猫として異世界へ転生したのに、さらに別な異世界へ呼ばれました

犬派です

ある日の日常 エピソード0

「やれやれだにゃ」


 直立で箒を使う猫は独り語つ。


「まったくご主人様は人使い……じゃなくて猫扱いが酷いのにゃ」


 せっせと箒を動かしながらも猫の独り言は止まらない。


「これでもにゃーはとてもとても年寄なのにゃ。もっと労わって欲しいにゃ」


 そもそも現代日本において直立二足歩行出来る猫は珍しいのだが、箒を使い更には人語を話す猫など存在しないだろう。この話す猫はシルバーの毛並みを持ち、金の瞳とサファイアブルーの瞳のオッドアイをしていた。見た目は美しく上品に見えるのに話すと妙に爺臭い。アクセサリーなのか左手首にブレスレットをつけている。


「昔は孫みたいに可愛かったのに最近はにゃーに冷たすぎるにゃ。一時は師匠とかかわいかったにゃ」


 この猫は五年前のある日この世界に召喚獣として呼ばれた。それまでは別な世界で独りひっそりと生活していたのだ。前世――日本人としての記憶を持ちながら。前世では老衰による大往生であった。


「ニャーニャーと煩い」


「にゃにゃに“ゃっ!ビックリするにゃー。ご主人様趣味悪いにゃ」


 突然背後より聞こえた声に驚く猫。


「ご主人様じゃなくて名前で呼んでっていつも言ってるでしょ!」


「そんにゃ事よりごしゅ……リリー。にゃーも戦いに行きたいにゃ。こう見えてもにゃーは実力者にゃのは……」


「だーめ、スフレの仕事は家事掃除洗濯なんだから。危ない仕事はさせられないの。あ、洗濯物もお願いね」


「にゃにゃに“ゃっ!にゃーはスフレじゃにゃくてかず……」


「じゃあ行ってきます」


「ああ、ま、待つにゃー……ひどいにゃ、また置いていったにゃ。ぱわはらにゃ、世知辛いにゃ、涙がでるにゃ」


 颯爽と走って行った少女の背中を見つめる猫は哀愁感あふれていた。そんな美しい見た目に合わない雰囲気を漂わせつつ猫は箒を再び動かし始めた。



「毎日掃除しているから汚れてないにゃ……」



 そんなつぶやきは誰にも聞こえる事は無かった。



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