ずっと

あなん

第1話

あなたを憎んだまま生きるのは嫌なの。あなたを愛したまま生きていたい。ただそれだけなの。貴方に私を愛したまま生きていてほしい。貴方に私を憎んだまま生きてて欲しくない。そう願うのは駄目ですか。私のエゴですか。そう願ったから私は今貴方に鎖をつけられているの?この薄暗くツンとしたホルマリンのような匂いのする部屋に居るのですか。でも、どこかから貴方の香りがするの。優しい貴方の香りが。

「あぁ、またした。」

私は壁に寄りかかる。さらに香りが強まる。

「ねぇ......これからはずっと一緒だよね.....?」

だが、返事はない。貴方は薄暗い天井を見つめたまま動かない。

「そうだよね。ずっと、ずっと一緒だよね。ごめんね、変なこと聞いて。」

私は壁を撫でる。

ぺちゃ.....。

変な音がした。

「?」

暗くてよく見えないが赤黒いなにかが私の手に着いていた。香りを嗅ぐ。貴方の香りがした。私がずっと嗅いでいた香りだった。私はその「なにか」を舐めてみる。貴方の味だった。少し苦いが、優しく包んでくれるような甘さがある。

「貴方そのものね。」

私は微笑む。貴方は何も言わない。

「ねぇ.....どうしたの?」

貴方がいるはずの場所を見つめるがいない。あるのは無残にも引き裂かれた身体。誰なのかわからない。赤黒い液体がこの部屋全体を包んでいる。優しくもどこか苦しい香りが鼻に付く。自分の手元と引き裂かれた身体を交互に見つめる。全て思い出したように彼女は笑った。

「あっ.....そっかぁ。私がやっちゃったんだ。」

鎖なんか付いていないし目も見えるし貴方はもう、いない。私は笑った。訳もわからずに笑った。自分でもあれからどれだけ経ったかわからない。涙は出ず、只々笑いが込み上げてくる。私は引き裂かれた身体を抱きしめ、口ずけをした。

「これからもずっと貴方と一緒だね。」

部屋に流れた赤黒い彼の血は彼女を包み、彼女を快楽へと誘う。彼の手には鎖と鍵とナイフ。彼女の手には赤黒く染まったナイフ。どちらにせよ起こっていたことかもしれない。彼らは幸せそうに眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずっと あなん @Anan08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る