第26話 とある大学教授のエルフ史概論 9

 はーいどうもー、ホシノです。祝日がはさまったのでなんだか久々な気がしますが、今日も元気に講義をしていきましょうね。


 というわけで今回は暗黒時代後期です。

 この時期の期間は暗黒時代の中でも短いんですが、ぶっちゃけ前期と中期が長すぎるだけで後期も十分長いです。

 歴史学上、後期の期間は紀元前9000年ごろから紀元前1046年までのおよそ8000年です。始まりが「ごろ」なのに終わりを断言するのは、終わりの年が明確だからですね。


 では始めていきましょう。レジュメの準備はいいですか?


 暗黒時代後期の幕開けは、ロウにおいては終末派の再駆逐が済んだ時点、皇国においては浮遊島アマテラスが今の天照大陸の形に整った時点と定義されています。順に見ていきますよ。


 細かい経緯はただひたすらに煩雑で面倒なだけなので省きますが、暗黒時代中期の終わり頃はロウにとって最も派閥間の政争が激しかった時期です。

 中でも初代教皇であるノアによって直々に異端と定められた過激派、終末派がテロによって復活して以降の「宗論」は「宗論(物理)」なので、結構な期間ロウは内戦状態になります。

 これらに終止符を打ち、曲がりなりにもロウが一つにまとまり直したところを歴史では暗黒時代後期の開始地点としているわけですね。


 というのも以降、テロなど犯罪行為を犯さない限りはどんな解釈の派閥であってもその教えを弾圧することはしないと定められたからです。

 これは一種の宗教改革と言っていいでしょう。ここを境にロウの概念も中期と後期に分かれるため、歴史もそこに歩調を合わせている形ですね。

 あ、前期ですか? 前期はあれです、以前話したようにクロニカ崇拝が強まる前の段階のことですよ。


 えー一方でですね、皇国が暗黒時代後期に入ったとみなされる天照大陸の完成は、そのおよそ300年後。このため開始のタイミングには幅を持たせた言い方になるわけです。


 あ、浮遊大陸の完成についてはさほど言うことはないです。当初は小さな島でしかなかった浮遊島が、現代の天照大陸の形になった。それ以上の意味はないです。無理に挙げるとしたら、ロウへの反攻のための各種産業がここから軌道に乗る、でしょうか。

 じゃあなんでそこが区切りかって言われたら、ロウ側の変化に対応する区分になりそうな出来事が他になかったからですね……。

 こじつけかよって言われそうですが、本当にこの前後の皇国は何もないんですよ。国力向上に全力を注ぎすぎてる時期と言うか、今まで2万年もろくに国土を拡張できなかった反動みたいな感じで……。


 ともあれそんなわけでちょっとグダってますが、暗黒時代後期は始まるわけです。


 ではこの時代がどんな時代かと言えば、ロウによる地上世界の統制が完成した時代と言えるでしょう。

 この時期は、ロウが崇める全史黒書における人類の文明が勃興した時期と重なります。このため、ロウはその通りの歴史を作るべく地上世界への再干渉を始めます。その上で統制を行ったわけですね。

 そしてこれらを語る上で絶対に外せない発明があります。レジュメを進めますね。


 ……はい。えー、この時期にロウがなした、絶対に外せない発明。それこそが精神魔術です。


 精神魔術がどういう分野の魔術か、その詳細は専門家にお任せします。まあ大雑把に言えば、他人の心を操作する魔術なんですけども。はい、皆さんご存知の通り、現在では厳格な免許制が敷かれているあれですね。


 これは現代でもちゃんとした知識と技術がなければ副作用は必至なものでして、だからこその免許制なわけですが……開発当時は今以上に危険なものでした。

 それも当然で、そもそも当時は脳の仕組みは未解明のところが今より相当多かったため、魔術としても決して完成品とは言えない出来栄えだったんですよね。この術の対象者はみな重篤な副作用を何かしら起こしていたのですから、まさに危険物。精神魔術は一時期皇国によって禁術指定されていましたが、それも納得していただけるかと思います。

 後年になって精神疾患の治療に転用すべく研究が進みますが、それは暦が今のものに定まってなおまだ時間が必要です。


 ではそんな精神魔術が、どう使われたかですが……これは大体想像できるんじゃないでしょうか。

 ええ、そうです。地上の人間……フィエンの中でもこれはと思う人物の思考や精神を操作、もしくは改変し、都合のいい操り人形として歴史を意図した通りに作っていったのです。ロウに見出された人々は、ときに英雄、ときに神という立場となって地上世界を動かしていくことになったわけですね。


 たとえば、ギリシア地域の神としてゼウスという……某宗教で言うところの天空神カリヤ・バンパの劣化版みたいな神様が出てきますが、それを名乗らせて周辺地域の統合を行わせたり。

 あるいは中華地域の名君としてという帝王がいますが、それを生み出すために治水など必要な知識を植え付けて夏王朝を開かせたり。

 はたまたエジプトから人々を導いた指導者としてモーセという人物がいますが、川に捨てられた子供にそう名付けて育てるようファラオの王女を誘導したり。


 少なくとも人理焼却後の地上世界における紀元前の歴史は、このようにしてロウによって作られていきました。そのすべては全史黒書に書かれている内容に沿っています。

 もちろん全史黒書もすべてがすべて克明に記されているわけではなく、特に紀元前3000年代以前はかなりあいまいなのですが……それでもロウは黒書に従いました。


 そしてこうしたロウの誘導を受けた人々は先ほども述べた通り、みな精神魔術による何かしらの副作用を起こしそれに苦しみました。

 代表的な症例としては、夏王朝を打倒した湯王ですね。精神魔術によって脳が異常を起こし、またその際に用いられたマナリウムと過剰反応を起こした結果いつぞやのニアーラみたいな巨大な化け物に変貌してしまったというのは、精神魔術に関する参考書や過去問などでよく出てきます。まあその辺りを細かく語るのは、歴史学より魔術学のほうが相応しいと思うので割愛しますけど。


 話を戻しまして……えー、私が以前の講義で、地上世界の歴史を歴史と言っていいものかどうか、という趣旨の発言をしたのはここが理由です。

 他人によっていいように操作され、人々の向かう先を勝手に決めつけ、そうあるべしとして作られたものを歴史と呼ぶのはちょっと……この分野の学者としては、どうしても忌避感があるんですよね。いや、ロウが滅んで以降……新暦になってからは別なんですけど。


 ……おほん、ともあれかくして地上には、あちこちに文明がされていきます。フィエンがいない地域にはわざわざ他からさらって連れて行ったりとかもありました。こうした一連の事業は年代正編と呼ばれ、人理焼却に続くロウの宗教活動となります。

 この中でロウは黄河、チグリス・ユーフラテス、ナイル、インダスの川に依った文明を特に重視しましたが、これらはひとえに、全史黒書において当該地域が文明の発祥地の中でも大きく取り上げられていたからですね。他の地域にもロウはばっちり手を入れていましたが、メインになったのはこの四地点になります。


 そんな中、この年代正編によって窮地に立たされた人々がいました。そう、地上世界に取り残され、森や山奥で隠れて生活していたエルフたちです。フィエンたちの生息域が広がるにつれて、彼らはどんどん追いやられていきました。

 それでも彼らにとっての不幸中の幸いは、ロウの彼らへの対応が人理焼却の頃と異なり、即滅ではなく地上世界のフィエンたちに迫害させる方向にシフトしていたことでしょうか。


 それのどこが幸せなのかと思われるかもしれませんが、要するにこの時期のロウは、地上でエルフを見つけても殺さなかったんですよ。かつては見つけたら周辺一帯ごと薙ぎ払うくらいのことをしていたんです。それに比べれば、まだナンボかマシでしょう。実際に地上世界のエルフたちは暗黒時代が終わるまで生き抜き、絶滅しませんでしたし。


 まあ、そうしていたと言うよりはそうせざるを得なかった、と言ったほうが正しいんですけどね。歴史を正しく導きたかったロウにとって、地上の大破壊は既に控えなければならない段階に来ていましたから。

 方舟伝説やソドムとゴモラの事件のように、歴史の実現のために大破壊をしなければならない機会では遠慮なくやっていますが、それは限られた例です。


 結果として、地上世界のフィエンにはエルフをことさらに差別する習慣が魂レベルで根付いてしまい……アレクサンドロス大王の時代にはスナック感覚で村を焼かれたりするほどになってしまいました。

 これによる種族間の不仲が現代にまで尾を引いていることは、皆さんもご存知の通りです。新暦に移って以降も人種間戦争は大なり小なり各地で起こっていますし、なんなら現代でも紛争問題として取り沙汰されることがあるのを考えると、ロウの罪は極めて重いと言えますね。


 ……あ、ちなみにですけど、ロウが暗黒時代後期にたまに行っていた破壊の事例は、神話や伝説として各地のフィエンたちの記憶にしっかり残りました。

 というか、そもそもロウの浮遊大陸は皇国と違って隠れておらず、ユーラシア大陸の上空を不規則に漂っていましたからね。たまに大破壊をやらかす浮遊大陸は、この頃の地上世界では日常的にそこにあるいつもの風景でありながら、恐怖と畏敬の対象でもありました。

 この頃のロウの浮遊大陸は、エジプトの書物から取って「黒の夢」と呼称するのが歴史学では一般的であります。


(あながち間違ってないからサピエンスは侮れないんだよなぁ)


 ……おほん、というところで話を空の上に戻しましょう。レジュメを次に。次は技術についての話をします。


 えー、地上ではかくのように制御に勤しんでいたロウですが、この暗黒後期のごく初めごろ、彼らの本拠地である天上世界では新たな発明として空鯨型の飛法船ひほうせんが現れます。

 飛法船は古典時代に開発されてから様々な改良がなされ、この時期に至るまでに多種多様なものが出ていましたが、この空鯨型によって一つの完成を見ます。


 すなわち、船の大半をアダマンチウム製とすることでソラリウムを機体内で完全循環し、初期からの問題であったソラリウムの目減りとそれに伴う補給を極限まで削れるようになったのです。

 その仕組み上、大型のタンクと循環用の配管などによって鯨のようなぽっちゃりした見た目にならざるを得ないため、尖ったデザインを好む人々からは敬遠されましたが、一般には間もなく広く普及することになりました。

 ロウにさほど間を置くことなく皇国でも開発され、この飛法船はグロセア機関が発明されるまでのおよそ一万年間、空を席巻することになります。


 同時期、揚力を利用した飛行機も発明されているんですが……こちらは燃料コストや騒音、ホバリング性能の低さなどからロウ、皇国共に採用を見送っています。

 速度に関しては断然飛行機なんですが……いかんせん前回述べた通り、天上世界では資源が限られていますからね。皇国は特に、隠密に気をつけねばならない立場でしたし仕方ないでしょう。


 この他、暗黒後期の発明……ではないですが変化として、マギアデバイスの普及がありますね。

 ライトセイバー以降、ロウと皇国の別なく様々な形のデバイスが登場しますが、庶民全員に至るまでは無理にしても、戦闘要員や錬成魔術師には概ね行き渡るくらいには普及と小型化が進みます。これにより、両国は国力および兵力がさらに増強されました。


 そしてこうした進化が、ロウにおいてこの時期に止まり、一方の皇国ではさらに追求されます。

 これはやはり、既に敵はいないと認識していたロウと、敵を倒す機会を狙っていた皇国との差でしょう。もちろん政治的な停滞も影響があったでしょうね。

 この辺りも含め、暗黒後期は相変わらず劇的な発明や変化は少ないですが、逆に既存の技術はそれまでに比べてかなり改良が進みました。飛法船と合わせて、デバイス、レプリケーターの進歩は注目すべきポイントです。


 この他に目を惹く出来事としては、エルフという生物の生態解明がかなり進んだことを挙げてもいいでしょう。レジュメを進めてください。

 というのもですね、現在では当たり前のこととして知られているエルフ因子とマギア因子、そしてそれらが絡むことで生じている現象などの多くが明らかになったのは、この時期なんですよ。

 結果として、エルフに設けられていた人口抑制策がそれに沿う形でより具体的に定められるようになったり、人種間のあれそれなどにも影響が出ました。半エルフの人口が増えるとかですね。


 ただしその一方で、エルフ因子が例外なく生後300年で機能停止する事実が明らかになったことで、300歳以降のエルフの心身双方の老化を止めるすべがないこともわかってしまい、自殺者もかなり増えたんですがね。


 何せエルフ因子は、深刻な寝不足や栄養不足などがない限りは、精神疾患も含めたあらゆる不調をなかったことにします。その加護……そうですね、これは加護でしょう。加護がなくなることで生じる変化を防げないと知って、多くのエルフがそれを受け入れられずに自殺してしまったのです。

 元々変化を嫌う性質が他の種族より強いこともあってか、老いていく自分に耐えられないという声は今もよく聞きますからね……当時の人々の絶望はかなり深いものであったとうかがい知れます。そうした手記や日記などは、結構多く残っていてこの手の分野の資料として活用されていますがそれはさておき……。


 こうした自殺者はしばらく頻発して天上世界の人口は一時的に減少に傾きましたが……皇国にはフィエンやドワーフがいたため、彼らの助言と協力によってそうした自殺はほどなくして減りました。ゼロにはなりませんでしたがそれは今でもですし、何よりここで皇国が人口減少に転じなかったことはのちのち大きな意味を持ちます。


 このときエルフたちの大量自殺を止めるべく尽力した人物こそ、「心理の伝道師」と言われる心理士、ワイ・イーシですね。

 フィエンの医者であった彼は、古典時代からフィエンとドワーフが積み重ねてきた心療内科の知識を積極的に発信し、300歳以上のエルフが抱える精神的な負担をできる限り取り除こうと努力した偉人です。

 彼が著した本の多くが今でも読まれているのは、その証と言えるでしょうね。当時流行り始めていたマンガによって、ギャグテイスト強めながら人間の心理をわかりやすく解説するスタイルはあちこちで模倣され、様々なジャンルで流行りますがそれはさておき。


 一方で、ロウはエルフの生態解明が進んだことで結果的に国の人口が減り始めます。300歳以上のエルフが逃れられない問題を和らげてくれる人物がいなかったし、生まれなかったのです。

 エルフの生態が大体わかったのが紀元前6500年ごろですが、ロウの人口がはっきりと減り始めたのは紀元前6386年。ここからロウの落日は始まります。


 ……が、その斜陽はあとで解説するとしまして。

 この他この時期の文化的な変化として、皇国でマンガ、アニメ、テレビゲームといったサブカルチャー――当時の用語ですが――が隆盛し始めたのもこの時期です。レジュメを次に。


 資源だけでなく娯楽も限られていた当時、こうした文物は多くの人々を魅了し、その系譜は今も脈々と続いています。世界が狭かったこともあって、その広がりはかなりのものでした。

 そしてそのいずれもが、始祖たるギーロによって技術白書で示唆されていたことも大きいでしょう。以降、アマテラス教はこうした文化も取り込んでマンガの神様やゲームの神様などもガンガン祭り始めます。

 必死すぎと思われるかもしれませんが、まあ当時アマテラス教はだいぶ勢力を減じていましたからね……本当に文字通り必死だったんだと思いますよ。この時期に急に教書に盛り込まれた神様は多いですし、それに合わせて設けられた宗教儀式や祭典も多いです。

 十一月三日が漫画の神様の降臨祭として、一月二十五日が漫画の王様の生誕祭として祝日になっているのは、その顕著な例ですね……ええ……。


(俺の大ボラがまさかこんなことになるなんて……二人ともごめんなさい……!)


 お、おほん、ではレジュメを進めて、後期の終わりを説明しましょう。


 これを説明するために、私は今まで何度か口にしていたロウの派閥、時空派について語らねばなりません。遂にそのときが来ました。


 時空派……彼らは元々、暗黒時代中期の派閥大量発生期に、周りからの圧力によって渋々生まれた少数派閥です。その大半はロウの派閥争いに興味がなく、自分たちの関心ごとに集中したかった人々でした。

 しかし、時代の流れは彼らに政治への無関心を許しませんでした。彼らは仕方なく、「我々は聖典の精査と学問の追求を第一とする集まりである」という表明を持って派閥を作りました。このとき生まれた派閥が、ロウ学術派です。そして時空派は、そこから分派した派閥になります。


 時空派は学術派の中でも、始祖たるギーロについて研究していた歴史学、言語学、時空物理学などからなるグループを直接の母体としています。彼らはギーロとは何者であったのか探ろうと、調査魔術の洗練や史料の精査をしていたわけですが……。


 ときに紀元前1070年。学術派にも業務連絡として、中華・黄河地域の年代正編経過レポートが届きます。時代は商王朝の末期、ロウの女エージェントが妲己を名乗って紂王を籠絡して次の王朝へ交代させようとしていたころで、レポートの内容はそれが中心でした。

 政治に関心がない彼らはこれを流し見して終わるのですが……のちの時空派の初代リーダー、シャフト・タイム博士――当大学の今の学長のご先祖様ですね――は、添付されていた商王朝の文字……甲骨文字に神語との共通点を見出します。

 たとえば数字の九、あるいは地形を表す山や川、事象とも言える日や月など、それなりに多くの文字が神語と非常に似通っていたのです。


 この文字という点に関しては、ロウは特に関与していません。歴史を操り、意のままに作ってきた彼らですが、文字や細かい文化など全史黒書に記述がない分野に関しては特段触れていなかったんですね。

 もちろん、彼らが導きたかった全史黒書の歴史を実現するためには商王朝を興す必要がありましたし、そのためには亀甲を用いる卜占を行わせる必要がありました。なぜなら、商王朝はそういう概念に拠った国家であると、そう記されていますから。

 なのでロウは中華地域に「亀甲を用いた卜占とそれを発祥とする文字」、いわゆる甲骨文字という概念は与えていました。ですがその文字をどういう風に解釈はさせるかは一切関与しておらず、どういう形で成立するかは完全に当地の人々次第でした。


 ところがその甲骨文字が、かなりの割合で神語と一致しました。シャフト博士は、この奇妙な類似を偶然の一致ではなく何らかの関係があるのではないか、と考えるようになります。

 やがて彼はロウ上層部に直訴し、黄河地域の監視拠点であった浮遊島の一つ、金鰲列島に自身の賛同者と共に移り住む許可を得ます。自説の検証のために、甲骨文字が時代の移ろいに伴ってどう変化していくかを見極めようとしたんですね。明らかにエルフの寿命を超えた時間が必要になるので、気の長いどころではない話ですが……これに賛同した人がそこそこいたんですねぇ。


 そんなわけでこれ以降、シャフト博士の一派は金鰲列島を拠点に中華地域を中心とした甲骨文字文化圏を集中して観察し続けることになります。やがて彼の子孫が、日本列島に神語と同様の形態を持つ漢字、ひらがな、カタカナを併用する言語の成立を根拠に、「始祖たるギーロは日本皇国からの時間遡行者である」という主張を掲げたことで、グループは遂に時空派と呼ばれるに至るのですね。

 この時空派が金鰲列島に初めて移住したのが、紀元前1046年。もちろんこのときはまだ時空派の名前は世界のどこにもありませんが、歴史上その成立はこの年と定義されています。地上世界では中華地域において、商から周へと王朝が交代した年でした。


 そしてこの時空派は、のちに世界の歴史に大きく関わることになります。彼らは暗黒時代の終焉を特に決定づけた存在であるため、その成立を持って暗黒時代は後期から晩期へと移り変わると歴史学者たちは定義したのですね。

 何せ時空派の学者たちは、この先の時代……暗黒時代晩期において、ロウの人間でありながらロウに反逆します。恐らく彼らの反逆がなければ、黎明時代への移行はもっと長引いたであろうと言われるほどに彼らは活躍したのですから、この定義は妥当なものでしょう。


 一応他にも理由はあります。これ以降は全史黒書の内容がより一層詳細になっていくこと、それに伴いロウの年代正編がより緻密になっていくこともあり、ここを一つの区切りとしているんですよね。


 ……と、言ったところで暗黒後期はここまでになります。

 人口減少と技術の停滞により、少しずつ衰えていくロウ。逆にかつての力を取り戻しつつある皇国はいよいよ反攻の時は近いと決意を固め、歴史は次の段階へと進んでいくことになります。

 そのきっかけは、晩期に起こったある事件なのですが……これは次の講義で語るとしましょう。時空派がいかにしてロウとたもとを分かっていくかも、次回にお話する予定。


 それでは本日はここまで。質問疑問はいつでも受け付けていますので、いつも通り私宛てにお願いしますね。

 ではまた来週お会いしましょう!


(……いやー、久々に時間内にしっかり終われたぞ。でもたぶん次は無理だろうから、今日くらいはいいよな!)

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