが魔法について
「さて治療も済んだことだし、話を聞かせてもらおうかな、あっちで」
レイラが親指で指し示した先には沢山の馬車が止まっていた。その馬車から荷物を下ろしており、彼等はここに設営テントを張るつもりであった。
智恵美先生が彼女にお願いを申し出た。
「あ、あの。助けていただいたのに、こんな事申し上げにくいのですが、食べ物を分けていただけないでしょうか?」
「何だそんな事か。構わんからついてこい。食事をだしてやる。我々もそろそろ夕食だからな」
レイラが簡単に承諾してくれたことに先生は胸を撫で下ろした。空腹から免れることもそうだが、彼らが話の通じる相手であったことが一番大きい。
最も日本語が通じていることの疑問はあるが現状それどころではない。だがまだ不安はある。異国の人間への扱いである。
ともあれ空腹は何とかしたいので彼女の後を付いていくことにした。
すでにタープによる簡易に張られたテントがあった。そこに長テーブルと長椅子が用意されている。
「こちらで座って待っていてもらえるか、すぐに隊長が来る」
長椅子に座らされると回りを兵士で囲まれた。
レイラと同じような鎧を身に纏い、金髪の短い髪と短いアゴヒゲを生やし、体格もよく、男らしさを感じる角ばったパーツがちりばめられた顔立ち。
いかにも威厳がありそうな目付きでその男は同じテーブルの上座へと座った。そして一同を見回したあとに自己紹介を始める。
「私はピエルバルグ自警団、第一警団隊長を勤めているアラド・ウォルスである。この一団を預かっている者だ。食事が用意できるまでの間、話を聞かせてもらいたい。君たちは何者で、あそこで何をしていたのか?」
アラドの言葉は一見優しそうであるが、彼の風格から放たれる威圧的なものを感じられずにはいられなかった。
それに当てられたのか天然なのか智恵美先生はバカ正直に答えてしまう。
「えっと、わ、私達は日本国に住んでいる日本人です。えっと私達は天岡高校の教諭と生徒でして……えっと突然黒い嵐にあって……気がついたら山にいました」
アラドは彼女が何を言っているか分からなかった。
「日本? 国? 聞いたこともない。そもそも国家制度を使っている所がまだあったとは驚きだ。レイラは聞いたことがあるか?」
「いえ、初耳です」
『か、河内君、彼らの言ってること、わかる?』
『いや、国家制度は昔に滅んだ、そんな言い様ですね。まさかここは異世界ではなく遠い未来の地球とか?』
「あ、あの、今は西暦何年なのでしょうか?」
「西暦? 暦の事を言っているならマリュークス暦で412年だが?」
「マ、マリュークス暦? やはりここは異世界なのかしら?」
先生はますます混乱した。分かったことと言えばこのままでは会話にならないという事だけだった。ならば彼らの質問に一通り誠実に答えてから情報を引き出したほうが良いかもしれない。
アラドは頭の柔軟な男である。彼らが漏らした『異世界』の言葉を聞き逃さず、この者達の会話はあまり他人に聞かれないほうが良いような気がしたのだ。
「レイラ、兵達を下げてくれるか」
「分かりました、私も下がったほうが宜しいでしょうか?」
レイラも頭の回転が早く、隊長の意図までは読めないものの雰囲気で秘密裏の話が出るのかも知れないと察知した。
「いや、君は残っておいてくれ」
「ハッ」
早速レイラは兵を下がらせた。兵が下がったのを確認するとアラドは話を再開した。
「さて中断してしまったが質問していたのは私たちで、まだ答えてもらっていないのだが?」
「すみません、取り乱しました。私達は先ほど話した嵐にあって、いきなりこの山の奥に放り出されたのです。最初は31名おりました。ですが獣や巨人に追われ――」
「巨人だと!?」
『巨人』というキーワードに突如彼等は驚きと興奮を
「アレを見たのか、どんなヤツであった?」
智恵美先生は巨人との遭遇から逃げ切るまでを詳細に話した。
「うーむ、
「こうなると、目撃情報は確かだったと受けとるべきでしょう」
「そうだが……ともかく証拠だ。
「ではこのまま予定道理、捜索に……」
「それについては彼らに詳しい位置を教えてもらったほうが効率がよいな」
とりあえずファーストコンタクトは友好関係で終わりそうであることに先生は胸を撫で下ろした。同時に腹の虫が鳴り、恥ずかしさでテーブル下に隠れる。
「おお、食事がまだであったな、彼らに食事を」
「はっ!」
レイラは敬礼をしてテントを出ていった。
しばらくして食事が運ばれてきた。食事と言ってもスープと乾燥パンと干し肉のみである。
最初、差別されているのかと思ったが隊長も副隊長も同じものが用意されたので、そのようなわけでは無いようだ。彼らの遠征では保存の効く食べ物が少ないため、このような食べ物しか用意できないのだ。
暖かいスープはカボチャのような味で程よい感じであった。しかしパンはバサバサでしっとりした食感に慣れている日本人にはとても食べにくい代物である。
見かねたレイラがスープに漬け込んで食べるのだと教えてくれる。まねて食べてみると大きいクルトンだと思えばましであった。干し肉はジャーキーと変わらず、欲を言えばもう少し濃い味付けのほうが良かった。
食事を進めながらも不思議な衣服を着ている彼らをアラドはただの異人でないことに疑いを持たなかった。彼らの話の中で彼らが『異世界』と驚いたようにこちらの人間では無いような気がしていたからだ。
食事と会話が進むなかアラドが尋ねた。
「所で君たちはこの後どうするのかな?」
唐突な質問に『えーっ』と言った感じて硬直してしまった先生に変わって今度は拓真が答える。
「近くに城壁のある街は無いでしょうか、そこではぐれた仲間と落ち合うことになっているのです」
「街は大概、壁で覆われているが……この近くであればヤンタルの街だな」
「ヤンタルの街、それは歩いてどのくらいかかるのですか?」
「歩いてか……大体3日程ではないかな?」
アラドは移動には馬車か馬を使うのであまり歩いての距離感が掴めなかった。部下を呼びだし斜行した台に地図を広げさせる。
地図によれば刀夜達が向かった先にプルシ村があった。晴樹は刀夜の性格からしてその村に立ち寄る可能性が高いだろうと考え、実際に彼はそこにいた。しかしながらその村に行くとなるとヤンタルの街とは逆方向になってしまうので往復の時間が勿体ない。
晴樹は「刀夜ならすぐにヤンタルの街に向かうだろう」と付け加える。これも晴樹の読み通り何事もなければ刀夜はそうしていた。そう何も無ければである。
話し合った結果、ヤンタルの街に向かうことで皆の意見が一致する。往復している時間が惜しいというのが最大の理由だった。
アラドは彼らが街へ行けるだけの食料を分けてくれることを約束してくれた。だがアラドは彼らの道のりがそううまくいかないだろうと予想していた。
彼等はあまりにもこの地を知らなさすぎだと。だがアラドはそこまでは責任を持てない。
アラドはぽつりと
「彼らにメルクルスの加護あれ」
それは彼らの商人と旅人を加護する神の名であった。
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