第8話 とある大学教授のエルフ史概論 3

 はいどーも、みなさんこんにちは。最近フィエン系のマスメディアに追いかけ回されていて、胃に穴が開きそうなホシノ・ウィローです。


 エルフなんだから開くわけがないって?

 いやまあ、そりゃそうなんですけど。言葉の綾というやつで。

 わかっていたことではあるんですが、婚約発表だけでここまで騒がれることになるとは思っていなかったというか……。いえ、見通しが甘かったと言ってしまえばそれまでなんですけど。


 まあうん。そんなことはさておき、始めましょうか。エルフ史概論、第三回目です。今回は古代中期ですよ。


 はい、いつも通りレジュメは端末をご覧ください。

 最初のページ。では始めますよ。


 前回の講義で、古代は紀元前6万8200年ごろから4万5000年ごろまでの、およそ2万3000年間のことだと述べました。そして古代前期が紀元前6万年ごろまでの、およそ8200年間の出来事であることも。

 今回扱う古代中期は、紀元前6万年ごろから紀元前5万年ごろまでの、およそ1万年間の出来事になります。その中で主に見るべき重要な歴史の要点は三つですね。


 二つは文化史や文明史という、まさに歴史というジャンルにおける変化です。この二点を、本講義でメインに扱います。

 一方、もう一つの要点は生物学にも少し関わるものです。これも古代中期における重要な点なんですが……すいません。本講義では駆け足で行きます。

 いえね、私はなにぶん歴史学者なので……こちらは正直専門外なんですよ。ですんで、この件についてはおのおの専門家の講義を受けていただければと思います。


 まず最初の要点……古代前期から中期に時代が移り変わったポイントを、紹介しましょう。


 時代区分が古代中期に切り替わった理由。ずばり言ってしまうと、それは国が成立したためです。集落という規模ではなく、もっと大勢の人間が集まり、複雑な社会を築き上げた集団があったわけですね。

 この一点をもって、古代中期は幕を開けます。それまでとは異なる仕組みが構築されたのですから、この件に関してはほぼ学会も異議なくまとまっていますね。


 ではレジュメを次に進めてください。地図が出てきましたね。

 見ていただければお分かりかと思いますが、これは現在の小アジアと呼ばれる地域です。アナトリア半島とも言いますが。世界最初の国は、この地域に生まれたと言われています。


 当時の国は、国とは言っても現代人が思い浮かべるようなものではありません。一つの集落――と呼ぶには少し大きいでしょうが――で一つの国が完結している、いわゆる都市国家と呼ばれるものになります。

 これが時代を経て都市国家同士の繋がりができ、また増え、太くなっていくと、都市国家連合が生じます。

 あるいは、都市国家同士が軋轢によって戦闘状態になることもあったでしょう。それが連合同士の争いになることも、珍しくはなかったでしょうね。人は三人もいれば派閥で分かれる生き物ですから。


 そうしたやり取り、付き合いの果てに、やがては周辺の都市国家をすべて併呑する巨大な勢力が生まれます。これが歴史に名を遺し、現代まで続く様々な文化文明の基礎となっていく……と、言うのが大雑把ながら人類の歴史の骨格と言えます。


 地上世界の歴史――あれを歴史と呼んでいいのか、疑問もありますが――で言えば、たとえば古代メソポタミア。たとえば古代ギリシャ。たとえば商王朝。たとえば大和王朝。

 これらはいずれも、周辺の都市国家の連合体、もしくはその中の躍進を遂げた都市国家が、領域国家へと転換していった結果と言えましょう。


 そんな歴史という大河の、最上流がこの古代中期です。形は変わっているかもしれませんが、それでも確かに、この時代の何かが私たちの生活のどこかにひっそりと息づいている……と思うと、歴史のロマンを感じませんか?


 ……こほん、では次のページへ。


 こちらは今触れた世界最初の国……と言われる都市国家、チャタル・ヒュユクの遺跡写真を集めたものです。場所は先の地図の南部周辺になりますが。一部の写真は教科書などにも使われていますし、見たことのある人は多いかもしれません。


 まあこの写真だけで当時の人々の暮らしを想像することは、なかなかに難しいんですけどね。重要なものは全部持ち去られいて、各地の博物館に収蔵されちゃってますし。

 その辺りは、過去の遺産への対応方法がまだしっかり構築されていない時代に発掘されたから、仕方ないところもあります。ある種の熱狂状態にあったころの話ですから……。


 っと、それは置いといて。


 実のところ、古代中期における都市国家遺跡はあまり多くありません。古すぎて発掘が難しいことや、風化に耐え切れなかった遺跡もあります。多くはロウの手でこの世から抹消されていますし。

 そんな中にあって、都市国家チャタル・ヒュユク遺跡は、黎明時代に起こった歴史回復運動の嚆矢として発見されました。そしてそのまま、世界最古の都市国家遺跡として名を轟かせるわけですね。


 まあそうは言いつつ、ここより古い国がある可能性は捨てきれないのが現状ではあるんですが。とりあえず、現状ではここが最古ということになっています。


 このチャタル・ヒュユクがただの集落ではなく、国家として機能していたという根拠としては、明らかに他とは異なる大きさ、装飾を持った建造物や、シンボリックな遺物が発見された建造物の痕跡が残っていること。そして何より、この周辺で発見された粘土板が、その存在を証明してくれます。


 次のページ……これも教科書にも載っている有名な粘土板の写真ですね。内容自体は、言ってしまえばただの業務命令書なわけなんですが、これがまあ現代語訳すると、


「太陽の光を与えられし王が命ずる」


 から始まるんですよね。この他にも、王が政治に関わっていることを窺わせる粘土板は相応に出土しています。


 当時の遺跡という緩いくくりなら集落跡は中東各地にそこそこあるんですが、こうした政治にまつわる明確な文言や記録が中期時代……それも特に初期の地層から出土するのはアナトリア半島に限られています。これをもって、古代中期は初めて国が生まれた時代として区分されることになったわけですね。その始まりはアナトリア半島である、と。


 ただし、当時ここにあった都市国家チャタル・ヒュユクが、具体的にいつから始まりいつ終わったかは定かではありません。なんで、ぶっちゃけ古代中期の始まりが紀元前6万年ごろというのは、「少なくともチャタル・ヒュユクはこの時期には既にあった」という時期を最大に見積もった数値だったりするんですが……。

 これを是正する確かな証拠は見つかっていないので、この辺りは曖昧になっています。建設当初から国として機能していたかも不明です。


 ま、こればっかりしょうがないですね。古い時代のことですし。古代史をやっていたらよくあることです。


 そ、し、てー……このチャタル・ヒュユクを先鋒として、この後アナトリア半島にはいくつかの都市国家が登場します。名前や政体などは割愛しますが、神権政治だったり民主政治だったり、各地で様々な政治がなされたようです。

 あ、場所については前のページの地図にありますので、時間があったら確認してみてくださいね。


 とまあ、そんな感じで都市国家は少しずつ増えていきます。やがて都市国家同士の交易の証なども時代が下るごとに増えていき、それはいよいよ中東にまで波及していく。これが古代中期最初の要点です。


 ……ここまではいいですか? はい、では次に行きますよ。


 古代中期、二つ目の要点。それは人種分布の拡大です。

 どういうことか……ということで、今表示した地図をご覧ください。


 これは現在残っている各種史料から推測される、紀元前5万6000年ごろの人類の生息分布図です。それぞれの地域で発掘されたものはもちろん、各地に生まれた都市国家が遺していた記録がその根拠になっています。


 で……ご覧の通り、人類は古代中期の半ばにさしかかろうという時期までに、それなりに生息域を広げています。青、黄、緑はいずれも現生人類が当時生息域としていたとされる場所で、すべてを合わせると既に相当の広がりを見せていると言っていいでしょうね。

 凡例としては青がエルフ、黄色がプラエドワーフ、そして緑がフィエンなんですが……中東周辺は、この三色が入り混じっていますね。そう、この地図は、古代中期には既に人類三種すべてがそれなりの広範囲で共存状態にあったことを示しているんです。


 現在で言う西アジアの全域とアフリカの北東部、すなわち中東と呼ばれる地域のほぼ全域に加え、インド亜大陸を除く南アジア、それから中央アジアの南部域ですからね。なかなか盛んに交流があったでしょう。ある意味で、ここが当時の人類世界の中心だったと言ってもいいかもしれません。


 なぜこれほどこの地域で三種族の共存が進んだかと言えば、きっかけはお馴染みの氷河期です。


 あの時代、人々は日々の糧に事欠く生活を送っていました。よりたくさんの獲物を求め、彼らは移動を繰り返さざるを得なかったわけですが……エルフたちは「預言者ギーロ」から続く、大半は断絶しながらもかすかに受け継いできた知識によって、既に定住を可能とするだけの技術がありました。

 このため、エルフたちはその起源と言われる中東周辺からはあまり移動していません。この辺りは、変化を嫌うエルフの種族性も影響しているでしょう。


 しかし主にアフリカに住んでいたフィエン、主にヨーロッパに住んでいたプラエドワーフはそうはいきませんでした。彼らにはそうした英雄がいなかったため、原始時代から続く狩猟採集生活を続けていたのです。このため、移動を繰り返さざるを得なかった、というわけですね。

 結果として、フィエンの多くがアフリカを出て北上。逆にプラエドワーフの多くがヨーロッパを南下。これによって、三種族が大々的に合流する結果となりました。


 それまでも細々と交流はありました。それは古代前期はもちろん、先に述べたチャタル・ヒュユクなどの記録からもわかっています。ですが三種族が本格的に、そして広範囲で合流、共存することになったのは実はこの時代からなんですよ。


 さらにさらに。実はこの時期にアフリカを、あるいはヨーロッパを出たフィエンとプラエドワーフこそが、現代にまで続くドワーフの先祖になるんです。この地域で古代以降の長きに渡って共存した結果、フィエンとプラエドワーフの交配が進んだわけでして。

 まあ先にも申した通り、私はこの辺りは専門ではないので詳細はわかりませんが……ともあれ、今のドワーフの遺伝子は、まさにこの時代の二つの種族と共通したものがあるらしいですよ? これも一種の歴史のロマンですよね。


 一方で、エルフたちとそりが合わなかったのか、それとも単にはねっかえりだったのかはわかりませんが……共存を選ばなかったフィエンのグループがいます。彼らは南アジアを海岸沿いに移動し続け、後世インド亜大陸に、最終的には日本列島にまで至ったと言われています。


 ただこのグループに関わる遺跡や遺物は、ほとんど残っていません。古代中期であれば、海岸周辺で生活していたと思われるのですが……ほぼゼロです。

 皆無ではないんですけどね……やはり、当時既に文字を持っていた中東地域の文化に比べると、文字による記録がない分わからないことだらけなんですよね。


 しかし遺伝子は、彼らが確かに生き残ったことを示しているらしいですよ?


 というのも、今の東、東南アジア系フィエンの遺伝子グループは、中東地域に根付いたフィエンとも、アフリカに残ったフィエンとも異なる遺伝子グループに属しているようなのです。

 彼らの先祖は、フィエンであることに存在意義を見出した人々だった……のかも、しれませんね。


 後世、さらにアフリカから北上したフィエンが中東周辺をスルーしてヨーロッパ、あるいは北アジアまで至り、現在まで続くフィエンの遺伝子グループになったりもしていますが……それはもっと後の話になります。


 さて、専門外の話はここまでにして……次に進みますよー。


 最後……三つ目の要点は、次の時代への布石とでも言いましょうか。


 ここまで話してきた通り、古代中期の人々は少しずつですが、文明を拡大してきました。ですがその歩みは遅く、神話時代の劇的な進み方とはもう雲泥の差だったわけです。技術の進歩に至ってはぶっちゃけ、ほとんど進歩がないレベル。やはり気温が乱高下する不安定な氷河期と、頻繁に訪れる失せ月が相当に人類の発展を阻害していたようなんですね。


 このまま進んだらどれだけ文明の発展が遅れていたか? という問いは学会でも手慰みに議論になる話題ですが……しかしそうはなりませんでした。

 いかなる神の采配か、人々は……いえ、エルフたちは失われた伝説を取り戻します。これが三つ目の要点になります。正確に言えば、三つ目の要点を生んだ人物が後に取り戻す、なのでちょっと違いますが。

 伝説を取り戻す云々については古代後期の話になるので、今はまずその人物……存在そのものが歴史の要点と言える人物についてやっていきますよ。


 えー、時代はさっきの地図からぐっと下りまして、およそ紀元前5万年ごろのこと……と、いうのはのちの時代の研究者たちが逆算した数値なのですが。


 ともあれそれくらいの時代に、ひときわ強烈な失せ月がエルフたちを襲いました。世に言う「死食」です。


 皆さんも知っての通り、エルフたちが魔術が使えなくなる失せ月は通常、一か月ほどで終わります。ですがこのときに発生した失せ月は、実に一年という長い期間に渡って続いたと伝えられているのです。


 このときの失せ月は、他にも特異な点があります。魔術が使えなくなるだけにとどまらず、この一年の間はどこの地域でも子供が生まれなかったのです。しかもエルフに限って。

 厳密には、この一年の間に生まれた子供が全員死んだ、というのが正しいんですけど……。


 おまけにこのとき皆既日食と被ったため、太陽と火を崇める文化を持つエルフたちはそれはもう大混乱に陥ったらしいですね。そんなわけで、この大事件を他の失せ月と区別するため、「死食」の名が与えられたわけです。

 この死食、決して伝説ではありません。何せのちの時代にも二回起こりますからね。ええ、お察しの通りいずれも歴史の一大転換点のきっかけになってます。まあ皆既日食と被ったのは一回目だけなんで、「食」という表現はあまり正しくない気もしますけど。


 え? 怖い?


 いやまあ、確かに実際に起こったら今でもかなりの混乱と被害が起こるでしょうが……最後に死食が起こったのは3万年以上前のことですし、大丈夫じゃないですか?

 大丈夫じゃないかな。たぶん大丈夫だと思う。まあ、ちょっと覚悟はしておいた方がいいかもしれない……。


(いや、もう絶対に起こらないんだけどな。それは言えないからなぁ。……起こそうと思えば起こせるらしいのが怖いところではあるが)


 ……おっほん、話を戻します。


 この最初の死食によって、エルフは壊滅的な被害を受けます。特に女性の死亡率が跳ね上がりました。

 エルフの女性は、その能力の多くを魔術に依存していますからね。まして死食は一年間。出産時はもちろん、日常のちょっとしたことなどで命を落とす人がかなりいたようです。

 現代は科学技術の発達によって、かなりの部分が機械で代用できるようになっていますがねぇ。古代中期では本当にどうにもならなかったでしょう。大災害と言ってもいいレベルだったと思われます。


 しかし一人……たった一人だけ、この死食を免れて生き残った子供がいました。


 レジュメを進めますよー。


 それこそが歴史に名高い「第一の宿命の子」……もしくは「叙任の代行者」ナナシです。

 ナナシは古代中期でたった二人、実在が確定している英雄の片割れであり、滅びに傾いたエルフたちの命運を存続へと揺り戻した最大の功労者と言っていいでしょう。彼女がいなかったら、エルフは滅んでいたかもしれない……とまで言われる人物です。はいここテストに出まーす。


 ナナシという名前は、神語で「名無し」……すなわち名前を持たないという意味です。これは決して誇張でもなんでもなく、彼女は本当に名前を持っていませんでした。

 というのも、彼女は孤児だったから。それもただの孤児ではなく、狼によって育てられた野生児だったのです。


 彼女の生まれは、かつてチグリス・ユーフラテス川の流域に建設されたフィエン系の都市国家ウリアだと言われています。そこの評議員であったエルフ一族が、彼女の出自とされています。


 孤児、かつ狼に育てられたのになんで出自がそこまで判明しているのか? と思いましたね? はい、その通りなんですが、理由はちゃんとあります。


 ウリア自体は死食の翌年に起こった内乱で滅んだようなのですが、その前に死食を乗り越えた赤子の存在がウリアにいたと周辺に流布していたため、各地に記録が残っていたらしいこと。

 その子を連れた一族ともども内乱を逃れた王族がいたらしいこと。

 その王族が逃散のさなかに賊に襲われ壊滅したらしいこと。

 そして歴史の表舞台に上がったナナシが、肌身離さず身につけていた腕輪がこのとき失われたウリア王家のものだったらしいことが、それぞれ伝えられているのです。


 いやまあ、あいにくとこれらの記録は現代に残っていないんですけどね。いずれも伝聞や転記などの形でしか残っていません。三次史料……しかも断片が精いっぱいというのが現状です。

 それでもその後の活躍に関する一次資料は存在しますので、ナナシという人物が実在したことは間違いありません。


 ……と、そんな曖昧な出自なので、ナナシの前半生は基本的に不明です。伝説やおとぎ話に従うならば、賊から逃れながらも力尽きた親に代わって通りすがりの――あるいは親が飼っていた――狼によって育てられた、ということになっていますが。それが真実かどうかは誰にもわかりません。

 成長したあとは、歴史の表舞台に上がるまではそのまま狼として暮らし、狼の群を率いる存在として中東周辺を放浪していたのではないか、と言われていますが、はてさて?


 これについては本当に謎ですね。過去を覗き見ることができでもしない限りは、絶対に明らかにならないでしょう。

 伝説じゃ、彼女を持ち上げるためかいろんな逸話があったりしますが……まあないでしょう。そもそも文字を知らず、言葉を知らず、道具も知らなかったでしょうし。そんな人間が、分別わきまえて戦の仲介だの、化け物退治だのをするとは思えません。


 んでは、そんな狼だった彼女がいつ歴史に現れるかというと、死食から推定10年後。アナトリア半島で商いをしていたとある行商人が、狼の群れの中に狼と同じ振る舞いをしているエルフを見つけたことで、噂として人々の耳目を集めることになったようなのです。


 しかしまあ、だからといってそれをどうこうしようと思った人はいなかったみたいですね。面白い噂話として話のネタにはなれども、今より厳しい環境だった当時に実際動いた人はいなかったとかなんとか。人を襲えばまた違ったんでしょうが、そういうのもなかったみたいで。

 現代人なら、すぐに保護しようとするんでしょうが……ま、ここはシンプルに当時と今との感覚の違いでしょう。


 その後もナナシは幾度となく旅人に目撃され、十数年をかけて三種族が共存する地域のほぼ全域に伝聞されるに至りました……が、そこでぷっつりと足跡が途絶えます。


 そして再び彼女が現れたのは、伝説によれば100年後……ですが、実際は20年ほど後だったようです。

 そのとき彼女はそれまでの狼を率いるボス狼ではなく、狼を従える人間として人々の前に現れます。その手に、太陽のように輝く剣を携えて、です。


 はい、皆さんお察しの通り、太陽剣アマテラスですね。現代まで続く、現代であってもなお、至高の神器として伝わる古代の秘宝。ヒノカミ皇国の皇位の証にして、「皇祖チハル」の血脈を示す神の剣はこのとき、ナナシによってもたらされたのです。

 現代ですらオーパーツ扱いのこの神器、当時はまさに神が造ったと言われても納得のトンデモアイテムだったことは間違いありません。そしてこの剣の登場によって、エルフの歴史は新たなる局面を迎えます。もたらしたナナシという存在と合わせて、これらが古代中期三つ目にして、最大の要点になります。


 はい次のページ。


 そう、太陽剣アマテラスに導かれ、この三種族共存地域を統一する人物が現れるのです。

 ナナシと並ぶ、古代中期もう一人の英雄。彼こそ「太陽王グライ=ア・ライオ」。最初の王とも言われるバンパと並び、エルフ史上最高の王との呼び声も高い人物です。


 ……あ、映像がゲームのですいません。彼の完全な状態の石像とか絵画とかってなにぶん残ってないんで……じゃあいっそイラストでいいかなって……。

 このゲーム有名だし、いいかなって……。たまたま持ってたし……。強いんですよこのゲームのグライア……星5セイバー……。


 い、いいじゃないですか、話続けますよ!


 おほん、彼グライ=ア・ライオ……省略してグライアは、ナナシが持ち込んだ太陽剣アマテラスを使うことができた当時唯一の人物です。

 ナナシはおよそ30年かけてアマテラスを扱える人物を探していたと言いますが、そうまでして見出した人物が後年王になったからこそ、ナナシの二つ目の諡号が「叙任の代行者」なのですね。神に代わって王に任じた……というわけです。


 あ、ちなみにナナシは以降、グライアの戦友として各地を共に巡ります。まるで人と狼の混血のような姿に変身し、敵を効率的に追い詰めて狩ると言う戦い方をしたとかなんとか。現代のエンターテイメント作品に彼女が出る場合、まず間違いなくケモノ娘属性を与えられているのはわりと掛け値なしに逸話通りなんですよね。


 ……また脱線しました。すいません。


 そんな二人の威光の前に、すべてのエルフが従いました。すなわち、すべてのエルフ系都市国家が、彼らの傘下に収まることを選んだのです。


 今でも傾向として残りますが、当時のエルフは特に魔術の腕が権力者の証でした。誰よりも優れた魔術師こそが人々の上に立つ王とされたのです。

 この魔術で負けたら潔く従うべし、という風潮は特に地上世界では比較的最近まで残っていますよね。だからこそ、すべてのエルフがグライアに従うことになったわけです。


 まあそれも当然と言えば当然です。何せ太陽剣アマテラスはご存知の通り、魔術の行使を補助するマギアドライブ、その元祖。その性能は現代の最新マギアドライブと比べるとさすがにだいぶ見劣りしますが、古代中期にあっては唯一無二のチート武器だったでしょう。

 グライア自身もかなり卓越した魔術師だったとも伝わります。まさに鬼に金棒だったわけですね。


 まあ、フィエンやプラエドワーフは魔術だけで従うことをよしとしなかったので、最終的には幾度かの戦争があったようですが……。

 当時の彼らの武器といえばただの剣か槍、弓、あるいは石くらいのもの。それに比べれば、魔術が使えるエルフは老若男女問わず全員がプレデターですよ。若い男とか特に。結局はかなり早期に戦争は終結したようです。


 そうしてグライアの手によって統一がなったとき、古代中期は終わりを迎え、時代は古代後期という新しいステージに移り変わるのです。


 ……と、言ったところで本日の講義はこれまで。

 次回はこのグライアが、どのようにして古代後期を動かしていったのか……そこから始めたいと思います。


 疑問質問はいつでも受け付けておりますので、何かありましたらメッセージでどうぞ。


 それではまた次回、お会いしましょうー。

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