第15話 ここは別世界

 作業を終えた生徒達は焚き火に集まった。

 いつでも脱出できるよう荷物はまとめられている。


 最後に刀夜は脱出ルートを確認してくると言って、松明をもって漆黒しっこくの闇の中へ向かった。


 どれほどの時間が経ったのだろうか。委員長が心配し始めた頃に暗闇の中から火が近づいてくる。脱出ルートを確認した刀夜がようやく帰ってきたので委員長が労う。


「ご苦労様、どんな感じだった?」


「わかっていても暗くて厳しいな。一応二百メートルくらいまでは木に目印を入れておいた」


 刀夜は座るのと同時に獣の着けていたバックを地面に置く。晴樹はそれを見て武器を回収したときの事を思い出した。


「そう言えば刀夜、調べるって言っていたけど情報はまとまったかい?」


 委員長初め他の者には何の事か分からない。刀夜も最初は何の事かと思ったが、獣を漁っていたときのやり取りを思い出した。


「ああ、だがその事を話す前に、ここがどこなのかハッキリさせておきたいな」


 ここがどこなのか、皆は薄々感じてはいる。ここが自分達の住んでいる所とは異なる場所だと。地球では無いという事を。たがそれを口にしてしまうと受け入れなくてはならなくなってしまう。


 だが刀夜は確実に違うという証拠が欲しかった。僅かな望みを論じて話が脱長になるのが嫌だったからだ。


 刀夜は水を一口飲むと続けて話す。


「金城君」


 ぼうっと空を見ていた金城雄真かなしろゆうまは急に自分が呼ばれて驚いた。


「な、何?」


「君は天文部で、ここが地球じゃ無いって事、もう分かっているんだろう」


「…………」


「それを皆に説明してやってくれないか?」


 雄真は確かにここが地球でないと確信していた。だが『分かっているんだろう』などという言い方をすることは刀夜も分かっているという事だ。


 なのになぜ自分に話を振るのか自分で説明すれば良いではないかと。刀夜の真意が分からなかった。


 だが刀夜は単に雄真が呟いていたのを聞いただけであり、その内容に『成るほど』と感銘かんめいを受けただけであった。


 自分は天文に詳しくない。ならば天文部の雄真に説明してもらったほうが説得力があると思っただけである。


 だが皆から注目を浴びてしまってはもう自分で話すしかない。こんなに注目されたのは初めての経験であり、人見知りの激しい雄真は緊張する。


「えっ……理由は……大別して2つで……月と星座……」


 たどたどしく語りだしたその口調に何人かがイラっと来た。


「その……月は大きさと速度と……クレーターの模様が……異なるから……」


 皆が一斉に上を向いて月を見る。月は丁度真上に来ていた。

 彼らの居るところはチューブの爆発の影響か、装置設置の為伐採されたのか、木は生えていないためよくみえる。


 月は地球で見るよりも大きく満月に近かったが月明かりはさほど明るくない。模様も確かに月ウサギはなく、むしろ模様が殆ど無いといっていい。速度については見続けていた雄真にしか分からないことであった。


「星座は……探しているのだけど……星の配置が……違う……」


「もういいよ金城君、ありがとう……」


 刀夜は彼に説明を求めたことを後悔した。天文に詳しい彼ならスラスラ説明してくれると期待したのだが、逆に無駄に時間を費やしてしまった。急いで続きの説明に入る。


「ここが俺達のいる地球じゃないことをまず踏まえて欲しい。それでここからが本題……」


 ここが地球ではないということは救援は望めないのだと、ゆえにそのそうな議論はしなでくれと刀夜は皆に釘をさしたのだ。刀夜は改めて仕切り直す。


「俺達を襲った獣だけど連中は知能指数が低く原始人並みだったわけだが……」


 龍児は『そんなの見りゃ分かるだろ』と悪態をつこうとしたが刀夜の話に続きがあるようなので開きかけた口を摘む。この男が一体何を考えているのか、そちらのほうが気になって話を聞きたいと思った。


 刀夜は棍棒と剣を見比べれるように2つ並べて立ててみせた。


「奴等の武器だが2つを比べてみると大きさが全然異なっていて棍棒のほうが大きい。特にグリップ部分など謙虚に差がある。作りにおいてもこん棒のほうは粗悪な作りで削っただけという感じだが連中の腕の長さや筋力から想定してから使いやすい大きさだといえる」


 刀夜は棍棒を倒して剣だけを立てた。


「対して、こっちの剣はグリップが短く奴らの手の大きさに合わない。作りも精巧で明らかに技術に差がある。大きさも奴らが使うには釣り合っていない。加えてこのバッグ。連中は腰に巻き付けていたけどこうすると……」


 刀夜は立ち上がりバッグの紐を肩に通した。その姿に勘の良い生徒がどよめき始めた。またそれまで興味を示していなかった生徒も注目する。


「ぴったりだ。ついでに剣も俺が手にすれば……丁度いいサイズとなる」


「八神君……まさかそっちの装備は……」


「そう、この装備は奪われたモノだ。恐らく俺達のような人型でいて、このようなモノを作れる文明を持っている者から奪ったんだ」


 刀夜の言葉に全員が息をのむ。だが副委員長が疑問を投げかけた。


「ま、待って、だからと言って人間とは限らないのでしょう? その……目の大きい宇宙人かもしれないのよね?」


 もっともな意見だった。そして刀夜は持論の切り札をバッグから取り出す。


 銅貨4枚と銀貨1枚。銅貨は隣の委員長に渡し、銀貨を皆に見せた。


「これは連中の革の鞄から見つかったものだ。分かるだろう? これは貨幣だ。しかもこの貨幣には……」


 刀夜は銀貨の表を皆に見せると驚きの声が一斉にあがる。


 銀貨には人の顔が描かれていたのだ。


 ここは地球ではない、しかしこの世界には人間がいる。もしかしたら自分達のように飛ばされて文明を築いた先人達がいるのかも知れない。


 そんな想像を働かせ、助かるかも知れないという期待が彼らの不安を和らげていた。


 そして刀夜が見た街らしき存在などをネタに話が沸いていたが、やがて空腹と眠気で騒ぎは徐々に静かになり。


 虫と風の音だけの世界へと変わっていった。


 くじ引きで決まった見張り役を除いて大半の生徒は眠りについていた。

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