第16話 闇夜の逃避行
月の角度が変わって雲に隠れると再び闇が訪れる。
見張りの交代が行われたとき、闇の奥からカラカラと鳴子の警戒音が鳴った。音の方向は例の黒い獣たちが現れた場所からである。警戒音は次々と色々場所で鳴り出し非常事態を告げた。
「起きろ!!」「敵襲!!」「逃げるんだ!!」
見張り達が一斉に声を張り上げた。
一度地獄を見た生徒たちに、この期に及んで眠たげにしている者は居ない。青ざめた表情で『死にたくない』という思いで計画していたとおりに逃走準備に入る。
逃走用に用意していた松明を焚き火にくべた。
松明は余っていた布に獣が持っていた樹脂を染み込ませたものを巻きつけて、獣の爪を釘代わりに作ったものである。樹脂は燃えやすくなっており、松明に瞬く間に火が灯った。
龍児と智恵美先生は津村彩葉を背負い椅子に座らせる。彼女は折れた足を痛がるがゆっくりとやっている猶予などない。しっかりと椅子に固定すると龍児は軽々と彼女を持ち上げてみせた。
「佐藤君、頼んだわね!」
「おう、任せておけ。あと龍児だ」
赤く光らせた獣の目は木々の隙間の闇を埋め尽くしてゆく。その数は刀夜の予測どおり明らかに最初の襲撃の数を超えている。
「計画通り、隊列を組んで逃げるぞ!!」
委員長が大声を張り上げて皆に逃げるよ指示を出した。
「200メートルほどは木に矢印を入れてある。それを伝って全力で行け! 脇にはトラップを仕かけてあるから絶対に道を外すなよ!」
続けて刀夜が叫ぶと皆が一斉に闇の森へと走り出した。道といってもただの獣道である。道幅は狭くて草も多いため全力疾走は不可能だ。
獣達は鳴子に驚いて立ち往生していた。だが、それが只の紐とわかり、騒ぎ立てる生徒達の声を聞くと紐を切り裂いて追いかけだす。
だが獣たちの足は鳴子の紐とは異なる何かに囚われた。それは草と草を編んだだけの簡単なトラップであったが、獣は倒れる先を見てギョッとする。
彼らの倒れる先には尖らせた木の杭が何本も敷かれていたのだ。獣は倒れまいと本能で両手を地面に着くが、その手に杭が刺さって悲鳴をあげた。
何匹かの獣がそのトラップにかかると、その獣に足を引っ掻けてしまった獣が倒れてくる。不幸にものしかかられた獣は押し潰されて身体中に杭が刺さる。
トラップを回避して先頭を進んでいた獣は突如木の枝に叩かれた。体に激しく当たった木の枝には先ほどのトラップ同様に杭が仕込まれており、体に突き刺さる。
慌てて杭を抜こうとすると激しい激痛に襲われるばかりで一向に抜けない。酷いことにその杭には反しが施されていた。
これらのトラップは刀夜が一人で仕かけた為にあまり数を用意できていない。それでも獣達の先鋒は足止めを食らった。
さらにトラップを掻い潜り抜けた獣は机バリケードに差し当たる。横に倒した机を三段に積み上げて複数並べて円弧状にした簡易バリケードの四つが彼らを阻んだ。
あまり高くは無いがバリケード間には隙間があり、飛び越えるのが面倒な獣はその隙間を通ろうとした。だがそこには割れた蛍光灯が敷かれており、バリバリと音を立てて踏み歩いた獣の足にガラスが刺さる。
死に至るほどの怪我では無いものの、感じたこともないその痛みに獣は転げ回り、余計にガラスが刺さる。
怪我を負った獣により、隙間が通れなくなってしまうと後続はこん棒で机を叩いた。だが机の天板は頑丈でびくともしない。机の足同士を紐でくくり、死んだ獣を
面倒に感じた獣は卓越した跳躍力でバリケードを飛び越えた。だがその着地先にはホウキで作った槍が仕かけてあり、獣がそれに気づいたときには後の祭りで無惨にも串刺しとなる。
獣どもの知能指数の低さを考慮した刀夜のトラップに面白いように次々と獲物がかかる。
しかし獣の数は多い。倒れた獣を足場に机の間を通ろうとした獣はガラス窓に勢いよく破ってしまうと血だらけになり、さらに仕かけてあった杭に刺さってしまう。
獣達は
だがその思考も計算の内であり、木の枝のトラップが仕かけてある。しかし、ここは仕かけた罠の数が少ないために直ぐに打ち止めとなってしまった。
するとそこからゾロゾロとバリケードラインを突破された。また机の隙間も倒れている仲間を足場にして突破されてゆく。
トラップゾーンを突破した先の焚き火にはもう生徒は居なかった。どこへ逃げたのかと鼻をスンスンとさせて臭いを嗅ぐ。
だが臭いに頼る必要はない。森の闇の奥に松明の明かりが見える。獣は「オウオウ」と奇声を上げるとソレを聞き付けた仲間と共に松明の光を追った。
広場のほうから獣の声が聞こえた。もうバリケードを越えられてしまったのかと刀夜は焦る。
松明があっても暗い山道はほんの先しか見えない。だがそれでも全力で走らなければならなかった。
背後からガサガサという音が近づいてくる。間違いなく獣達が追ってきている。
突如、木の枝がバシッっと何かを叩く音がしたのと同時に獣の悲鳴が聞こえた。生徒達を追いかけ来て刀夜の仕かけたトラップに掛かったのだ。
刀夜は曲がりくねった逃走ルートの外れた位置に木の枝トラップを仕かけておいた。獣がショートカットしようとすると引っかかるような場所に。
だが、ここもたくさん用意できたわけではない。これで獣達が怯んでくれればと期待していたのだが獣達は
そしてついに追いつかれてしまう。颯太が気配に気づいて振り向くともう5メートル先にそれはいた。
「うわわわッ! 来てる来てる!」
颯太は軽くジャンプすると器用なことに空中で振り向き、持っていた石を投げつけた。暗闇の中から飛んできた石に気づかなかった獣はモロに顔面にぶつけてしまい転げる。
だがそのすぐ後ろから2匹の獣が追従しているのが見えた。
「ちくしょう、まだ来てやがるじゃねーか!!」
颯太は涙目で全力で逃走した。
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