第一話 召喚された猫
この爺猫。日本で天寿を全うしファンタジーな世界で猫として生まれた。日本人として生きてきた時の名は
あれおかしいなー? 猫の寿命は長くても二十年くらい、そう考えながら気づけば百年経っていた時ただの猫じゃないと確信できた。
それもそのはず、日本で生活してきて見た事もないようなモンスターや獣人を沢山見てきたからだった。飛び交う矢や魔法。冒険や開拓など胸躍る世界だったのだ。当然危険な世界だったため、陰ながら努力し猫として?めきめきと実力をつけて行った。
猫としては特殊な存在であったし、それ以上に恥ずかしい現象から人とはかかわらず山奥にひっそりと生活し、襲ってくる魔物を撃退しながら生活を送っていた。自然と語尾に『にゃ』がついてしまうのだった。中年までゲームやラノベを沢山呼んでいた和仁はファンタジーな世界に驚くほどに順応していった。だがその『にゃ』言葉には順できなかった。
「こんな何百歳の
日本で考えれば高齢者のおじいちゃんがにゃ言葉を話す痛い場面になってしまうのを危惧して人との交わりを避けていたのだった。
―――そうして幾年月日経ったかわからないくらい、和仁は不意に呼ぶ声が聞こえた。
「お願い……来て…………じゃないと……わ、わたし……」
「なんか卑猥な語りかけに聞こえるにゃ」
さらに和仁にはもう一つ恥ずかしい現象があった。『自分』と言おうとしても『にゃー』と勝手に変換されてしまうのだった。
「お願い……はやく、はやく来てっ!」
どこからか聞こえる二度目の言葉に反応するかのように和仁の目の前に黒い渦のようなものが現れた。この世界に来て初めて目にする現象に驚きを隠せない。
「ううぅ……ぐすっ……きてぇぇええー」
「この渦から聞こえているにゃ」
どうやら渦から卑猥な少女らしき声が響いている。和仁はどうしたものかと思案した。渦から聞こえる少女らしき声。その声色は真剣でありひっ迫した印象を受けた。こうして考える間にも「お願い」「もう後がないの」など、どこか懇願するかのような声に和仁は負けた。
「えーい、ままにゃ」
飛び込んだ先に見たものは……真っ白のまぶしい世界。当たり一面白一色。まぶしくて目が開けられないほど白かった世界が徐々に落ち着いてくる。恐る恐る開いた目に映ったのは……。
目の前には制服らしきものを着て下を向き、拝むように手を組んでいる少女らしき者。それを取り囲むように同じ服を着ている人々。場を理解しようと努める和仁に声がかけられる。
「それまで。無事召喚できたリリーさん。合格です」
その声を聴いた少女は勢いよく頭をあげ声の発した方を向いた
「やった……やったよー」
少女はそれに安堵したのか涙を流していた。その頃ようやく和仁はこの場を理解し始めていた。制服を着ている人物が大勢いる、ここは学校であり自分は呼ばれた。きっと召喚に関する授業か試験なのだろう。それで自分がこの少女に呼ばれたことにより合格となった。
ふむ、場を理解した少女よ。して自分は元の場所に戻れるのか? そう和仁は言おうと思い、再び下を向き泣いている少女に近づき頭をポンポンとなでるように触れ用とした時、周囲からの声が耳に入ってきた。
「やっと召喚できたと思ったら猫かよ。そんなよえー奴しか召喚できなかったのか」
「やっぱ落ちこぼれ」
「いや、あの猫はつよい」
「召喚獣の中で戦力にならず、せいぜい使い魔。最悪身代わりだな」
「可愛い猫ちゃん」
そんな少女を嘲笑するかのような声が聞こえた。ぱっと見自分は猫。ファンタジーな世界を見てきた和仁にとってもドラゴンやベヒモスのそれと比べればなんとも頼りない。だが伝わってきた少女の声は真剣そのもの、彼女は真面目に願ったのだ。その真面目さに折れて結果自分はやってきた。それをコケにするような発言に和仁は怒りを覚えた。
すまんかった少女、そう口に出掛ったとき少女は睨むように男たちを見た。
「私を馬鹿にするのはまだ許せる。けど、この子を馬鹿にするのは許さない」
少女を良く見ると澄み渡る青空のような青の頭髪、火の力強さを連想させる深い赤の瞳をした可愛らしい少女だった。だがその幼く見える少女の表情には確かな思いが伝わってくるようだった。そして何より自分を庇おうとする言動。和仁は『戻れるのか?』その言葉を胸の奥にしまった。暫くこの少女と共に先ほどの奴らを見返すのも悪くない。和仁にはファンタジーな世界で培った経験がある。いっそ見返してから帰るのもまた一興。「にゃふふふふん」とニヒルに笑う和仁の横で。
「リリーさん、その子に名前を付けてあげて。名付けに受け入れれば契約が完了する」
と教師らしき人物に思考を中断させられた。
「……はい。わ、私はずっと最初の子の名前を考えてました。だからあなたの名は……」
「にゃーの名は……」
ハッとした和仁は名前はある。そう遮ろうと口にするも、その言葉より早かった。
「スフレ。あなたは今日からスフレ」
その言葉を聞いた和仁の体が光った。
「にゃにゃに“ゃっ!」
「契約はなされました。今の光は契約を受け入れた証です。リリーその子を大切にしてくださいね」
「はい!もちろんです!」
――先ほどまで泣いていた少女はいなかった。かわりに歳相応に笑う少女の姿がそこにあった。
何百歳と歳を重ねた爺猫がリリーに可愛い名をもらった五年前の出来事であった。
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