第十話 猫は打たれ弱い

 ―――襲撃より二年が経った



「暇にゃあ暇にゃあ暇にゃあ」



 すっかり家事手伝い猫となってしまった和仁の姿がそこにはあった。手狭になってきた家だが今の時間和仁の他には誰もいなかった。


「もう掃除ばっかりは飽きたにゃ。こうなったら冒険するにゃ」


 和仁はリリーに様々な禁止事項を言い渡されていた。冒険者登録・人前で話す・リリーが帰るころには家にいる事・勝手にいなくならない・猫交際などなど。


「にゃーはこれでも老獪な猫にゃ。言われたことに抵触しないやり方で出し抜いてやるにゃ。素晴らしいアイデアにゃ」


 悩みぬいた末に出した結論はこれだった。襲撃があった後、暫くは魔法の師匠として必要とされていた和仁であったが新たな召喚獣が増えていったことにより外出する頻度は減っていった。そう、魔力の流れを良くしたことにより魔法はどんどん覚えていき、全然ダメダメだった召喚術も何のその。瞬く間にいらない『ペット枠』となってしまったのだ。他の召喚士と同様新たに強い召喚獣を連れ歩くのがステータス、その風習にリリーも染まってしまったのだと和仁は考えていた。


 更に、話し出した頃は慕ってくれている様子だったのに段々とそっけなくなっていった。まあそれだけ召喚されたのが強力なメンバーだったために和仁も内心は納得していた、仕方のないことだと。でも諦めの悪い和仁はやはり諦めなかった。


「これじゃただのペットにゃ。にゃーが呼び出しに答えたのはこんな為じゃないにゃ」


 最初に決めたのは冒険者ギルドに登録して稼ぎを良くしようとのことだった。これは二人で話し合って決めた事だった。登録できるのは十二歳、それまでは食堂で働き学校で魔法特訓をする。そして十二歳になった暁には一緒に冒険に出る、そう信じてやまなかった。


 だけど現実はそんな甘くなく登録には一緒に行ったけど和仁は登録させてもらえなかった。それだけではなく、あとから召喚された子たちを登録し一緒に依頼をしているのだ。これには和仁も駄々をこねたものの「スフレには危ないことをさせられない、私が一生養うから家で安心してて」の一点張り。


 召喚術と対を成す『送喚術』。もとにいた世界へ送る術だ。その存在を知って以来、悶々とした生活を送ってきた。「」その言葉を言い出せないのはリリーに絆されたからであろう。和仁もそのことは理解していた。


「よし行くにゃ! 」


 リリーは学校に行ったばかり。他のメンバーも冒険者ギルドへ行っている。朝出て夕方までに帰れば気付くまい。それが和仁が考えた作戦だった。


「にゃふふふふん」


 抜かりはなく、すでに王都の裏道は網羅している。美味しいお菓子をくれるマダムもサーチ済みだ。だが今日は食べ物ではなく見定めた冒険者について行き一緒に外へ。それが目的だ。


「美味しい食べ物に尻尾が揺れるにゃ」


 後ろ髪引かれる思い。それを猫風にアレンジしたものだが、この世界にそのことわざを理解できる人物はいるだろうか。



                  ☆



 冒険者ギルドの入り口にはヘラクレス像のように屈強な男性像が鎮座している。ちょっと遠くてもわかるくらい目立つ。


「よし、作戦開始にゃ」


 冒険者ギルド内に侵入し、良さそうな冒険者を見つくろう。交渉し、そしてついて行くのだ。


「どうせついて行くなら末永くお付き合いできるようなすばらしい人種がいいにゃ」


 冒険者ギルドは様々な人々が行き交っていた。ソロ・ペア・パーティーが依頼達成の為メンバー募集したり、または良い依頼が出されるまでスタンバイ。常時人がいる状態だ。そこに最近は超実力派新人が現れたのは多くの人が知ることとなった。パーティー名『猫の尻尾』、リリーの召喚獣だけで作られたパーティーである。


「だけどその知名度があだとになったにゃ」


 有名になればなるほどどこにいるかわかる。そう、もうこのギルドにはいない。そうなれば和仁の事を知っている人物はいないとなるのだ。さらに天井裏から見ることによってカモフラージュは万全。この気配に気付いた人物にテレパシーでコミュニケーションを図ろうとの魂胆だ。『話してはならない』その禁止事項の為に和仁はテレパシーの魔法を完成させたのだ。そんな何ともつたない計画に突っ込む者はいなかった。


 暫く上から眺めていると和仁に気付く男がいた。見た目は細いが歩き方からしてしっかりと鍛えていることがわかるし、わかるようにしているとはいえ和仁を認識できたのだ。実力は申し分ないだろう。こちらを見据えしっかりと目線が合わさる。


「にゃーに気付くとはなかなかの実力者にゃ」


 そうテレパシーを送ると男は即座に。



「うわ、キモッ! 」



 ときびすを返してしまった。



 猫は落ち込んだ。

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