第30話 初めての買い物
刀夜達は宿屋を後にして再び広場へと
雑貨屋は開放型の店舗で表からでも店の奥まで見渡せる。中は多種多様の商品が所狭しと並んでおり、先客がいて値引き交渉をしているのを刀夜は見逃さなかった。
「ここが、この村唯一の雑貨屋だ。生活に必要なものは大半揃っているぜ。旅の道具とかもな」
「もしかして値引き交渉ありですか?」
「かあ~、やっぱちゃっかりしてやがんな。さっきの見てやがったな」
「どのくらいまで可能なんですか?」
「それは品物によって異なるから自分で試行錯誤しな。なんでもかんでも教えねぇよ」
ブランキは単に説明が面倒なだけだったが、いかにもお前らの為だのような言い方で逃げた。
「うおい、ナル、客だぞ」
「おお、さっきの異人さんじゃないか」
ナルと呼ばれた彼女は刀夜達より若そうな小娘だ。ヤマアラシのような髪型で色は水色。茶褐色に焼けた肌は健康そうだ。彼女は好奇心に溢れた目で刀夜達を見ている。
「で、何か要り用かい?」
「まずは旅人らしい服を三人分欲しい」
「旅人らしい服ねぇ~」
ナルは刀夜の体操服が珍しいのかジロジロとなめ回すように見た後、服を引っ張った。
「うわ! 何コレ! 服が伸びた!?」
「もう、そのリアクションはやったよ」
ブランキが呆れる。
「そっちの
ナルは両指をくねくねとさせて、まるでエロい親父のように美紀に迫ろうとする。
「伸びませんから!」
嫌な予感がした美紀は触られる前に釘をさした。単に服を触られるだけでは済まないような予感に嫌悪感を募らせる。
「そろそろ商売に戻ってくれませんか?」
「おおう、そうだった」
刀夜に言われてナルはヨダレを片手で拭くと二人を店奥に案内する。
「じゃあ、まず女の子からあたしが見立ててやるよ」
梨沙と美紀は嫌な予感がして刀夜に助けを求めるように目で訴えたが、刀夜はさっさと行けと追い払うように手を振った。
そのような彼の態度に「薄情もの」とか「だから彼女いないのよ!」とか彼女らの目が訴えかけているが、当の本人は無視である。
「二人が用意できるまで必要なものを選んでおくか。ブランキさん解説よろしく」
「な、なぬ!? お、俺はお前らのガイドじゃねえぞ!」
ブランキはそう言いつつも刀夜にうまくあしらわれて買い物の手伝いしてしまう羽目となった。
刀夜がある程度旅に必要なものをピックアップできた頃、奥から着替え終わった二人が出てくる。
「どう? 刀夜くん」
二人はまるで簡素なスイス民族衣装といった感じの服を着用していた。二人とも同じデザインではあるが美紀は紺色、梨沙は黒茶色の服だ。
「村娘と言うよりは民族娘って感じだな」
正直いって旅人という雰囲気はない。とはいえ確かにこれなら奴隷商人には襲われ……ないのか? と刀夜は不安に思う。単に店の一番高い服を押し付けられたような気もした。
「えーもっと別の感想とかないの?」
「別の? ……服が重そうだ。体力消耗に要注意だな」
「…………」
「美紀、こいつにそんなこと期待しないほうがいいぜ」
「そうね、刀夜くんって一生女の子に縁なさそう……」
気の効いたことがいえない刀夜に美紀と梨沙は冷ややかな視線を送った。ひどい言われようではあるが確かに刀夜はその手のことには疎い。
「じゃあ今度はキミの番だね」
そう言われて刀夜がナルと奥へと入っていったが10分ほどですぐ出てきた。簡素なシャツとダボっとしたズボンで出てくる。
「随分と早いわね。でも、なんなのその格好。旅人ってよりアラビアンナイトか土建屋ね」
「コレしか無かったんだよ……」
「あはは……男物は今、種類がなくて……」
ナルは申し訳なさそうにする。
「じゃあ、精算するね。服が上下3着、肌着が6着、靴が3足に鞄が大中小で4つ、後は日用品だね」
ナルは算盤をバチバチと弾く。どうやらこの世界でも算術は
「お代は銅貨451枚だよ」
ナルは久々の大物買いの相手ににこやかに愛想を振り撒いた。何しろ田舎の村で売れるものと言えば日用品ぐらいである。衣服や鞄などは自分達で修理してずっと使う人が殆どだ。
「中々の金額になったな、半額にならんか?」
刀夜の値引き交渉にナルは口元を引きつらせる。
「き、君はアレかな? ボクにクビをくくれと言っているのかな?」
彼女の反応からして半額はやり過ぎのようだ。
「ちょっとブランキ! なんなのこの客!!」
「初めての値引き交渉なんだ。練習させてやれよ」
ブランキはニヤニヤと笑っている。ナルは嫌そうな顔をしながらも説明をしてくれた。
「いいかい、半額なんてこっちは確実に赤字なんだよ、普通は6~7割スタートなの、8~9割で端数サービスするもんなんだよ」
「成るほど勉強になりました」
「フン、じゃあ勉強料込みで420ってとこかな」
「あの、俺達は収入が無いのでそこをなんとか320ぐらいで……」
「にゃにい~ よ、400だ!」
「――360で」
「380じゃ、もうまからん!!」
「じゃあ、それで」
「あう……」
「わははは、してやられたなナル」
「べ、別にやられてないわよ、ちゃんと黒字だし」
ナルはそっぽを向くと膨れた。実際利益はしっかり取れていたのだが久々の大物買いだったのでより利益を出したかった。
それに刀夜にやられたと言うよりはブランキに対してやられた感がしてそれが妙に悔しい。
「じゃあ支払い」
刀夜は古代銀貨を2枚、彼女に渡した。宿屋の女将の話によれば古代銀貨2枚は銅貨400枚に相当の計算のはずである。
「えっ! こ、これは古代銀貨じゃないか。こ、困るわよこんな高額貨幣!」
彼女が何に困るのか刀夜には分からなかった。だがザクレの説明通り古代銀貨1枚は銀貨10枚らしく足りないわけでは無さそうだ。
高額貨幣だと何か問題があるのだろうかと刀夜は疑問に思う。
「ダメなのか?」
「ダメって訳じゃないんだけど、こんな村じゃこの貨幣は使いにくいんだよ。両替屋もないし」
ナルの主張にようやく刀夜は理解できた。つまりお釣りに多くの貨幣が必要になるから、売るにしても買うにしても困るという事だ。
「ナル、もうすぐ俺が街に行くから、その時に両替してきてやるよ」
「ほんとかい?」
「ああ」
「じゃあ、おつりだよ」
刀夜は上機嫌に戻ったナルから銀貨1枚を受け取った。
旅に必要なものは揃い、ナルに礼を言うと宿屋へと向かう。
正直いってもう疲労
刀夜は歩きながら寝落ちしないよう思考を回転させた。だがそれも宿についてベッドを見た瞬間に吹き飛んでしまい、ベッドに倒れようと思った矢先に女子に先を越されてしまった。
三人部屋といっても部屋にはキングサイズの大きなベッドが一つきりである。さすがにキングといえどこれに三人はありえない。一緒に寝たら間違えなくこの二人に
部屋を見回すとどうやらソファーがベッド兼用のようだ。仕方なく刀夜はソファーに倒れこむ。
「じゃあ、時間になったら呼びに来てやるよ」
刀夜はブランキに手を振って礼を言う。そう言えば今夜は村長宅でもてなされるのだと約束を思い出した。正直いってもうこのまま朝まで寝てしまいたい気分である。
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