第14話 先生失格
武器の回収にきた晴樹が刀夜に問う。
「さっきから、何やってんだい?」
刀夜は獣が腰に着けている紐のついた小さな革のバックを集めて中身を漁っていた。
「こいつらの事とか、色々情報がないか調べている」
「何か分かったのかい?」
刀夜は手を止めて晴樹の顔を見た。
「考えていることはあるが、まだ言えるほど整理できていない」
「そっか、じゃあ分かったらまた皆にも教えてくれよ」
「ああ、わかった」
短く会話すると互いに作業を続けた。
刀夜は革のバックに隠したものを再びこっそりと取り出す。それは銅でできたコインと銀でできたコインだ。コインには何か模様と文字らしき物が刻まれている。
刀夜は確信する。これはこの世界の通貨だと。
銅貨は36枚、銀貨は40枚あった。
「これで最後だな」
「ふぅー死体って結構重いんだなー」
龍児と颯太はクラスメイトの遺体を教室前に並べた。そして運んでいたカーテンで顔以外を覆う。
そこへ委員長と花束を抱えた副委員長がやってくる。花はその辺りの茂に咲いていたものだ。
「できたみたいだね」
「ご苦労様、大変だったでしょう。これ、水どうぞ」
副委員長は嫌な仕事を押し付けてしまったことを申し訳なく思いつつ、二人の苦労を労った。
龍児と颯太は二人から水を受けとると礼をいう。しかし颯太は皆が我慢していることを口にしまった。
「流石に腹が減ってきたぜ、水で腹膨らますのも辛くなってきた」
「お菓子が幾つか見つかったから、後で皆で分けよう」
「うお、マジか!? 期待してるぜ」
「……いや……あまり期待しないでくれ……」
颯太があまりにも嬉しそうにするので委員長は申し訳なくなってしまった。見つかったお菓子はごく僅かでしかない。しかもその半数は葵の机から出てきたものだ。
「じゃそろそろ葬儀を始めよう」
委員長は大きな声で皆を集めた。7名の遺体が並ぶ。顔に布がかけられているのは大きな損傷を受けた者だ。
副委員長から花を受け取って一人一人に添えてゆくと堪えていた涙が
「――
目を瞑る者。友達に寄り添い泣きじゃくる者。遺体の前にへたりこむ者。手を合わせる者。歯を食い縛り耐える者。
みな
皆がたき火に集まる。全員にささやかなお菓子が配られた。亡くなった友達の話を皆がそれぞれ語ってみる。話が盛り上がってきた所で委員長が口を開いた。
「所で八神君、集めた材料をどうするつもりなのか、プランがあるなら聞かせてくれないか?」
刀夜は
「もし再度襲撃があった場合、俺は戦わず逃げるべきだと考えている」
「戦わず逃げるってのか?」
龍児は不満なのかややドスの効いた声をあげた。
「そうだ」
「俺は奴等をギタギタにしてやらなきゃ気が済まねえ!」
龍児は興奮してつい大声をあげてしまった。その声に何人かがビクリとする。対して刀夜は落ち着いた声で話す。
「戦えば犠牲者が出る。今度は比にならない殆どの犠牲になる。理由はこちらの人数は減ったのと、もし再襲撃してくるなら敵の数はもっと多くなる可能性がある」
刀夜は再襲撃があると予測していた。そしてそれは龍児も同じである。
龍児は見た。逃げていく獣の振り向き様の目を。それは復讐者の目であることを龍児はよく知っている。
そのような理由で龍児は刀夜の説明にそれ以上反論しようとはしなかった。刀夜は説明を続ける。
「無論、襲撃なぞなければそれに越したことはない。だが俺は万全を期したい。一人でも生きていて欲しいから」
「具体的にどんな対策をすれば、いいんだい?」
委員長は再び皆に作業を振り分ける為に刀夜の考えを理解する必要性を感じている。これまで彼の性格はともかく判断は的確で早く、何よりも機転の良さに
刀夜はこの手のサバイバル知識が高かった。趣味のネットで情報を得ては試してみて試行錯誤する。時にはアングラサイトにまで手を出したりもしていた。
だが刀夜にしてみれば、こんな状況だから輝いているだけであって、平和な日常では何の役にも立たない知識である。むしろ他は他人より大きく劣っていると劣等感を持っていたほどである。
刀夜は委員長の言葉に
その内容は机や椅子でバリケードを作って獣の遺体を重しにする。
ホウキは先端を尖らせて固定槍に。
蛍光灯は割って地面にばらまいてマキビシにする。
ケーブルと枝木を使って鳴子を作る。
刀夜は配置図を地面に書いてみせた。要は早期警戒、そしてトラップで阻まれている間に逃走するというものであった。
皆の同意を得て委員長と副委員長が人員の割り当てを行うと作業にかかる。着々と作業が進む中、智恵美先生が委員長に龍児を呼んでもらった。
龍児と委員長、副委員長が揃うと先生がお願いをする。
「何の用だ、先生」
「皆にお願いがあるの、背負い椅子を作ってくれないかしら? そして逃げる際には津村さんを背負ってもらえないかしら佐藤君」
「……龍児だ」
「……龍児君、あなたに負担をかけるのは……」
「いいぜ、任せておいてくれ……」
そう答えたものの龍児は不安が過った。足を折れた彼女の様態もだが、何よりも先生の顔色が良くない。虚ろな表情はいかにも精神的に疲れ果てている感じだ。
「ありがとうね……」
先生は笑顔を返しているつもりだったが。口許だけが歪み、笑顔は歪だった。そんな先生に龍児は危険を感じた。
「……先生、あんた先生辞めほうがいいぜ」
「えっ?」
先生の表情が曇る。まるで自分の存在を否定されたかのように彼女は怯えた。
「な、なんて事を言い出すんだ佐藤君!」
「龍児だ」
「そんな、細かいことはいい」
「そうですわ、遠藤先生は先生でしょう。目上のかたを軽んじるつもりですか?」
副委員長の言葉で龍児は自分の言葉が誤解されていることを知り慌てて補足する。
「ち、違う、俺はそーゆーことを言いたかったんじゃない」
龍児は智恵美先生の両肩に手を置いて真剣な表情で彼女を説得した。
「遠藤智恵美さん!」
「は、はひッ」
いきなりフルネームで呼ばれ、彼女はビクつく。
「教師だからって重荷を背負い込む必要なんてないんだぜ。俺達を生徒じゃなく仲間と思って何でも頼ってくれればいい。重荷は仲間で背負うものだろ?」
彼女はようやく彼の言いたいことを理解した。
自分でも神経が
ならば彼のいうとおりにするのも悪く無い。
そうのほうが楽かも知れない。
「ありがとう佐藤君。でも、やっぱり、らしくないだろうけど先生と呼ばれたいかな」
智恵美先生は今度こそちゃんとした笑顔で龍児に答えた。
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