第九話 猫にフラグは通用しない

「だ、だれ?」


「いえ、私は初めましてですが……公爵様から言伝を預かってまして、旦那様が大層ご立腹です。心当たりはございませんか? 」


 老紳士はとても丁寧な語りかけで対応するが、妙な違和感を覚える。


「お父様が? なぜ? それに心当たりなんて……」


「ええ、そうですよお嬢様。追放だけでは駄目だったようですね。模擬試合で初戦敗退とは本当に同じ血が通っているのかどうか怪しいところです」


「負けたからといって……追放されているのですから公爵家とはもう関係ありません」


リリーは冷静に言い返すが焦っているのが丸わかりだ。家に待ち伏せされただけではなく相対するのは大人。しかも見える範囲でも五人もいる。和仁にはより鮮明に相手が見えた、相手が武器を所持していることを。そして武器を所持していることで今から行われようとしている事もわかってしまった。


「ええ、ええ。そうでしょう。お嬢様の言い分はわかります。でも周囲の人はそうは見ないのです。ですので、結局はいなかったことにしようと旦那様が言われましてね……お嬢様には大変申し訳ないのですが不運な事故に巻き込まれてお「リリー走るにゃ! 」」


だらだらと付き合ってる暇はない。和仁は話に割り込み逃げるように促した。だがリリーは聞きなれない声に戸惑っていた。


「え、え? だれ? 」


「いいから走るんだにゃ! 」


二度目の言葉にハッとしリリーは家とは反対方向へ走り出したが、そんな遅さを見逃すほど甘くなかった。


「逃がすわけないでしょう」


最初に話しかけてきた男が笑うように言い放つ。すると三人が道をふさいできた。まえだけではなく、後ろにも配置していたのだ。和仁はまあ当然逃げさせないようにするよねと冷静に感心していた。だが、逆に予測できていたからこそ迅速に魔法を使う。


「今からバフをかけるにゃ。そのまま突っ走るにゃ。にゃん!」


「え?ええぇ~!?」


リリーと自分にスタミナ・パワー・スピードのバフをかける。ついでに進路をふさいでいる者たちへ走りながら魔爪を振るう。思わず寝入ってしまい魔力は十分にある。横なぎに払った魔爪は相手に感知されることなくすんなり上下真っ二つになった遺体が転がることとなった。


「どどどどうなってんのこれ~?」


「実家から暗殺命令が出てるみたいにゃ。にゃーは話せることを隠しててすまんかったにゃ」


「やっぱりスフレだったのね……」


「とりあえず安全な場所まで一緒に行くにゃ……いや、ここでいいにゃ。にゃん!」


和仁はリリーに隠遁魔法と念のため認識阻害魔法ををかける。家から少し離れた場所である為死体がバラバラに落ちていてもどうでもいいかと考えた。


「リリーには敵からわからなくする魔法をかけたにゃ。そこで隠れているにゃ。にゃーが全部迎え撃つ」


「スフレ!あなた戦えるの? 」


「そこで見ていると良いにゃ! 」


追いついてきたさっきの男たちと相対する。相手は公爵家。逃げていてもいずれつかまるなら迎え撃って実力をつけた方がいい。和仁は魔法の使い方もわかって怖いものなしなのだ。


「おやおや、殊勝にも護衛気取りで主人だけ逃がしたのですか。ですが無駄なことですね。すぐに追いつきますので。ですが、三人を片付けるとは侮ってはいけない相手の様です。召喚獣最弱の猫だからと言って気を抜かないように皆さん気をつけましょう」


何ともやりずらいと和仁は思った。魔力で強さを判別できた前の世界と違ってみてわからない。それにこの世界で対人は今回が初めて。魔法も異なるかもしれないし、知らない魔法を使われると後手に回るかもしれない。そうなればとるべき手段は一つ。


「先手必勝にゃあ“ぁぁ!」


暗視で見て相手は残り五人。周囲にサーチしても同じ反応。余程の手練れ以外はこれでカバーできる。ターゲットロックオン!マルチミサイル!発射!


「な!なんてっ」

「ひ、ひぃぃい」

「うわっ」

「がべっ」

「まっ」


それぞれに逃げても自動追尾のフレイムスパークをお見舞いする。一見火の玉だか対象に当たると炸裂するので別名マルチミサイルと呼んでいる。


「やったかにゃ?」


フラグだとしても言わずにはおれない。

プスプスメラメラと燃え黒煙を上げる焼死体五体が出来上がっていた。


「……あっけないにゃ。リリーもう、」


その時衝撃が駆け抜けた。


「スフレ凄い!」


猛烈な勢いでリリーに抱き上げられたのだった。素早く頬ずりまでされる。


「私何が何だか分からなくって」


「仕方ないにゃ……とりあえず家に帰るにゃ」


「でも、殺しに来たのなら家にいるとまずいんじゃないの? 」


「大丈夫にゃ。家に認識阻害かけるにゃ。にゃー達しか認識できないにゃ。」


「家についたら色々聞かせてね。話せる事とか」


「……はいですにゃ」


落していった鍋を回収し家についた。家ではまず和仁の謝罪から始まり、今後の方針。学校はどうしたらいいかなど話し合った。結果今まで通り学校には通うこととなった。学費は卒業分まですでに支払われており、生活費は戦えるので冒険者登録を行い稼ぐこととなった。だが暫くは食堂で働き、冒険者ギルドに登録できる十二歳から冒険者として稼ぐことを決めた。


「にゃーの名前は和仁にゃ。スフレじゃないにゃ」


「やだ、絶対スフレとしか呼ばないんだから。それと人前で話すの禁止。私が話しかけるまで外では話しちゃダメ」


「にゃにゃに“ゃ!召喚獣も人権があるんだにゃ!」


「話すの隠されてて悲しかったなー」


「………ごめんにゃ」


「私もっともっと強くなるから見てて」


「魔法はにゃーに任せるにゃ。」


「はい師匠。頑張ります」


こうして夜は更けていった。

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