第16話 オンライン百科事典:クロックワークエンジン

クロックワークエンジンとは、ゼンマイばねを用いて、その元に戻る弾性力で生じるエネルギーによって仕事をする原動機。発条機関。

紀元前4万2800年ごろ、ヴシルオーダー所属のフィエン技師、「時計仕掛けの巨人クロックワーク・マンマシーン」ゾイド・クロックワークによって発明された。


1.動作概要と原理

2.特徴

3.歴史

4.意義


1.動作概要と原理

弾性エネルギーを運動エネルギーに変換する機関である。

その構造はおもちゃなどで使われるゼンマイ仕掛けと基本的には同等で、中にあるのは要するに巨大なゼンマイである。板状の金属をその面方向に巻き込んだものであり、貯蔵したエネルギーを少しずつ解放していくことでほぼ均等な運動エネルギーを長時間得る。


ただし、通常の金属で製造したゼンマイではクロックワークエンジンと名乗るほどの力は絶対に得られない。

その要となるのはミスリルを始めとした魔術合金であり、それらがなければクロックワークエンジン足り得ない。


2.特徴

ゼンマイ機構であるため、稼働において資源を一切消費しない。


製造に関しても、エルフが持つ錬成魔術、あるいは現代であればレプリケーターさえあれば材料は容易に手に入るため、他の動力機関と比べてもかなり低コストである。


また劣化にも強く、シンプルな構造ゆえにメンテナンスが容易という特徴も持つ。


ほぼ定量のエネルギーをコンスタントに放出し続けるため、長く安定して扱うことも特徴である。


稼働中の静音性にも優れるため、隠密性を強く重視した天上ロウ教国、ヒノカミ皇国の両国では内燃機関よりも重視された。


排気ガスなどもない点も、環境破壊を忌避する習慣が根付いていた両国では重視されていた。

環境への影響がないという点はクロックワークエンジンが一線を退いた現代でも重視されており、今なおクロックワークエンジンが使われる大きな理由でもある。


一方で、出力自体はそこまで強力ではない。オリハルコンを用いてもその出力は蒸気機関を少し上回る程度であり、特に傾斜面で重力による制約を受ける自動車や列車の動力源としてはいささか力不足となる。


また、一定の速度でエネルギーを放出し続けるという性質上、急激な加速や減速ができないという欠点もある。

このためエンジンを稼働してから実際に車両が動き出せるまで、あるいは車両を止めてからエンジンを止められるまでにかかる時間は、他の機関よりも全体的に長い傾向がある。


総じて大型低速での運用に向いた機関と言えるだろう。


3.歴史

ゼンマイばね自体は、古代後期に三大聖書が帰還して少しした頃には既に存在していた。また、晩年の太陽王グライ=ア・ライオにゼンマイ式時計が献上された記録が残っており、現存はしていないがこれが世界最古の機械式時計であると言われている。

以降、一般に時計が普及するに従ってゼンマイという概念も普及し、錠前やおもちゃなどに組み込まれていった。


初期のゼンマイは銅、もしくは鉄を加工したブルーメタルで作られていた。鉄などをそのまま用いるよりは圧倒的に長く稼働できたが、それでも一回のネジ巻きで50時間ほどが限度で、焼き入れなどの様々な工夫を凝らしても連続稼働は100時間ほどが限界だった。

加工技術の精度が上がるにつれて、一年を超える稼働時間が実現したのは古代末期だが、それでもこの時代のゼンマイがエンジンとして成立するのほどの力を持つことはなかった。


ゼンマイの世界に大きな変化が起きたのは、古典初期である。ヴシルオーダーによって、魔法蒼書に記された神話の金属、ミスリルとヒヒイロカネが再発明されたことで、金属を用いたもの全般に革命ともいうべき変化の大嵐が吹き荒れたのである。


この波はゼンマイにも届き、ミスリルとヒヒイロカネによってゼンマイが作られることになった。

こうして生まれたミスリル製ゼンマイは、当時の一般的な懐中時計用規格のサイズで実に3年もの間正確に稼働し、ヒヒイロカネ製ゼンマイは同サイズで強烈なエネルギーを発生させた。


そして両合金製のゼンマイを組み合わせ、双方の良い点を併せ持った双発ゼンマイ機構が開発されたことで、クロックワークエンジンは誕生した。

クロックワークエンジンの登場は多くの発明を世に送り出すきっかけとなり、世界に大きな発展をもたらした。

自動車や飛法船が発明されてからは、主にその動力として長く活躍することになる。


4.意義

クロックワークエンジンは、技術さえあれば自由に小型化あるいは大型化が可能であり、かなり融通を効かせることができる。

また、その出力も安定している。そして小型化を進めれば、貯蔵だけでなく運搬も容易であるため、かなり速いペースで社会に浸透した。

機械のほとんどはクロックワークエンジン仕掛けに変わり、社会は一気に速足で進み始めることになった。


特に、魔術を使えないフィエンやドワーフの間では歓声と共に迎えられた。古典中期以降の劇的な社会の進歩は、クロックワークエンジンによって支えられていると言っても過言ではない。

クロックワークエンジンはやがて自動車を、さらには飛法船ひほうせんをも誕生させ、世界は正真正銘の黄金時代を迎えるに至る。


この社会の激変は第一次産業革命と呼ばれ、クロックワークエンジンはまさに世界の歴史を大いに動かした、人類史に残る偉大な発明である。

実に4万年以上もの間、社会の根幹をなす動力機関として君臨し続けたことは時間感覚が長いエルフにとっても脅威的であり、その記録は前人未到である。


現代では、社会基盤の動力機関としてはグロセア機関にその座を譲ったが、現代でも根強い人気を誇るクラシックタイプの飛法船には必須のものである。

また、環境への影響がないという点でも一定の評価がなされており、現役の機関として今なお社会に貢献し続けている。


以上のことから、歴史上その成果と意義は極めて重大な発明である。開発者であるゾイド博士は純フィエンとしてはテタに次ぐ史上2人目の諡号受勲者、すなわち真の英雄となった。

彼はこのとき贈られた「時計仕掛けの巨人クロックワーク・マンマシーン」という諡号をいたく気に入り、そのまま家名をクロックワークに変更したと言われている。

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