第七章ー6:誰がための涙

「この小羊!お返し!」


 明琳は怒りで涙目になったまま、胸元に手を突っ込んだ。


 ――あんたはあんたの思った通りに行動しなさい、明琳。夢の中で、蝶華さまが教えてくれた。種の扱い方。体内に入れると、溶ける。そうすれば、悪い仙人は二度と種を生み出せない。こんな事は二度とない。


 食べちゃえ!



 ――明琳、ここに置いておいたお饅頭、食べちゃったの?

 ――だって美味しそうだったから!



 仕方が無い子ね・・・そんな母と遥媛をどうして被せたのだろう。遥媛公主は一度も、自分のお饅頭を食べてくれなかった。


「こんなもの、こうしてやる!」


 出てきたのは饅頭だ。その饅頭に素早く遥媛公主の宝玉を突っ込み、埋めると、ばくんと口に放り込む。


「あ!」



 もしゃもしゃもしゃ。

 ごくん。


「食った…」

「明琳!おまえなんてことを!」

「この小娘!…わ、私の最期の種を喰っただと!」


 明琳はすうと息を吸い、がくりと膝をついた。



「きゃあああああああああああああああ」



 ―――――くるしい……



「ふん、当たり前だ。…私の種を体内に入れた上、光蘭帝の種も……奪うのは嫌だ?ふざけるんじゃないよ!この小娘!結局…」


 言葉が尽きた遥媛公主がとうとう地面に膝をつき、頽れた。


「僕の天帝への夢が…あんな小娘に……」



「ま、饅頭に埋め込んで喰った・・・?ク……見事な幕引きだ…ハーハハハハハハ!」



 白龍公主が高らかに笑い声を上げる中で、明琳はおやすみと言うように瞼を閉じ、光蘭帝の平手が明琳に炸裂した。とろんとした瞳を再びあけた明琳は目の前で血だらけになっている皇帝をぼんやりと見上げる。


「わたし、死ぬの………」

「何て馬鹿な事を!……ああ、そなたは馬鹿だ!……何故、そなたは自分を大切にしない!」


「…ってばっか…り…」


「聞こえぬよ!」


「怒ってばっかり!って言ったんですっ……ねえ、飛翔さま」


 明琳はそっとお腹に手を当てた。


「わたしね、…もし、光蘭帝のお母さんが生まれても、ちゃんと、愛せると思いますよ…?でも、身体が動かないんです……でも、これだけは、わかる。幸せ、見つけちゃいました」


 小さな手が光蘭帝の目元をゆっくりと撫ぜた。


「蝶華さんが言ってた…自分のために泣いてくれると救われる…今、わかりました……」


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