第29話 宿屋と金
刀夜たちはブランキに連れられて宿屋に向かっていた。来るとき同様に村の中央の道を進む。
回りの村人達は黒髪と黒い目の異人を珍しそうに見ていた。村長から許しを得たことで連行されいたときよりは大胆に家から出てきて刀夜たちを物珍しいように眺めている。
この村の人たちはすべて白人系の人種のようで、髪は金髪が多い。ついで白い髪が多いがこれは単に白髪のようだ。変わったところでは水色や薄い緑などの色をしている者もいるあたり、やはり異世界なのかと刀夜は思考を巡らせる。
「所でこれはお節介なのだが、お前達のその服はあまりにも目立つぞ。奴隷商人に捕まったらひどい目に合うぜ」
「ど、奴隷!?」
歴史の教科書にしか出てこないような単語に梨沙と美紀が驚く。
しかし刀夜はこんな世界ならありえそうだと思うと同時に奴隷になるのはごめん被りたいと思う。それを回避するためにも早急に情報が必要だとばかりにブランキに尋ねる。
「奴隷商人はどういった基準で奴隷を集めているんだ?」
「そりゃぁ――おめぇらのような異人とか、滅ぼされた村、街の孤児とか、身売りした者とか、色々だよ」
「奴隷になった場合、どうなっちゃうの?」
「男は肉体労働、女は家事手伝い、運が悪けりゃ慰み者だ。あんたらみたいな綺麗どころは特にな」
慰み者と聞いて梨沙と美紀は心底怖がって体を寄せあう。どこの誰とも分からないような奴に体を自由になどされたくない。
そのようなことがまかり通る世界なのだと改めて認識しなおした。日本語が通じてもここは別世界なのだと。
「どうすれば狙われなくなるのか?」
「そうだな、少なくとも身なりは俺達や街の人のような衣服を着たほうがいいな。いくら異人でもすでにこの地で根付いている者なら手を出したりしないだろう」
刀夜はブランキのいうことは最もだと思うと、早急に着替える必要性を感じた。
「ここが宿だ」
ブランキに連れてこられたのは他の家よりちょっと大きいだけの一軒家で、宿と言うよりは民宿のようである。入口の所に小さな看板のようなものが置かれているが文字らしきものは読めない。
「サグレいるか?」
「いるよ、相変わらず大きな声だねぇ。鼓膜が破れちまうよ」
部屋の奥から出てきたのはダルマのような年配の女性である。白い大きなエプロンと三角頭巾を被っており、妙にそれが漫画の宿屋の女将といった感じで似合っている。
「お客さんだ」
「あー例の人たちだねぇ。泊まっていくのは結構だけど部屋の中のもの取ったり汚したりしないでおくれよ」
「心得た」
サグレは本当かいと、やや疑い半分で説明を始めた。
「部屋は二人部屋が2つ、三人部屋が1つ。二人部屋なら銅貨15枚、三人部屋は20枚。朝食を付けるなら一人5枚だよ」
刀夜はこのあと買い物をしなければならないことを踏まえて節約のため三人部屋と朝食を頼む。
だが当然、二人からブーイングが出る。
「刀夜! あたし達と一緒に寝るつもり?」
「節約だ。なにもしないから安心しろ」
「いやいや、そーゆー問題じゃないでしょ」
「刀夜くん、デリカシー無さすぎぃ」
「着替えとかなら、俺は外で待ってるから……」
「だからそーゆー問題じゃないって!」
不満を垂れる二人だったが、結局刀夜に押しきられてしまった。今は金銭的に余裕があっても働いているわけではない。金は減る一方であり、必要な費用は宿泊費や食費だけではないのだ。
「前払いで頼むよ」
サグレの言われたとおり刀夜は古代銅貨を35枚を支払った。だが彼女は支払われた古代貨幣に目を丸くして驚く。
「こ、これは古代貨幣じゃないか……」
「ん? 古代貨幣だと支払いはできないのか?」
ブランキの話では宿泊費として使えるものだと思っていただけに彼女の反応は意外だ。
サグレはちらりとブランキを覗くと彼はニヤニヤしている。彼女はブランキに金銭をごまかさないか試されていると悟ると、彼からは信用されていないとため息が出た。
「古代貨幣で支払うなら半分だよ」
そう言って彼女は17枚を刀夜に返した。
「端数は頂くからね」
彼女は付け加える。お金を半分返された刀夜は、これはどういう事なのかとブランキに目で訴える。
「サグレ、こちらの客人は通貨に詳しくないようだから説明してやってくれよ」
ブランキは説明が面倒なのでサグレに丸投げにした。
そんなブランキの思惑が分かっているサグレは再び大きくため息をつくと面倒くさそうに、カウンターに三種類の貨幣を置いた。出された銅貨と銀貨は刀夜が持っている古代貨幣と比べて簡素な作りで人の顔は掘られていない。
「まずこのちっこいのが――」
そう言って彼女が指を差し示したのは、おはじきのような小さい貨幣だ。
「青銅貨と言って安い品物を売買するのに使うものだけど、人気がないからこれを出すと大抵嫌われる」
「え、じゃあ安いものはどうやって買うの」
美紀が最もな質問をする。
「普通はまとめ買いして銅貨で支払うんだよ。銅貨1枚は青銅貨10枚。銀貨1枚は銅貨20枚。金貨1枚は銀貨200枚。大金貨1枚は金貨5枚の価値だよ」
「ええっ、金貨と銀貨ってそんなに差があるの?」
驚いた美紀は指をおりおり何かを計算し始めた。金貨1枚は銅貨4000枚に相当する。
一部屋借りるのに銅貨20枚なのだから200泊できることになる。格安の地方ビジネスホテル5000円とすれば約100万相当だ。
とは言え、ここは地球じゃないので現代と比較しても意味はない。
「そうだよ、だからあたしら一般庶民は金貨を扱うことはないよ。お釣りなんて出せないからね。扱っているのは大金持ちや大商人、もしくはギルドの人間くらいだね」
確かにサグレがカウンターに置いた貨幣に金貨はなかった。刀夜はギルドという言葉に興味を抱くがとりあえず後回しにした。
「あたし達の所と随分価値観が違うわね」
「そのようだな。多分取れる量に極端に差があるのかもしれない」
「大昔は金貨1枚は銀貨10枚だったらしいわよ」
「らしいって、それはいつ頃?」
「確か2~300年前だったかしら……古すぎてわからないわよ」
刀夜は随分極端な気はしたが金の計算はしやすくて済むと思った。
「所で古代貨幣ってのは?」
「古代貨幣ってのは大昔に使われていた貨幣で今じゃ生産されていないのよ。不純物が少なくて、レアだから高く取引に使われる。金貨以外は相場固定で古代銅貨は銅貨2枚、古代銀貨は銀貨10枚、古代金貨は――」
サグレは怖い顔で迫っていい放つ。
「――今は金貨50枚!」
「!」
「まぁ、古代金貨なんて金持ちのコレクター向け用だから一般の貨幣とは比べられないけどね」
サグレはため息混じりで古代金貨の話をした。庶民にとっては途方もない金額の為、一生の間に一度は手にしてみたいというのがよくある話の種になっていた。だが古代金貨の価値は彼らの想像以上の代物なのだ。
「この後はどうするんだ? もう部屋に行っとくかい?」
「いや、あんたの忠告通り、着替えて旅の支度をしたい。さっきの広場に雑貨屋みたいなのがあったな。そこに行きたい」
「随分と目ざといじゃねぇか。あんな状況でちゃかりチェック済みってか」
ブランキからまたしても疑いの目をかけられる。
「好奇心が上まわっただけだ」
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