ありふれた話と思いつき

涼詩路サトル

ペットボトル

今日はひどく暑い。ホール内はクーラーが効いているとはいえ、窓から差し込む陽の光だけで喉が乾く。


「げ、アンタのペットボトルじゃない」


ちらと見ると、横の席に座る彼女は俺が飲んで半分くらいになったアクエリと、おそらく開けていないであろう量のアクエリとを萎えた顔で見比べていた。


「悪い、間違って置いちまった」


そういえば、トイレに行く前に特に確認せず放った気がする。


「最低。気持ち悪い」


「そこまで言わんでも....」


げんなりしながらペットボトルに伸ばした手は、空をきった。


「なによ」


彼女は抱きかかえながら半眼する。まるでドングリを持つリスみたく。


「いや、返してもらおうかと」


「アンタ、私のペットボトル使って何する気よ」

「何もしねぇよ.....」


「信用できない。アンタはこっち」


そう言ってもう片方のアクエリを渡してくる。


「…お金」


「いらないわよ」


じゃあ遠慮なく…と、キャップを回すと小気味よいパキパキとした音がしない。


「おい、これ開いて....」


言いながら、飲み口のところには薄い口紅の跡が見えた。が、

「もうすぐ講義始まるわよ」


聞こえていないのか、彼女は既に黒板に目を向けていた。

これ役得では?と指摘を諦めて講義に臨むことに。

講義が終わり、彼女の机上が目に付いた。置かれたペットボトルは半分くらいのままだった。

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