第五話:眠りに堕ちた支配者
暗殺? 違う。皇帝さまは勝手にお眠りに……。
呆気に取られる明琳の前に、一人の青年が姿を現した。黒い髪はまるで悪魔。その悪魔のような容貌を晒して、白龍公主芙君は気だるげな口調でも、しっかりと命令を下した。
「皇帝毒殺疑義により、この羊を捕獲せよ!」
―――――毒殺疑義? どく?
衛兵が自分を囲み始める。そこで、明琳はようやく立場を理解した。自分が殺したと思われている。とんだ勘違いだと慌てて食いかかるように言った。
皇帝は饅頭を口にして、倒れた。だが、そんな毒なんて入れていない。確かに嫌々で作ったけれど、きちんと味見もしたし、できる限りの丁寧さを込めたはずだ。
「誤解です! わ、わたしは毒なんか入れていません…っ………」
「ならばなぜ、光蘭帝は倒れた? 見よ、顔が蒼白だ」
「嘘をお言いでないよ!…………白龍公主さま、何としてもこの小羊を処刑に!」
「ああ、引き裂いて、今夜の晩飯にしてやりたいくらいだ。遥媛に見つかる前に四肢をへし折って郊外に捨てて来いと言いたいが、それには皇帝の署名が要る。小柄な女だ。処刑人は一人で良かろう。俺は血なまぐさいのは嫌いだ。光蘭帝は俺が連れて行こう」
涙目になった蝶の貴妃は きっ!と明琳を睨み、小柄な芭蕉扇を振りかざした。
「何をしているの! この小羊をさっさと連れておいき!」
「蝶華、光蘭帝は気絶しているだけだ。案ずるな」
「それでも飽き足りませんわ…っ」
怒りを露わにした蝶華妃は再度声を張り上げた。
「反省する間もないですわよ…お達者で!」
―――――誤解ですぅ!助けて!皇帝さまあっ…!
でかい武官三人に囲まれた向こうで、上がった小羊の泣き声。
(違う)と否定したくても、この身体のだるさが邪魔をする。だるくて、熱いから、雪に埋もれていると気分が良かった。だが、そんな事を悠長にしている場合ではないと光蘭帝は薄目を開けるとやっとの思いで言った。
「
見ていた武官の一人が眉を寄せ、呟いた。
「……また遊戯が始まるな? 皇帝?」
白龍公主芙君と対なる仙人を呼ぶことは、あの狂った後宮遊戯の開始を意味する。
(だが、そろそろ頃合いだろう。私はもう、この世界になど居たくはない。文字通りの犠牲の小羊よ。だが、なぜ瞼が勝手に降りるのだ)
そして、皇帝光蘭帝は訳もわからず、今度こそ瞼を降ろし、夢も見ぬ眠りに落ち行くのだった。
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