第四章:貴妃の役割

第四章ー1:天への手紙

『おばあちゃんへ。

 こんばんは。明琳です。こっちはまだまだ冬ですよ。御空の世界はいっつも暖かいのかな?


 でもね、皇帝さまが、蕗の薹を摘んで、わたしの頭に飾ってくれました。でもわたしといると、皇帝さまはなんででしょうね。すーぐに寝ちゃいます。

 この間も、何だか「やり方が解った」とか言って、わたしをお膝だっこして、顔を摺り寄せて来ました。そして、寝ちゃったのです。一晩中、手を握り合って幸せでした。


 何故か起きた光蘭帝さまは超不機嫌で、わたしの御饅頭でようやく機嫌が直りました。


 やり方ってなんだろ? おばあちゃん、知ってる?


 そうそう、白龍公主さまが少しだけ優しくなった気がするの。おばあちゃんに教わった御饅頭を食べてから。そうして、わたしには仙人の血が流れているだなんて言うんですよ? 


 ねえおばあちゃん、何か知ってました?

 

 蝶華さまは相変わらず私を睨んで来るけど、いつか、ちゃんとお話しできるだろうと、希望は捨てません。遥媛公主さまが護ってくれるので、明琳は平気です。

 華羊妃って呼ばれるのも、慣れてきました。光蘭帝さまがつけてくれた名前だから。頑張って、返事するようにしています。


 ねえ、おばあちゃん。


わたしにあんなに一生懸命御饅頭を作らせたのはどうして? それからそれから、おばあちゃん宮殿に行きたがったよね?

 

 聞きたいことがいっぱいあるの。


 皇帝さまが遠くに行っちゃう前に。


 おばあちゃん……何か知っていたの?』




 届くはずのない天への手紙を丁寧に折って、そう言えばと文箱がないのに気が付いた。これから後宮でおばあちゃんに手紙を書いて行くとしたら、きちんとした箱がないと駄目だ。ちょっと拘りたい。星翅が持ち歩く黒塗りなんかではなく、少し煌びやかな。


 ―――――蝶華さまお持ちかな?


 ふと思い立って、衣装の蔓箱に突っ込んであった後宮衣装を引っ張り出した。すこし焦げているが、着方次第で、隠れそうだ。天日の下に引っ張り出して、少し湿気を抜いている間に、降ろしていた髪をくるくると捻り、用意された簪で留めて見た。合わせをきちんと揃えるのに手間取りはしたが、鏡の中には可愛らしい貴妃がいたのだった。後宮姿も少しはマシになってきたみたいだと鏡を見て微笑むと、部屋を後にした。が、明琳はすぐに机に置いてあった包みを取りに戻ってきた。


「手土産、手土産♪」


 昨晩作った饅頭だ。そう言えば、蝶華にあげたことはなかった。もしもこの饅頭が特別で、何かを変えるのなら、蝶華も何か、悩みが晴れるかも知れない。


 倉庫の鼠は怖かった。けれど何か聞いてあげなきゃいけない気がする。きっと分かり合える。哀しい事なんて考えたくない。だって、光蘭帝さまだって明るくなったのだから。


 しかし。


(いつもながら、デカすぎる……どうしよ。…)


 むぎゅ、と胸に押しこめて、ちょうどいい大きさになった胸に満足して、足を勧めた…ところで、廊下の反対側から文箱片手と、何やら大きな箱を掲げた皇帝の書記、星翅太子が歩いてくるのが見えた。


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