第十一話 猫、ナンパする
数十分後立ち直った和仁の姿があった。依然として屋根裏にいる。屋根裏と言っても大きな梁があり、その上から下をのぞいている程度であるが。
「
見た目はかなり出来そうな男だった。まさか猫がテレパシーをした程度で驚いてしまうとは情けない。
「固定概念ほど怖いものはないにゃ」
恐らくさっきの男は召喚士と関わった事がなかったのだろう。関わったことがあれば召喚獣である人外が人語を話すところだって見たことあるかもしれないし、そのような存在もあると話くらい聞いたことがあるかもしれない。
「まあにゃーもこの世界は詳しくは知らないにゃー」
さてさて、次に気づく人が現れればいいなと期待して下を見続けた。
暫くすると大きな帽子にローブを着た冒険者にしては小柄な人物が入ってきた。その人物は依頼書が多く貼られている掲示板へと向かう途中、はっとしたように和仁の方を向いた。
目が合うと分かったがどうやら魔法使いのような格好をした女であった。どこか猫っぽいと印象を受けたのはちょっと目が吊り上っているからだろうか、ふわふわとした髪が揺れる。
「こんにちはにゃー」
先ほどの失敗を繰り返さないために挨拶から始める。同じ
「わっ」
当然ながらテレパシーを送られた少女も驚く、驚いて小さな声を出してしまい慌てて手で口元を押さえる。
「にゃーに気付くとはなかなかやるにゃ。頼みたいことがあるんだけれど、冒険者かにゃ
?」
少女は戸惑いつつも何度か頷く。
「話だけでも聞いてほしいにゃ?お時間はあるかにゃ?」
変にかしこまって変な言葉になった和仁に対し、その子はクスリと笑った。
「いいよ、あそこで話そうか」そう言って指さしたのは冒険者ギルドに設けられた待機場所の一角だった。
「感謝するにゃ」
和仁はするりと梁から降り音もなく床に着地した。
☆
「ふーん、キミもなかなか大変そうじゃないか」
「送にゃ、苦労しているにゃ。ご主人様は何もやらせてくれないにゃ。にゃーは家政婦じゃないにゃ、召喚獣にゃ。戦いたいし、活躍したいにゃ」
「まあまあ、わかったけど……バレたらそんなにまずいの? 」
「何されるかわかんないにゃ。シエルこのことは内緒でお願いするにゃ」
この少女はシエル、ソロで活動している冒険者だった。見た目通り魔法使いであり、依頼を見に来たところだったと聞いた。
「こうやって会話していることも? 」
「頼むにゃ」
「かずひとはどうし……」
「ああ、なるべく名前も伏せて欲しいにゃ」
「猫なのに気苦労多そうだね。じゃあ猫ちゃんて呼ぼうかな? 」
「ニャーは男にゃ、ちゃん付けは勘弁してほしいにゃ」
「じゃあ猫君で……へぇついてないのに男なんだ」
「……気持ちの問題にゃ」
「猫君は精霊なのかな? 」
「ニャーも良くわからないにゃ」
「ま、細かい事はいいや。元々ソロだし、話し相手がいることは嬉しいこと。それに良くわからない人間を連れるより可愛い猫君を連れている方がよっぽどいいね。襲われる心配もないし。私も訳あってソロでしてるからさ」
「任せるにゃ! それにしっかり戦力になるにゃ。ただの話せる猫と思ったら駄目にゃ」
「わかったよ。それで、僕は一応銅級の冒険者なんだ。だから銅級の依頼を受けるけど大丈夫? 」
「どんとこいにゃ」
「??? 良くわからないけど大丈夫なら依頼を見てみようか。それとさっきの件終わったら教えてね」
「任せるにゃ」
和仁はシエルと交換条件をしていた。和仁は冒険に連れて行く・身の上を秘密にしてもらう。シエルはテレパシーの魔法を教えてもらう・取り分は全部自分の物・和仁の事は別れても他言無用で契約は成立した。
掲示板には無数に張り紙があるけど和仁には高さ的に見ることが出来ない。様々な色の用紙が貼られているのはわかるが。
「どんなものがあるにゃ」
「うーんとねー……冒険者の事ってどのくらい知ってるの? 」
「魔物をやっつける依頼を受けて、やっつけるにゃ」
「うん、それはそれで正解。けどそれだけじゃないんだ。街の住人からの『お願い事』とかもあるんだよね。探し物をみつけたり、掃除したりって。用紙の色でそれを判別するんだ」
「なるほどにゃ。それで討伐系の色は何色にゃ? 」
「赤」
そこには結構な量の赤紙があった。
「この街だけじゃなく、周囲の村や商人が情報提供して討伐依頼が出るんだよ。赤い紙にはそれぞれ星が押してあり、魔物の強さをギルド側が判断する。それを冒険者側は星の数を見て自分たちの実力に合ったものをとるんだ。もちろん採取や捜索も難しそうと判断したら上級の冒険者じゃないと受けれない様にって配慮するみたいだよ」
ありがたい説明だったが肝心な用紙は和仁にはあまり見えていない。
「わかったにゃ。それで、どれにするにゃ」
「これにしようかな」
シエルは一枚とって足元にいる和仁に見せた。
「次からは肩にのせてほしいにゃ。にゃーも一緒に見たいにゃ」
その言葉にシエルはクスリと笑った。
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