第10話 委員長

 刀夜は智恵美先生に鼻血の治療をしてもらっていた。委員長の拓真はみんなに指示を出して焚き火の準備にとりかかる。


 そこに晴樹と梨沙が帰ってきた。梨沙はまだ皆と目を合わせることができないようだが、人前には出てこられるようには回復したようである。


 智恵美先生は刀夜の治療が終わると梨沙のほうへ向い、彼女の肩に手をかけた。代わりに晴樹が刀夜の隣に座る。


「……ハル……その、すまん」


「いいよ、刀夜の事は知っているつもりだから」


「あいつ、あやまっておいたほうがいいか?」


「今は止めといたほうがいいよ、もっと落ち着いてからのほうがいい」


「そっか……駄目だな俺は……皆ともめ事を起こすつもりは無かったんだが……」


「刀夜の言動、性格は独特のものがあるからね。慣れるには時間が必要だよ」


「ど、独特……なのか?」


「かなりね、俺も慣れるのに時間かかったもん」


 刀夜にしてみれば、自分が特殊だとは思っていなかった。だが親友にそう言われればそうなのかも知れない。


 刀夜は他人に対して自分から見下すような態度は取らないが、同年代に比べれば自分のほうが大人びた考えを持っていると自負している。だがその考え自体がおごりだったのかも知れない。


「どうすればいい?」


 刀夜は晴樹に助言を求めた。晴樹はコミュニケーション能力が高い。自分には大きく欠けている部分だと理解はしていた。したがって他人とうまく行かないとき、刀夜はよく晴樹に助けを求める。


「失敗しても、どんどん皆と話すのがいいと思うよ。例えば委員長なんか話しやすいよ」


「そ、そうか」


 正直なところ苦手だがやってみることにした。せっかく親友がアドバイスしてくれたのだから無にしたくない。


 刀夜は立ち上がると辺りを見回す。龍児と目が合うが互いに目を反らした。アレとはさすがに話はできない。


 周りを観察すると火を起こそうとしている生徒が目に入る。教科書をビリビリ破いて着火材にしようとするが、肝心の薪が井形に組まれており、刀夜はそれではダメだとがっかりする。


 だが話の話題にはなる。


「ちょっと行ってくる」


「はい、いってらっしゃい」


 晴樹は笑顔で刀夜を見送った。刀夜は委員長の元に行く。


 直接指導しても良かったのだが、梨沙と龍児の一件で他の生徒から嫌煙けんえんされる可能性を考慮し、晴樹のアドバイスにしたがった。


「委員長、ちょっといいか」


「八神君、もう大丈夫なのかい?」


 委員長こと河内拓真かわうちたくまは彼自信の性格もあるが、比較的誰にでも公正に接しようと心がけている。非常に真面目な性格で、小学生の頃からやっている空手は日々の鍛練が功を奏して実力もそこそこである。


 勉強に関してもすべての教科に対し均等に勉強しており、苦手科目が無い。成績は副委員長の宇佐美舞衣と姫反由美には一歩及ばなかったもののクラスでは毎回ベスト3に入っている。


「大丈夫だ。所で薪の組み方なのだが、井形で薪を組むと火力が強すぎてすぐに薪を使い切ってしまう。だから合唱型に組み、火を中心に集めるようにして火力を調整したほうがいい」


「ふむ、君は博識だな……」


「そんな事は無い。ただ片寄っているだけだ……」


謙遜けんそんすることはない。クライマーの件といいさっきの喧嘩けんかといい、知らない事だらけで驚かされてばかりだ」


 刀夜は同年代に誉められることに慣れていなかった。委員長の純然じゅんぜんたる言葉にやや気恥ずかしさを覚える。


「だが喧嘩けんかは良くないな、こんな状況だし」


「すまん」


「薪の組み方だが君が直接、教えてやったほうが良いのではないか?」


「あんな後だからな。直接はちょっと……」


「それはいかんな! よし僕も一緒してやろう。それならやりやすいだろう?」


 委員長は刀夜の返事を待たず背中を押した。


 拓真は拓真なりにクラス全体がうまく行くよう最大限に気を配っていた。中でも刀夜と龍児、梨沙の扱いは難しい。


 刀夜には晴樹が、龍児には颯太がいたので特に今まで口を挟まなかった。だが問題が生じた以上、彼に干渉してこれを期にクラスに馴染んで欲しいと考えた。


 そんな様子を不満そうに見ている男がいた。ホウキ頭の久保颯太だ。


「やっぱ気にいらねぇ、手加減なんかしないでやっちまえば良かったんじゃねぇの龍児……」


 龍児にしてみれば手加減した覚えは無かった。だが龍児の戦い方は徐々に調子上げるスロースタータータイプであった為、颯太には手加減しているように見えたのだ。


「――颯太……お前、薪に火を着けてまわってやってくれ。俺は薪を配る」


「へ?」


 颯太は龍児の意外な言葉に唖然あぜんとした。龍児は颯太が『何で』と言った顔をしているのに気がつくと補足した。


「お前、連中から役立たずと言われるのと感謝されるの、どっちがいい?」


「え、まぁ……そりゃ、感謝かな……」


「このままじゃ、役立たずのレッテル張られるぞ」


 龍児はこのまま何もしなかった場合、再度刀夜とぶつかった最に見下される気がしていた。そしてそんな屈辱に耐えられそうに無かった。特に刀夜に対しては。


「そ、そうだな。じゃあ面倒だが行ってくるわ」


 颯太はポケットからライターを出して組み直された焚き火の元に向かった。龍児もかき集めた薪を焚き火の場所へと運ぶ。

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