終章
俺はお婆さんにトラクターで途中まで送ってもらい、そこから電車で家路を辿った。
窓の桟にはお婆さんからお裾分けでもらった、花森屋の玉羊羹が置いてある。
「何か不思議な旅だったな……」
俺は思い返しながら呟く。
愛する妻の元へ帰るため、何十年も最後の客が来るのを待ち続けた駅員に、夫の面影を探して何十年も無人駅に通ったお婆さん。
切符を拾わなければ、決して関わることのなかった縁だろう。
ふと、駅員の言葉がよみがえる。
『切符はね、ただの紙切れじゃないんです。その人を新しい土地、新しい人と巡り合わせるある意味繋ぎ手のようなものです』
「繋ぎ手……か」
俺はポケットから、あの拾った切符を取り出す。
しかし切符は手にした途端、ふわりとその形を崩し始める。
「あ!」
何とか掴もうと握り締めるも、手を開いた時には、切符は跡形もなく消えていた。
「なくなっちゃった……」
幻の電車がラストランを無事にやりきったことで、切符もその役目を終えたのだろう。
今まで肌身離さず持っていたせいか、少し寂しく思う自分がいた。
「ありがとう。案内してくれて」
なくなってしまった切符にそっとお礼を言う。
『次は――駅、――駅』
「あっ、ヤバい降りなきゃ!」
車内アナウンスを聞いた俺は、慌てて鞄を担ぐと席を立つ。
窓の桟に置いていた玉羊羹も忘れずに。
「40年前の玉羊羹か。一体どんな味なんだろうな」
不思議な旅のお土産は、俺の問いかけに微笑むかのように、中でころんと転がった。
――Fin――
行き先無き切符 有里 ソルト @saltyflower
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