第13話 オンライン百科事典:エルヴンオオカミ

エルヴンオオカミは、ネコ目イヌ科イヌ属に属する哺乳動物、魔獣。

一種類の亜種が認められている。同属の近縁種として、タイリクオオカミを始めとしたいわゆるオオカミと呼ばれる動物がいる。


1.分布・亜種

2.生物学的特徴

3.エルフとエルヴンオオカミ

4.伝説


◆分布・亜種

野生のエルヴンオオカミは存在しない。人間と共生する生物であり、その分布は人間、特にエルフの分布とほぼ一致する。また、地上世界にはほとんど存在しない。

亜種はほとんど存在しないが、現在1種の亜種が分類されている。

ただし両者に外見の差異はほとんどないため、その違いを目視で判断することは困難である。


・アマテラスオオカミ

ヒノカミ皇国の主島、天照大陸を中心に、旧ヒノカミ皇国領域に分布。

一種の島嶼化により小型化しているが、それでもタイリクオオカミなどと同じかやや大きい。


・エルヴンオオカミ

ヒノカミ皇国の副島、月詠大陸を中心に、旧天上ロウ教国領域に分布。

別名ツクヨミオオカミ。通常エルヴンオオカミと言えばこちらを差す。


◆生物学的特徴

尾が短く、耳が細長い、かつ瞳がエルフに酷似した青か赤である以外は、おおむね他のオオカミ種と大差はない。毛色は金、もしくは黒。

大きさなどはタイリクオオカミより一回りは大きい。大きい個体では80kgを超えるものも現れることがあり、現生のイヌ科の中では最大。


生物としての能力もおおむね他のイヌ科の生物と同等だが、後述する能力のため、彼らはおろかほとんどの生物を凌駕する力を発揮できる。


その予想される成立過程などからイヌ(イエイヌ)と同列視されることもあるが、遺伝子的には現在のどのオオカミ、イヌよりも古い特徴を一部有しており、彼らの共通先祖、もしくはそれに近い生物と目されている。


・知能

極めて高い知能を有する。フィエンやドワーフの10歳くらいと同程度と言われ、長期記憶にも優れる。また個体にもよるが、複数の言語や四則計算を理解する。

さらに構造上喋ることはできないが、後述の能力により会話が可能な個体も存在する。このため、彼らはオオカミの姿をした人間とも言われることもある。


・魔獣

本種最大の特徴は、エルフと同じく体内にマギア因子を持つという点である。すなわち魔獣の一種であり、エルヴンオオカミと呼ばれる所以である。

ただし、一部の老成した個体は人に近い理性を獲得したと思われる挙動を取るものがおり、一部の学派や団体はエルヴンオオカミを魔獣に含むべきではないと主張している。


マギア因子の保有量はエルフに及ばないこと、魔術を効率的、大規模に扱うためには多岐に渡る高度な知識が必要になることから、エルフのような複雑な魔術を使える個体はいないが、他の魔獣より数段上の精度で魔術を操る。

単純な念動力や身体強化は当然可能であり、その際の運動能力は他の生物(走力などに限れば時にはエルフすら)を圧倒する。


また他の魔獣と異なり魔術で完全な統制を行えないが、騎乗者が魔術師であれば、両者は一心同体とも言えるほどの意思疎通と活動が可能になる。


・群れと順位

群れは厳格な順位制を取る。しかし他のオオカミ種と異なり、雌雄別ではない。雄が群れを率いることもあれば、雌が率いることもある。

群れのリーダーは純粋に強さで決まるため、時おり下克上が起こる。このため、ブリーダーはもちろん騎乗者にも相応の強さが求められる。また、単にペットとして飼う場合であってもそれは同様である。


ただし他の生物と比べて繁殖力が低く、十数年に一度しか出産しないこともあって、群れは家族単位ではなく血族単位になることが多い。

このため、繁殖自体は一夫一妻制だが、群れの中に複数の繁殖ペアがいることが多い。また、繁殖ペアは一度番ったら余程のことがない限り一生添い遂げる。


・寿命

平均は現在では70年ほどである。記録上、最も長く生きたのは105年。

繁殖力が低いだけで生物としては丈夫で、多少の傷や病気はほとんど意に介さない。


◆エルフとエルヴンオオカミ

エルヴンオオカミという種が歴史に登場するのは、古代後期からである。

人類がオオカミと共生し始めたのは神話時代まで遡ると言われており、2万年近い年月を経て自然と品種改良が進んだものと思われる。


オオカミは人類史上最初に家畜化された生物で、人々は狩猟時の哨戒や探索、夜間の周囲警戒などでオオカミの力を借りてきた。

その中でもエルフは、少し特殊な用い方をしてきた。オオカミの長く走り続けられる持久力と、人よりも早く走れる走力に着眼し、騎乗用としたのである。

オオカミの体格から女しか乗騎に用いることは叶わなかったが、古代前期には既に手綱などが作られていたことがわかっており、後世のユニコーン、ウマと並んで最速の陸上移動手段として長く用いられた。


また軍用としても早くから用いられたことがわかっており、オオカミに騎乗した女エルフたちの狼騎兵隊は、古典の終わり頃にヴシルオーダーがユニコーンの作出に成功するまでは名実ともに最強の戦闘集団であった。

そのユニコーンも魔術を操るエルヴンオオカミ相手には常勝ではなく、暗黒時代に至ってもなお、狼騎兵は戦場の花形として数々のエピソードを歴史に刻んでいる。


この傾向は暗黒時代中期ごろまで特に強く、エルヴンユニコーンの作出に至ってようやく緩和したが、現在でも飼育されているエルヴンオオカミの多くは軍用である。

特に世界的諮問機関にして治安維持組織であるヴシルオーダーの狼騎兵隊、陽天騎士団は有名で、一角騎兵隊の月天騎士団と共に現代でも各地の実戦で多くの功績を上げている。


そんなエルヴンオオカミが作出された時期が具体的にいつかは不明であるが、少なくとも太陽王国が成立し、ジェベルダイナの前身である研究機関が発足して以降のことだというのは様々な説で共通した見解である。


また、どのようにして作出されたかも実ははっきりとはわかっていない。前述の通り自然と品種改良が進んだという見方が一般的だが、他のほとんどの魔獣と同じく人工的に作出されたという説も根強い。

逆にエルフのように、マギア因子を持って自然に誕生した種という説もあり、真実は謎のままである。


◆伝説

エルヴンオオカミの起源は前述の通り現在でもはっきりとわかっていないが、これを「第一の宿命の子ナナシ」に求める伝説が存在する。


狼に育てられ、狼として群れを率いた彼女は、「太陽王問答一切」で狼を自らの「番い」であると断言している。

また、彼女にまつわる逸話のいくつかに、狼との性交渉を思わせるものがあり、これらを総合して、「エルヴンオオカミはナナシの子孫である」という伝説が生まれるに至った。


エルヴンオオカミの毛や瞳の色はエルフのそれと同じであること。

耳の形状がエルフに近似していること。

また他の生物(エルフは除く)より病気や傷が早く治ること。

マギア因子保有量が他の魔獣と比べて明らかに多いこと。


などの点も、この伝説を補完する傍証とみなされることが多い。


しかしそもそもの前提として、人間と狼の間で交配ができるはずがないため、学説としては奇説の域を出ない。

エルヴンオオカミのDNAにもエルフに関わる遺伝子は現在のところ見つかっていないので、あくまでオカルトである。



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「……ってのが、現代に伝わる話のおおよそのところなんだが。実際のところどうなんだ? あの時代はわりと長くんだろう?」

「あ、それについてはその『奇説』が正解ですね」

「は!? マジで!?」

「です。師匠が一晩でやってくれたですよ」

「待て待て待て待て、今とんでもない情報が一気に出てるぞ!? 何がどうしてエルフと狼が! っていうか師匠って誰だよ!?」

「名前は教えてくれなかったですけど、”神殺し”って名乗ってたですよ。元気してるですかねぇ、師匠……」

「この世界の神様殺されてんの!?」

「いや殺したのは異世界のらしいですから、安心するですよ」

「だとしても正真正銘の化け物じゃねーか!?」

「悪い人じゃないですよ? 実際に何度も死んだくらい修業がしんどかっただけで、普段は面倒見のいいお婆で」

「ババア!? ババアなの!? いやていうか、何度も死ぬような修行って……ああもう! 情報量が多すぎる!!」

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