第51話 祈りの夜

 俺の血については後々検証するとして……まずは儀式だ。


 ただ、儀式と言っても、二十一世紀の主要な宗教儀式ほど複雑ではない。

 まずは聖なる火に麻の葉をくべて、周囲に煙を行き届ける……のだが、これは俺の入れ知恵でスルー。今後もぜひスルーし続けていただきたい。


 そして麻の煙でみんながハイになったあとは、男衆が祈りを捧げる。俺が言うわけではないので細かい内容は覚えていないが、事前にガッタマが言っていた通り、冬を越せますようにとかそういうものだ。

 この祈りは、巫女が神から言葉をもらうまで……要するにハイにハイを重ねて、幻覚、もしくは幻聴を起こすまで延々と続くらしい。色々とキツい。


 俺の役目はこのとき、巫女が声を聞くまでの間を持たせるために、祈りを捧げながら巫女と踊ることだ。

 この踊り、相手役の男に比べて巫女側の動きが大きくて激しい振り付けになっている。恐らく、運動することで血行を促進させ、麻の陶酔作用をより早く強く起こすためのものなのだろう。そうやってトランス状態を加速させる意図があるのだと思う。


 で、女が声を聞いたら、それを全員に伝えて一件落着。以降は火を囲んでみんなで踊り明かす。

 場合によってはそこから夜の大運動会に突入する……と、大体こんな順序だ。


 ちなみに、夜の大運動会はほぼ必ず起こるらしい。まあ、祭りというものはそういうものだろう。

 巫女とその相手役などは、ハッスルしないことはないのがこの儀式らしいのだが……俺はしない。しないったらしない。


「……ギーロさん、どないしましょう。神様と繋がってへんのに声を聞くなんて、できひんですよぅ……」


 しかしその肝心のテシュミが、すっかり素に戻ってしまっていた。そして陶酔しきっていたときのまま俺におんぶされた状態で、うんうんうなっている。


 我が謎のヒーリングパワーで素に戻った彼女が幻覚、幻聴を起こすことは、恐らくないだろう。今からもう一度麻を焚いて……というのは、時間がない。

 俺にしてみれば細かいことなのだが、テシュミとしてはそうはいかないのだろう。珍しく慌てている。


 ただ、実際問題、大麻による幻覚や幻聴がすべての人間に起こるとは限らない。陶酔作用の効きに個人差があるように、その後の推移も個人差がある。また、毎回同じ症状が出るとも限らない。

 なので恐らくだが、何人いたかわからないものの、歴代の巫女も儀式のたびに何かしらの症状を毎回必ず出していたわけではないと思う。中にはいまいち決まらなくて、お茶を濁そうとした人や回もあったはずだ。


「細かいことは気にするな。数回踊ったら、あとはそれっぽいことを言っておけばいいんだよ」


 だから俺は、そう言ってテシュミを励ます。

 ……励ます? 励ましになっている、よな?


「……そ、そやかてギーロさん。それっぽいことって言うても、何を言えばええか……」


 それでもテシュミがうろたえているので、ならばと俺は知恵を提供することにした。

 神様の言葉という体で麻を全面禁止するのもありかと思ったが、さすがにそれは早急に過ぎるだろうから、今回は別方面から行こう。


「じゃあ……そうだな。俺たち白アルブスは、太陽の神様を信じている。うちの聖なる火は、その神様からもらったものだ。だからその神様の名前を出すというのはどうだ?」

「天照大御神様でしたっけ? ええんですか、そないなことして?」

「アマテラスはそれはそれは心の広い神様だからいいんだよ。広すぎて、たまに仕事をほったらかして、家に引きこもることもあるくらいだ」

「そうなんです!?」

「そうなんだよ」


 随分な言い様だと我ながら思うが、根拠がないわけではない。

 理由はアマテラスの岩戸隠れである。弟の蛮行に怒ったアマテラスが、天岩戸にひきこもったというやつだ。

 比較的知られた神話だが、これが日食を示したエピソードだろう、という話もまた結構有名である。


 これを使わない手はない。会ったこともないアマテラスには悪いが、ここは泥をかぶってもらおう。

 まあでも、一応フォローはしておこうか。責任感がありすぎるせいで仕事を抱え込みまくり、閾値を越えたとき突発的に仕事を放りだす……みたいな、そんな方向で調整しよう。苦労性という設定なら、さほど心象も悪くならないだろう。


 ……ということで、日食について軽く説明しつつ、アマテラスの設定をテシュミに刷り込む。

 日食のことも教えておくのは、今後起きたときに混乱しないようにするためだ。


「そんなことがあるんですね……」

「まあな。俺もまだ(今世では)見たことはないし、俺たちが生きている間には起きない可能性もあるけどな。でもあらかじめ知っておけば、皆も備えることができるだろうから」

「……おおきに、ギーロさん。その方向でなんとか考えてみます」

「おう。あとは……繋がっていないと思われるのも厄介だし、繋がってるふりは忘れるなよ?」

「え……、えー、そ、そっかぁ、そですねぇ。で、でもあんなん、普通にやったら恥ずかしゅうてできひんですよ……」


 テシュミの顔が再び赤くなった。麻が回っている間の痴態がよほど恥ずかしいらしい。


 だが、俺はともかく彼女まで繋がっていない……つまりは陶酔状態でないまま儀式に挑むのは、何かまずい気がする。

 ガッタマはさほど気にしている様子はなかったが、それでも素面の俺をからかうような態度ではあった。俺に対して信頼を置いてくれている彼でそれなのだから、そうでない人間からは悪感情を抱かれる可能性もあると思う。


「それにテシュミは、決まっているときの様子をガッタマに聞かれているしな。やるしかないだろう」

「う、ううぅぅ……き、きっついですわぁ……」


 それだけ言うと、テシュミはやはり俺の背中に顔をうずめてしまった。

 彼女にどう声をかけるべきか悩んで、結局俺は無言のまま会場に向かって歩いていたのだが……。


「わ、わかりました……こうなったらもう、開き直ったります!」


 近くまで来たところで、テシュミがぱっと顔を上げた。


 そして俺の肩に顎を乗せる。そのまま俺の耳元で、ささやくように言った。


「メメちゃんには悪いですけど……今日はもう、うんと甘えることにします」

「そ、そうか……」


 耳に当たる吐息がくすぐったい。

 が、それを言うより早く、テシュミは全身の力を抜いて、俺に全体重を預けてきた。


『ギーロさぁん、ほらぁ~! 早くしないとぉ、みんな怒っちゃいますよぅ~!』

『うわっ、急に大きな声を出すなよ』

『だって本当のことですしぃ~うへへへへぇ~』


 俺の抗議も意に介さず、テシュミはけらけらと笑いながら俺の肩に頬ずりする。


 ず、随分と開き直ったじゃないか。確かにふりをしろとは言ったが、ここまでするか。

 メメには悪いが、と言ったのはこれを口実にして、普段はメメに独占されていることを全部やってやろうという魂胆だろうか?

 だとしたらなかなかの役者だ。わかった上で振り切れるということは結構難しいものだと思うが……。


『わかったわかった、わかったからあまり動くな。落ちるぞ』

『い~やぁ~! そのときはぁ、ちゃーんと受け止めてほしいですぅ~!』

『わかったよ、ちゃんと受け止める……』

『えへへへぇぇ~、やったぁ、ありがとうございますねぇ~!』

『うわっ、だからあまり動くなって言ってるだろ……』


 妙に動き回るのは、陶酔していたときに落ち着きなく回ったり転がったりしていたことを再現しているのか? そこまでしなくてもいいじゃないか……。


 と、思ったら、横目にちらりと垣間見えたテシュミの顔は、これ以上ないくらいに真っ赤だった。


 ……無茶しやがって。終わったあとに自己嫌悪で引きこもったりするなよ?


 そんなことを考えながら、テシュミをおぶった俺は儀式の会場へと足を踏み入れた。



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『おお神よ、我らを生み出した赤き炎よ』


 炎の前で、祝詞を捧げながらテシュミと踊る。

 振りつけの内容は短時間の詰め込みなのであまり自信がないのだが、男側の振りつけが簡単なものだったのが幸いだ。おかげで今のところミスはない。


 テシュミもミスはない。巫女としての名前を与えられた分しっかり教え込まれているのか、動きにはよどみがない。たまに俺をリードしてくれる余裕すら見せてくる。


 そんな俺たちを取り囲むようにして、ガッタマたちがやはり踊りながら、アカペラのソウルミュージックを思わせる祈りを口ずさみ続けている。ここに他の楽器があったら、もっと映えるのにと思う。

 麻の件が一段落したら、何か楽器を作ってみるのもいいかもしれない。音楽は生活するうえで必要不可欠なものではないが、心を豊かにしてくれるから。


『おお~神よぉ~! あなたの炎をぉぉ~、今ここにいぃ~!』


 一通り踊ったあと、すべての音を貫くほどの大音声でテシュミが叫んだ。この儀式で、最初で最後となる巫女の祝詞である。


 巫女がこの祝詞を宣言するということは、巫女が神から何らかの情報を受信したということ。言ってしまえば文章の句点のようなものだ。

 このため、彼女の宣言を聞いたガッタマたちは歌と踊りを終わりに向けて軌道修正。今までループしていた歌を一気に終わらせると、俺たちの前で頭を垂れて畏まった。


 彼らを見たギャラリーたちも、何かあるらしいと思ったのか、とりあえずといった様子で頭を下げているのが見える。


 そんな一同を前にして、テシュミは特に混乱することもなく、ハイテンションの演技のまま神の言葉を供述する。やはり事前に打ち合わせをしておいて正解だった。


 ただ、激しく踊ったあとだからか、テシュミはふらふらだ。

 やはりアルブスの女はか弱いのだなぁと思っていると……言うことを言いきった途端、テシュミが仰向けに倒れそうになった。


「危ない!」

「ふひゃあ!?」


 慌てて前に出て、その身体を抱き留める。まるで膝枕をしているかのように、視線が絡み合った。


「……大丈夫か?」

「はひぃ……だいじょぶ、ですぅ……ちょっと疲れただけです~……」

「ずっとあれだけ派手に動いていれば疲れもするさ。この後は……おいガッタマ、俺たちはもう下がっていいんだよな?」

「お~う、このあとは俺たちでうまくやっておくさかい、二人はゆっくり休んでええで~」


 妹が倒れたというのに、ガッタマは陽気に笑っている。

 今すぐ俺の指を切って、人間エリクサー様の生き血を飲ませてやろうかとも思ったが……あれは麻で陶酔しているからこそだ。普段のガッタマなら、真っ当に行動するはず。

 そう思ってぐっとこらえた。


「それじゃあ、俺たちは今日は帰らせてもらうからな。……行こう、テシュミ」

「はぁい~……」

「ゆ~っくり! 休んで! ええんやでぇ~!」


 テシュミを抱き上げて立ち上がった俺の背中に、ガッタマの声が突き刺さる。


 ……俺はしないからな!


 そんな叫びをかろうじて飲み込んだ俺は、急ぎ足で家に向かう。色々あったが、とりあえず今はテシュミを休ませてあげるべきだろう。


「……ギーロさん?」

「ん?」

「……おおきにね」

「……お、おう?」


 もう演技をしなくていいからか、普段通りの言葉遣いで、普段通り微笑むテシュミ。

 しかし普段とは違って、俺の首に両手をまわしてすがりつくと、そのまま首筋に頬ずりしてきた。


 その後は家に帰りつくまで会話はなかったのだが、俺はどう答えるのが正解だったのだろう? 切に選択肢がほしい。


「はいよ、水」


 とりあえず、直前までの雰囲気は全部ブッ飛ばして、水瓶から水を渡す。

 それを受け取ったテシュミは、おおきにと答えながら一気に中身をあおった。


「ふはぁ~……あぁー、緊張しましたわぁ……」

「今日は本当にお疲れ様だ。よくがんばったな」

「ほんま疲れました……ずぅっとあの調子でふりをし続けるんは恥ずかしすぎます……」

「だろうなぁ……」


 俺にはとてもできない。

 いや、振っておいてなんだが。実際やるとなると、相当な肝っ玉を要求されるよな、あれ。


「……で、でぇ、ギーロさん?」

「ん?」

「まっすぐうちに帰ってきましたけど……そのぉ、シますん?」


 またなんという直球を!


「……しないよ?」

「せやろねぇ」


 なぜ俺はくすくすと笑われているのか。


 ……いや、冗談だ。わかっている。現状があからさまな据え膳だということはわかっている。

 それでも俺としては、やはりそういう気分には……。


 ……気分には……。


「…………」


 待て待て待て待て、待つんだ俺の身体。

 なぜ今反応しかけた。違う。これは食べていい据え膳じゃない! 俺はロリコンではない!


 ……全力で自己暗示をかけたら、すぐにすっと身体が鎮まった。普通、意思の力で男の身体は鎮まらないと思うのだが……これも超回復力的な何かだろうか?


「……せぇへんのです?」

「しませんッ!」


 しかし、テシュミには気づかれてしまったらしい。なんということだ。

 恥ずかしいやら悔しいやらで、思わず勢いよく拒否った俺に、彼女はやはりくすくすと笑った。


「……あー、その、すまん」

「ふふふ、ええんですよ。私は二番。一番はメメちゃんですもん」


 ……明らかに俺は不誠実な男だ。こんな状況で逃げようとしているのだから、刺されても文句は言えない。

 だというのに、テシュミはくすりと笑って静かに言った。ただでさえざわついていた心に、罪悪感が加わる。


 テシュミは本当に、メメを立ててくれている。自分が後からやってきたよそ者だということを理解しているからか、無茶なところまでは絶対に踏み込んでこない。

 だからこそ彼女自身の口から、「メメが一番、自分は二番」という言葉が出てくるのだろうが……非常に申し訳ない気分だ。

 いっそこれが中世とかに生まれていたら、開き直れたのかもしれな……いや、俺のこの性格から言って、うだうだと悩み続けた可能性のほうが高いか……。


「ギーローっ!」

「ぅおあ!? メメ!?」


 相変わらず何を言えばいいのかわからず黙っていると、いきなり後ろから聞き覚えのある声が飛び込んできた。

 そのまま俺の身体にまとわりついた声の主――メメはぐるりと俺の正面に回り込むと、ぎゅーっと抱きしめてくる。


「わしは信じておったぞー! ギーロはちゃんとわしを見てくれておるって信じておったからのー!」

「お前聞いてたのかよ……」

「あらあら、メメコちゃんったら」

「だって不安だったんじゃ! あのまま二人だけでおっぱじめたらわし、お父呼ぼうかと思っとったんじゃからな!」

「ヒッ!?」

「あらあら……それは怖いです」


 いやマジでな!?

 ディテレバ爺さん、メメがあくまで一番手であるなら嫁がどれだけ増えても構わないって言ってくれたのだが、そこが反故にされた場合の俺の無事は保障しなかったんだから!


「だ、大丈夫だから! そ、そういうのはその、メメが先だから! 大丈夫だから!」


 だからお願いだから、爺さんだけは呼ばないでくださいお願いします!


 そう思っていたからか、嘆願するような言い方になってしまった。

 だったらお膳を据えてないで、さっさと手を着けろよと言う話だということはわかっている。わかっているのだが、何かが俺に拒否させるのだ……。


 けれどもメメは、俺の言葉を聞いて表情をさらに明るく綻ばせた。満面の笑みである。


「そうか! そうじゃよな! えへへ、よかったぁ!」


 そんな彼女の顔に、思わず見とれる。


 しかし直後に、彼女のすぐ後ろにいるテシュミの微笑みが目に入ってきて我に返る。

 にこにこと微笑んで、メメを眺めているテシュミ。母性ある姿に見えるが、彼女の本心はそうではないのではないだろうか……。

 そうでないのなら、あのとき俺に「うんと甘える」なんて言葉は出てこないのでは……。


「……テシュミも来るか?」

「ちょっ、ギーロ!?」

「え? で、でも私は」


 そう思ったら、なんだか自然とテシュミを誘っていた。

 当然のようにメメが抗議の声を上げるが、テシュミも当然のように遠慮する。


「いやその……さすがに今日はテシュミの日だと思うんだよな……」


 だが俺がそう言うと、二人は息の合った動きで目を合わせた。

 それからまるでメメのような満面の笑みを浮かべるテシュミと、仕方なさそうに頬をかいて視線をそらすメメ。


「……仕方ないのじゃ。確かに今日はテシュミのほうが一番なのじゃ」

「で、でも……」


 そして遂にメメが場を譲った。それどころか、なんと俺から距離を取った。

 おまけにテシュミの手を引っ張ると、俺に向けて押し出すまでしてきたのだから、むしろ俺が驚いたよ。


「きゃっ、め、メメコちゃんっ?」

「遠慮しなくたっていいんじゃよ!」

「え、あう……」


 メメに押し込まれて、俺の胸元に来たテシュミと視線が重なる。

 そのまま言葉を失ったテシュミだったが……やがて意を決したのか、そっと俺に身体を預けてきた。


 やっぱり、抑えているものがあるのだろうか……。


「どーん!」

「おおう!?」

「ひゃっ!?」


 などと思っていたら、そこにメメも飛び込んできた。

 ただし、テシュミの後ろからだ。なので、俺とメメでテシュミをサンドイッチする形になる。


「……あ、あのー?」

「メメ?」

「ふふーん、今日は一番を譲るけど、だからって後ろで待ってるなんてわしはしないからの! するならともかくシないならわしだって!」

「お、おう……」

「あ、あはは……」


 偉そうに宣言するメメの姿が、妙に笑いを誘う。

 まあ、確かにという感じはする。メメはしおらしく相手を待つような性格はしていないもんなぁ。


 似たようなことを考えていたのか、テシュミも状況を忘れてくすくす笑っている。


「な、なんじゃ二人して!」

「いやだって、なあ?」

「うふふ、そですねぇ」


 テシュミにつられる形で俺も思わず笑いがこぼれる。

 それを見たメメが頬を膨らませて拗ねてしまったので、俺は笑いをこらえながら彼女の頭に手を伸ばした。


「むーっ!」

「いや、悪い悪い。なんていうか、お前らしいなって思ってさ」

「ふーんじゃ!」


 ぷいっと顔をそむけるメメだったが、その場から動いていないので、本気で拗ねているわけではないのだろう。

 かわいいやつめ。やっぱり笑ってしまったじゃないか。


 なんだろう。当初は本気で二人の仲と、二人との付き合い方を心配したが、この様子だとあまり気にしなくてもいいのかもしれない。

 というより、そういう距離間でいられるものを家族と言うのかもしれないな……。


 そんなことを思ったら、なんだか肩の力が抜けた気がした。


「とりあえず、そろそろ寝るか? もう普段なら寝ている頃合いだろ」

「……うん、そうじゃな。わしももう眠いのじゃ」

「はいな。私も今日はくたくたです」


 ひとしきり笑ったあと、会話の切れ間を縫う形で切り出す。

 俺の提案に、二人もこくりと頷いた。原始人は朝も夜も早いのだ。


 そのまま三人まとまった状態で、寝床に横たわる。いつも通り、俺を真ん中にしての川の字……いや、小の字だ。

 しかし今日は、二人とも何か思うところがあったのか、完全に俺に密着してきた。


 二人の身体に手をまわしてみる。小さいけれど、暖かくて心地いい。

 これはこれで、まあ、ありか。


 …………。


 ありか……。

 そうか……ありなのか、俺……。

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