第四話 魔法理論を理解していない猫
「魔力が抜ける感覚はあったにゃ。でも具現しなかったにゃ」
どこかで鳥の鳴き声が聞こえる森の中、和仁は独り語つ。リリーが寝ている隙に抜け出したのだった。混乱はしたものの、以前生まれ変わった時も混乱したなと感慨深く思っただった。魔法を使っている存在を見てから試行錯誤の上魔法を身に付けることが出来たのだったなーと初心を思い出す。
「でも数回だけ回復魔法は発動したにゃ」
リリーに向け使用したのは回復魔法だった。様々な魔法を使い発動せず。何回か確認の為にリリーに向け回復魔法を唱えると、決まってリリーは反応してくれた。リリーが嘘をつく必要はないし、魔法の発動を考えてもあの感想は間違いない。効果のほどはわからないけど間違いなくリリーは暖かく感じたのだろう。
「実行あるのみにゃ!」
和仁は手当たり次第魔法を唱える。だが発動したのは最初の一発目だけで、しかも威力の弱い魔法だけであった。それなのに急激に襲われる疲労感。思わず意識が飛びそうになる。
「駄目にゃ。きつすぎるにゃ。最初を思い出すにゃ」
最初と言えば。転生して数日後、冒険者らしき格好した獣人が魔法を唱えているのを見て驚き、すみかに戻って魔法の練習した時の疲労感に似ている。急にくる強い疲労感。何度も気絶使用になり魔法の練習をしたのだった。
「魔力切れに似ているのにゃ」
普段魔法は使っていない。だとしたら。
「この世界では魔力消費量が多いのかもしれないにゃ」
以前の世界よりも数倍から数十倍。いや数百万倍無いと一回で魔力切れに何てならない。
「いやいやないにゃ」
体内より魔法を出す際の空気抵抗みたいなものが大きい。
「さっきと似たような結論にゃ」
それだと沢山の魔力が必要になるのは同じである。
「そもそも魔法理論が前の世界と違うのだとしたら効率が悪くてすぐに魔力切れを起こすかにゃ? 」
そう言って自分の両手をみると魔力が流れているのがわかる。体を見ても魔力が溢れている事がわかる。それに偉そうに魔法理論とか言っているが、理論なんて全く分かってない。こうなれと思えば使えていたのだから。
「とりあえずどの魔法が使えてどの魔法が使えないか試すにゃ」
こうして夜明け、リリーが起きる前まで訓練は続いた。翌日、不安そうな表情のリリーにおっさんみたいなあくびをする猫の姿があった。
「貫徹は爺にはつらいにゃ。それになんの進歩もないなんてにゃーながら情けないにゃ。この世界は世知辛いにゃ」
不安の残る翌日となった。
☆
召喚された世界で召喚獣としての猫とはどの程度か。
猫種。使い魔系。戦闘力は低く、魔力も少ない。攻撃魔法を使える個体は少なく、補助魔法として隠密魔法が使える。攻撃魔法を使えないため戦闘向けではなく諜報系。もしくは軽いものなどを相手に届けるなどが出来る。言葉を話せる個体は観測されたことがない。その為使い勝手が難しい。ペットとして大人気。
練習場での羞恥プレイのあと家でリリーから聞かされたこの世界の猫の情報だとこのくらい。家猫として飼われているくらいポピュラー。召喚で呼び出された個体は知能が高いが、その子となると知能は引き継がれない。つまり家猫は地球の猫と同じ。召喚獣の猫は賢い人語を理解する猫程度。
つまりどうゆう事かというと……。
「棄権します」
相対する首が二本に分かれて犬のような召喚獣をみながらリリーは右手を挙げ悔しげに審判にむけて言い放った。それを聞いた対戦相手は二つ首の犬のような召喚獣に頷き合図する。くわえられボロボロになった猫が投げ捨てられた。
和仁はこの世界では今までのやり方では魔法が使えないと身に染みて思い知らされた日だった。
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