第31話 宿泊
刀夜達は熟睡している所をブランキに起こされた。もう宴会の時間となってしまったのだ。まだ眠いが、せっかく好意を無駄にはしたくは無い。何よりこの世界の情報を入手できるチャンスである。
村長宅はムンバ氏の持ち物ではなく、村の施設であった。奥に通されると本来は村の会議が行われる場所へと案内される。
すでに長テーブルに料理が並べてある。その料理の内容はパーティー料理ではなく一般家庭料理といった感じだ。
テーブルには村長と長老らしき人物二人とブランキを含む監視の三人だけである。
食事をしながら村長は刀夜達の事を
異世界からきたなど信じてもらえないどころか余計に不信感を与えてしまうからだ。
梨沙と美紀には刀夜の話に合わせるようにあらかじめ伝えられていた。二人はよくも次から次へと嘘が出るものだと感心する。
そして当の刀夜も負けじと情報の引き出しにかかった。刀夜が引き出した情報は大体以下のもので貴重な情報が多い。
この村の名前はプルシ村と言い、かなり昔に街を追い出された者達で作られた村である。
刀夜が見た街は隣街のヤンタルでこの地では中堅規模の街である。つまり他にも大きな街があるという事だ。
この地で国家という概念は無い。当然王様のような者も存在しない。
異国人という概念はなく異人と呼ばれる。主に白人以外の人種を総じた別称である。
人口は圧倒的に白人が多い。
街の政治形態は多数の専門職ギルド集合体のギルド総会が運営している。
ギルド総会のメンバーは議員と呼ばれ、力のあるギルドや金持ちから選抜されるのが大半。
軍隊は存在しない。代わりに自警団という組織が各街ごとにギルド総会によって運営されている。
かなりの大昔にピエルバルグ帝国がこの辺りを支配していたが巨人によって滅ぼされてしまった。
同名の街がある。街の防壁はその頃の名残を修復して再建された。
帝国崩壊後、人類は死滅しかけたことがあったらしい。それを救ったのが大賢者マリュークス・アリューシャンという魔法使いであった。
大賢者マリュークスにより医療魔法と生活魔法を伝授されて今の人類は生き延びた。
帝国時代の名残として『奴隷制度』が残っているが黙認されているだけで正式には無いことになっている。
ここまでで刀夜は気になるキーワードが2つ出てきた。『巨人』と『魔法』である。
その事を問い合わすと『巨人』は正式には『巨人兵』と呼ばれていて400年前に作られたソレは今でも稼働しており、刀夜達が出会ったのはまさしくソレであった。
村人からはよく生き延びれたものだと感心される。
巨人兵は自分のエリアからは滅多には出てこないが、絶対ではなく近年でも滅ぼされた街があるらしい。
そして魔法である。まさしくファンタジー世界の超常現象のあの『魔法』であった。
大きな街には大概、魔術ギルドがあり生活魔法や医療魔法を扱っている。
攻撃向けや特殊な魔法もあるらしいが、それは帝国崩壊時に失われて『古代魔法』呼ばれており、古代の事を研究している賢者と呼ばれるような人にしか使えないらしい。
そして魔法使いの絶対数は圧倒的に少ない。
食事と話が終わる頃、村長は刀夜がどうやって山に入ったのかという話になった。
刀夜達が遭遇した超常現象のことに関しては情報を得るため隠さず正確に話した。だが彼らは嵐と石柱そしてチューブについては心当たりがないとの事で、ソレらにはあまり興味は無いようであった。
村長達が食いついたのはその後、黒い獣の襲撃の話だった。
「それは、アーグに違いない」
どうやら身体的特徴がそのアーグと言うのに一致したようだ。美紀が思い出してしまったのか表情が沈む。そうだまだ昨日の出来事なのだ。目まぐるしい出来事が時間感覚を狂わせていた。
「確かブランキも言っていましたね。アーグの襲撃がどうのと……」
「そうだ。奴等が畑を荒らしたり、人を襲撃したりするんだよ」
「実はこの村の近くの山には、大昔から山賊がいましてな。行商人をよく襲っておったんじゃが、アーグの集団が盗賊のアジトを襲い奪ってしまったのだ」
そう語ってくれたのは長老である。
「その盗賊達はどうしたのですか?」
「半数が殺され、残った者はどこかへと逃げたようです。以来そこがアーグのアジトになったのですわ」
「なるほど、俺達を襲ったのはそのアーグなんですね」
刀夜の表情が一転した。どこか在らぬ方向を向いて考えこんでいるようだが怒っているようでもあった。
梨沙はそんな刀夜に嫌な予感を覚える。
宴会が終わると村長達と別れて再び宿屋へと戻った。ベッドを目の前にすると再び眠さが勝って梨沙と美紀は浮遊幽のようにベッドに向かい、そのまま布団に吸い込まれた。
「ちゃんと靴ぐらい脱げ、そのほうが楽だぞ」
刀夜はそんな二人の靴を脱がしてやって窓際の椅子に座った。そしてこの世界と自分達の行く先について思いを馳せる。
梨沙は目を薄く開けてそんな刀夜を見た。
「――ねえ……」
眠そうに静かに声をかける。
「なんだ」
「……この世界ってなんか変よね」
「……具体的にどう変なんだ」
この世界について違和感は刀夜も感じていて、自分なりにそれは何かと思案していた所だ。特になぜ日本語が通じるのかが最大の疑問である。そして梨沙が同じように違和感を感じていることに非常に興味が湧いた。
「……なんと言うか……世界が大雑把と言うか……価値観とか文明とか……」
それは刀夜が感じていることと同じであった。
「そうだな。もう少し具体的に言えるか?」
「……それは……あんたはどうなの……」
「そうだな、この村の生活水準は低いのに金属チューブのように俺達の世界レベルのものがあったりとか異なる文明レベルがミックスされた感じがする。もしかしたら滅んだ帝国文明ってのは俺の想像よりかなり高い文明なのかも知らない。一度滅び、再生過程で入り交じったのかも知れない」
「……価値は? お金とか……」
「金貨一枚の価値が銀貨200枚とかは大雑把過ぎるが、物の価値観の相違はおれ達の世界にもあるから、そこは気にすることではない。金と銀の採掘量が違えば、俺達の世界でも金の価値は変わるしな……そんなことよりは…………」
「…………」
「梨沙?」
刀夜は返事のない梨沙を見ると彼女は吐息を立てて眠りに落ちていた。刀夜は彼女達にシーツをかけてやると再び椅子に座る。
自分達が文明の力でこの世界に呼び出されたのであれば、それを追うことで元の世界に帰れるのではないかと考えていた。
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