第七話 持論を繰り広げる猫
翌日よりリリーは変わったように、さらに学業に励むようになった。というより元々座学は成績がいい。新たに取り組もうとしているのは魔法の自主練習だ。
召喚術というものが存在しているとおり、この世界にも魔法は存在している。それは召喚獣だけではなく、この世界にも存在する魔物も使用することが出来るし人も使用することが出来る。ただ人で言えば使える人と全く使えない人に分かれる。人間という種族は総じて魔法の適正は低いものであった。
そんな中、魔法の名家であるヒルデンブルグ公爵家に生まれたリリーは才能の塊だったといえよう。幼い時に魔力測定器で膨大な魔力があることが分かったリリー。学校に通う前から魔法だけの家庭教師がつけられた。だがいくら魔法の勉強をしても発動できなかった。
家庭教師曰く「なぜ使えないかわからない。試しに魔力測定を行っても測定結果は同じ。歳を重ねればと使えるかもしれない」と。つまり現段階では魔法は使える望みは薄い。その時はまだ公爵家も望みを持っていた。
だが、入学して勉強しても魔法は使えなかった。
仕方なく苦肉の策として召喚術専攻科へ進むこととなった。召喚術自体は少ない魔力でも発動できるからだ。ただ大きく強いものを呼ぶとなると話は変わる。
ここにきてリリーは自分の魔法をもう一度試すことにしたのだ。自分の魔法の腕前が上がれば和仁への負担が減る。そう考えたのだろう。教師におすすめの本を借り、魔法の練習をする。
召喚獣は魔力の多さによって呼べる数、強さが決まっていると言われている。それプラス家の財力が決め手となる。大型召喚獣は維持するだけで食費がかさむ。基本的に魔物型召喚獣は食事を必要とせず、精霊や妖精は食事を必要としない。大型の召喚獣は殆んどが魔物型であり維持コストが多くかかる。
和仁は妖精であり食事を必要としない。人としての名残で娯楽として食事を摂っている。そのことを知らないリリーは普通に食事をくれるのだ。そうなると召喚獣はもう増やせない。自分の技術を磨くしかないのだ。
昨夜和仁に「スフレを呼べたんだから魔法だって使えるようになるかもしれないよね? 」と嬉しそうに話していた。そうなればいいと思っていたが……。
「にゃふわぁぁぁ~」
あくびを噛み殺そうともせず堂々とする猫の前には、必死に魔術書と格闘している少女の姿があった。すでに三十分ほど色々な魔法を繰り返している。だがどれも発動しない。それでも諦めていない様子だった。
リリーには魔法基礎理論はすでに頭に入っている。幼少期の英才教育のたまものだった。それでも和仁がこの世界に来て不思議に思った魔力が見えない現象があるように、この世界に住人は魔力の流れが見えていない人がほとんどなのだろうと和仁は結論に至った。
「魔力のタンクからの流れが途中で詰まっているにゃ」
片方の魔眼を発動させリリーの体を見ての感想だった。大きすぎる魔力。それに蓋をするかのように流れをせき止めている。よくこれで召喚術が出来たもんだと感心してしまう。
「火の恵みよ、灯せ、
うん、無駄が多い。思わずつっこんでしまいたいが、それをしてしまうと話せることがばれてしまう。そもそも魔法とはイメージ。詠唱は不要なのだ。和仁の持論では、詠唱は魔力の流れを固定させやすいから行うのであって、自ら上限を決めているようなもの。固定化せず魔力を流せば同じ魔法でも強力にしたり弱くもできる。なので詠唱と魔力の流れを紐付するとそのようなデメリットが起きてしまう。唱えやすいというメリットはあるのだが。
「にゃーは一生懸命な子に弱いにゃ」
そっと起き上がり詠唱を続けているリリーの足にそっと触れる。
「ひゃあ! 」
集中していたのかリリーは驚いた声を上げてしまう。
「スフレ? もーびっくりしたー。集中しているから……ん? なに? 」
和仁は首を振り違うぞと主張する。和仁の魔力で魔力の流れを良くしようとしているのだ。
「んん、なんかスフレが触っている所から体が暖かくなってる」
そうだろうそうだろうと頷く。出来るかわからなかったけどやってみるもんだと思った。全身をめぐらせ魔力の流れを良くし、的へ顔を向ける。
「やってみろって? 」
肯定の首を縦に振る。恐らくこれで大丈夫だぞと尻尾で足をバシバシと叩く、もちろん痛くない範囲でだ。
「じゃあ今度はこれにしてみる! 」
今度はどのような魔法かな?
「すべてを止める凍てつく精霊よ、我が声に応えその力を見せよ。 凍える
この魔力の流れは不味い。そう思った時はすでに遅かった。
「にゃにゃに“ゃっ!」
―――的は大きな氷に覆われた。
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