第7話 とある皇女の婚約報道
日刊天下布識
新暦1582年 4月20日刊分より抜粋
『異端の皇女殿下、婚約する!』
19日、宮中より我が国第九皇女
一般の結納に当たる納采の儀がおよそ2ヶ月後、6月の吉日を選んで。
結婚式は9月ごろ、大エルフ学芸国の主島、神仙郷から少し離れたホシノ家所有の浮遊島で行われる予定。
天皇直系の子女が五摂家や皇族以外と婚姻を結ぶのは128年ぶり、国外の人間と婚姻を結ぶのは実に311年ぶりとなる(皇室典範には様々な例外が規定されているため、厳密に言えばこの表現は正しくない)。
お相手のホシノ・ウィロー氏は、新暦1554年4月1日生まれの28歳。歴史に名高いホシノ・アレイ博士、クロウ・リリィ博士の子孫で、その頃から続く学者一族の生まれ。
幼少期より非凡な才能を発揮し、幼い身体を維持したまま大人としての心と思考力を兼ね備えた神童として、一時期名を馳せた。
その後飛び級を重ね、1570年には時空大学の歴史学部を卒業。そのまま同大学院に進学し、1575年には博士号を取得して同大学の歴史学部に講師として就任した。
1579年には、200年教授を務めていた前学部長の逝去を受けて行われた教授会で、紆余曲折の末に教授へ昇進し、現在に至る。
そして今年3月には、歴史的大発見を果たして一躍時の人となっている。
ホシノ・ウィロー氏は婚約内定後の記者会見では、
「教授職を賜っているとはいえ自分は所詮一般庶民なので、ご尊父様やご母堂様と対面するのも緊張しきりで……」
など立場に配慮する発言も見られた一方で、
「もはや私は姫がいなければ生きていけない身体にされてしまっている」
などと情熱的な発言を繰り返し、弥々佳様を赤面させていた。
また、
「このように素晴らしいご縁をいただけたのは、ひとえに魂の導き手である
と意味深な回答を行ない、魔術師たちの関心を集めた。
お二人の出会いは、1579年の春。既に日本国内で大学を卒業していた弥々佳様が、更なる学習を望まれ大エルフ学芸国への留学を果たされた際に出会われた。
その際に弥々佳様が履修した講義を担当していたのがホシノ氏であったことがきっかけという。
その後弥々佳様は歴史学に目覚められ、ホシノ氏の教授室を訪ねるなど姫のほうから積極的に親交を深められた。
正式なプロポーズはなかったという。記者会見でもお互いに「一目惚れだった」と語られた通り、かなり早い段階から自然とそういう関係になるものだと認識されていたという。
半年も経つころには既に周囲が認めるほどの間柄として知られていたようで、弥々佳様のご学友も、ホシノ氏のご友人も、お似合いの2人と評していた。
ただ、そのあまりに早い進展に日本国内で様々な憶測を呼んだほか、常々聖地ルィルバンプを偽物と称する弥々佳様の異端的意見が拡散することが危惧されて皇室会議が紛糾したため、長らく婚約がなることはなかった。
今回、約3年を経て遂に婚約が認められた背景には、弥々佳様の意見が事実であると思わざるを得ない歴史的大発見をお二人がなされたことが影響していることは明白であり、記者会見でもそれは肯定された。
同時に、弥々佳様に対する異端認定を解く方向で皇室会議も動いているとのこと。
なお弥々佳様に宮家を創設する意思はなく、臣籍に下る意思もないという。
ご成婚後はホシノ家へ嫁ぐ形となり、皇籍を離脱。日本国籍からも離れることになる予定。
現在、大エルフ学芸国への帰化手続きを進めているところであり、早ければ年内にも申請は許可される見通しだという。
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このニュース記事を読んだ当の皇女殿下は、その場でぼそりとひとりごちたという。
「……すっごいのー。ここまで想像で補えるんじゃなぁ。大体あっとる」
「それがフィエンのいいところでもあり、悪いところでもあるな。想像が事実でなかったときは、かなりとんでもないことになったりもする」
応じるのは、彼女と同じ記事に取りざたされる世紀の男。
男は苦笑しながら、端末をベッドの上に軽く放る。
「まあ今回に関しては、明かしていいことは日本皇室がじゃんじゃん公開しているからな。フィエン系の新聞でもこれくらいはできるだろうよ」
「その分わしの秘匿したいことは、耳目から逃れられるってことじゃな」
「ってことだ」
そうして苦笑し合う二人に、別の声が割り込む。
「テレビ見て前世の夫を見つけました。彼が時空大学で働いてるから行かせてくれ。……なんて言われた侍従長さんの日記、いつか公開されるですかね?」
「……できれば墓場まで持ってってほしいのぅ。きっと書いてあるじゃろうから、燃やしてくれるのがベストじゃな」
「公開するなら俺たちの死後にやってほしいところだな。歴代の天皇実記みたいな感じで」
第三者の少女は、二人のさらなる苦笑を喚起したところでじとりと二人を眺めやる。
そして、ゆっくりと噛んで含めるかのように、言った。
「……今夜は、お楽しみですか?」
言われた二人が、苦笑を通り越して頭を抱えたのは言うまでもない。
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