鵺
でもでもね
第1話たまごの殻が割れる音
目が覚めるとそこは見知らぬ場所だった
狭いカプセルに閉じ込められていた
ここから出なくてはいけない
起き上がろうとすると何も問題なくそのカプセルは煙を上げて開き出ることができた
カプセルから足をだし床に足の裏をつく
はだしのせいか床がひんやり冷たかった
そのとき辺りが明るくなった
照明がついたのだ
白いTシャツと白いズボンにはだし
自分の恰好はそんなだった
さほど広くはない部屋
天井、壁、床すべてに浜辺の映像が流れていた
足元には波がひいては迫ってを繰り返す
目の前には扉がある
全く見覚えのない部屋に見覚えのない恰好
そして自分は誰なのだろうか
とりあえずこのカプセルのある部屋から出よう
おずおずと扉まで歩くと自動的に扉が開く
扉の先は短い廊下がまっすぐ続いていた
この廊下も全体に深海の映像が流れている
何もわからないまま廊下を進む
歩みを進める足の裏から伝わる冷たさが一層恐怖をあおる
『CEO。記者会見のご準備はできましたでしょうか。』
急に頭の中から男の声がした
びっくりして体が跳ね上がって立ち止まる
心臓が波打っている
『CEO?大丈夫ですか?』
たぶんボイスメッセージか何かの類なのかもしれない…
でも、返事をする方法と返答がわからない
『CEO?』
たすけてくれ
『お部屋に伺いますね。』
その瞬間、歩いていた廊下の突き当りにある扉が開く
スーツを着た見知らぬ中東系の男が立っていた
「まだ、準備されていなかったのですね…」
どうやらさっきの声の主らしい
今は頭の中でなく口を動かして話しかけてきている
俺はその男の前まで歩みを進める
「秘書に着替えまでさせる気ですか…」
秘書?
俺には秘書がいるのか?
その秘書と名乗る男は入ってきた扉の横にあるボタンを押すと俺が着ていた白い上下の服が消え瞬時にスーツに変わった
靴も履いている
服はホログラムだったのか…?
「さて。記者会見室に向かいますよ」
今初めて会ったばかりの秘書と名乗る男に頼るしかないと思ったが、身に覚えのない記者会見をするのか…
真っ白く何の装飾もない廊下を躊躇なく進んでいく秘書
急いでいるみたいだし、ついてく行くしかないよな…
秘書は急に左へ進路を変更し真っ白い壁に手をかざす
すると隠し扉かのように一部の壁がスライドしてその先には部屋が現れた
その暗い部屋にはたくさんの透過液晶があり、「LIVE」の文字が浮かんでいた
「あそこにお立ちください。」
秘書は部屋の真ん中にある足の裏のマークがある位置を指さしながらそう言った
足の裏のマークと自分の靴の裏をぴったりと合わせて立った
〔ペンタゴン社CEO森谷 隼が入室しました〕の文字とキーボードが目の前に表示される
自分の名前は『森谷 隼』というのか
そして、CEO…
『メモリバンクとは脳内チップの容量で保存できない記憶や暗号をクラウドサーバーにて保存できるサービスです。ご安心いただけるメモリバンクをご利用の際は「ペンタゴン」で検索』
会社のCMであろう女性のナレーションが響き渡った後、静寂になる
〔これより本日13月2日13時46分。弊社のメモリバンクにウイルスが侵入し、利用者様の記憶の欠如や入れ違いが起こってしまったことにつきましてCEOからご説明と進捗、そして謝罪をさせていただきます。〕
松谷ニュースの透過液晶に文字が浮かび上がる
〔松谷ニュース:松谷ニュースの矢部です。復興の目途はついているのでしょうか?またバックアップの状況を教えてください。〕
何もわからない森谷は立ち尽くすまま
〔松谷ニュース:CEO?どうなされたんですか?〕
そこに秘書が対応する
〔復興の目途は未だついておりません。またバックアップもIaaSにて複写したクラウドサーバーに厳重に保管しておりましたが…こちらも破壊されました。大変申し訳ございませんでした。〕
どうやら目の前に浮かび上がっているキーボードのアルファベットを目で追いかけて瞬きで入力するらしい
〔松谷ニュース:それは…被害者の記憶はもう戻らないとゆうことでしょうか?〕
〔善処いたします。個々にバックアップをとっていた方々についてはそちらで対応していただきたい所存でございます。〕
〔松谷ニュース:これから被害者の方々と裁判になることを覚悟しているとゆうことですね。かしこまりました。〕
竹善ニュースの透過液晶に文字が浮かび上がる
〔竹善ニュース:竹善ニュースの丸山です。今回の件ですが、御社のような大手メモリバンクに支障が出るとは思いませんでした。ウイルス対策はしていたのでしょうか。〕
〔弊社のセキュリティはAIの「ニケ」に対応していただいておりました。調査結果、IaaS内の別のクラウドサーバーからのクラッキングだと判断した段階です。〕
また秘書が対応する
〔竹善ニュース:そのサーバーの行方は?〕
〔そのサーバーが消えました…。ですので、今、警視庁にてそのサーバーが立ち上がった時間から調査中です。〕
〔竹善ニュース:さすがに今回の件についてはいつものように大口を叩かないのですね。ありがとうございました。〕
そして、秘書が口頭で「ここでCEOの今の映像を流しますので、頭をさげて謝罪だけお願いします。」と俺につげる
目の前が明るくなり目を細めると、出口付近にいる秘書が首を縦にふる
なんとなく状況はつかめたが、詳細をわからないなりに謝罪の言葉を述べたほうがよさそうだな
「本日、起きたことに対して多大な方々に被害を及ばせてしまったこと、大変申し訳ございませんでした。今後、被害者の方々にメモリの回復のバックアップをできるよう努めてまいります。」
そして俺は頭を深々とさげた
…
会見が終了し全く知らないことで罪を背負わされたと自覚する
自分がどんな地位でどんな事業をしていてどんな人間性なのかが何となく理解できた
ここで自分も記憶喪失になったと前を歩く秘書とやらに言ったほうが良いのだろうか
…でも。今はとてもそんなことを言っている雰囲気ではないとゆうことは秘書の歩く音の速さで理解できた
もしかしたら自分の記憶もそのウイルスのせいでどこかに行ったのか…?
先ほど通った真っ白くて長い廊下を通る。あの部屋に帰るのだろう
前を歩く秘書がこちらを向かずに俺に言葉を述べる
「謝罪だけでよいと言ったではないですか。メモリ回復までもっていけるAIもうちの会社はありませんし。そのシステムの開発とAIのアップロードに割く予算はほぼ調査にとられているんですよ?」
そうなのか…
俺にどうしろっていうんだ
目の前に「フィリップ」とゆう人物からメッセージが着たとゆうホログラムがでる
瞬きをして開こうとするとモバイルのロック解除入力に移る
〔DNAコード〕
〔clear〕
〔再起動ですのでパスワードの入力が必要です〕
パスなんかわからない
キーボードも映し出されているが陳列されているアルファベットを目で追って入力したところで何も記憶のない自分には意味がない
見覚えのある部屋の扉の前につき秘書とやらは
「自室にお戻りになり、少し冷静になさってください。私はここにおりますので。」
と、扉の横に立つ
先ほど出て行った扉を今度は入る
自室だといわれても何も知らないから全くくつろげない
またこの深海の廊下
とりあえず、のどが渇いたので水がありそうな部屋を探す
一番初めに入った部屋がバスルームだったので安心した
そこには全身を写す鏡があり、初めて自分の姿を見る
髪は黒く瞳の色は青い
自分は日本人だと思っていたが、鏡を見るとそうは思えなかった
黒い髪に青い瞳が浮いているようで気になり鏡の近くへ行き、自分であろう顔を凝視した
真っ青だ。
自分の瞳を見ているのだろうが、真っ青すぎて目が痛い
すると、左眼球の左側の白目に何か書いてあることに気づいた
「SIGILLVM」
謎の文字の刻印がされている
先ほどのメールを開くパスワードかもしれない
と思った瞬間先ほどのロック解除入力が目の前に浮かび上がった
〔DNAコード〕
〔clear〕
〔再起動ですのでパスワードの入力が必要です〕
〔SIGILLVM〕
〔error〕
眼球の刻印を入力してみたが違っているようだった。
『CEO。本日18時から予定していたパーティーがありますがご参加されますか?』と脳内から聞こえてくる
さっきの秘書の声だ…
メールも開けない俺には出来ない機能を使ってくる秘書に少し嫉妬をし、パーティーについて考える
知らないパーティーなんかに参加している場合じゃない
自分の記憶の回復にも調査中の警視庁を訪れるべきだ
応答したいが…
視界の右上に小さく点滅している吹き出しマークのホログラムがあることに気づく
その吹き出しマークに焦点を合わせ瞬きして開いてみる
〔ルーム:666〕
〔森谷が入室しました〕
の文字が目の前に大きく浮かび上がる
なるほど…
『パーティーはキャンセルして、警視庁へ行き進捗をいち早く聞きたい。』
『かしこまりました。先に車の手配をいたしますので、CEOはご準備ができたら駐車場までお越しくださいませ。』
〔ルーム:666からエイブラハムが退室しました〕
「あ。駐車場の場所…」
ボイスチャットに入るにはパスワードは必要ないってことか…
記憶がないことをどのタイミングで切り出そうか…
何もわからないままバスルームを後にし自室を出た
とにかく今は駐車場を探そう
初めてのことばかりで全くわけがわからない
混乱で発狂しそうだ
俺は何者なんだ。もし俺のメモリがほかの人間のチップに移っていたり消えていたとしたら今の俺はどこから生まれたメモリなんだ。
この事件を解決すれば答えは見えてくるかもしれない。
鵺 でもでもね @demodemo
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