第四話:皇帝の暗殺疑惑?!
麗しい瞳が優しく細められる前で明琳は(嘘でしょ…)と驚嘆したが、それどころでないことに気がついた。
皇帝と言えば、この紅鷹国の王様で、たくさんのお后様を抱える立場。あきれたコトに、この後宮―――――
紅鷹承后殿の中の女性はすべて皇帝のために集められたと言う。驚く明琳の肩で皇帝は瞼を降ろしてしまい、それは一気に重くなり、小羊の上に影が過ぎった。
「きゃあああ」
悲鳴と同時にずしゃっと雪に埋もれてしまった。湿った睫が雪の中で僅かに弛緩している。明琳も一緒にしりもちをついてしまった。冷たい。おしりを上げたくても、皇帝は膝に伸びて腕を絡めて動かない。小柄な自分が倍近くある身長を動かすのは無理だった。
しかも髪が長く、触手のように腕に絡んで仕舞っている。
「え、えいっ……ど、どうしよう……御髪が…こ、皇帝さま、風邪引いちゃいますよ~?」
(駄目だ、起きる気配もない)
足がしびれてきたところで、朗らかな笑い声と共に、妃賓たちが通りかかった。そのうちの一人が庭に眼をやり、奇声を上げて見せた。
「誰か!皇帝さまが!お倒れ遊ばせましたわ!」
「あ、あの…………」
「何を騒いでいるの?…おまえ…はしたなくてよ。貴妃としての行動を…」
「あ、蝶華妃さま」
綺麗に染まった桃色の髪は緩やかに、丁寧に結われ、華やかに散らした髪は蝶のように優雅で艶やか。さらにピンクで染料しているのも美しく、可憐に見せている。
「まあ、小汚い羊。皇帝さまったら、どこから…―――――ん?」
「蝶華妃さま!あ、あれを…」
置き晒された小さな籠から饅頭が転がり出ているのを一人が見つけた。貴妃の一人がそれを拾い、わなわなと肩を震わせている。
「あ、助かりました……あの…」
どうしたのだろう?と首を傾げた前で、高らかに麗しき貴妃はこう叫んだ。
「白龍公主芙君さま!…我らが光蘭帝さまが! 暗殺ですわ!」
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