第25話 起きる前に軽い外出。

ああ、素直に言ってやろう。よく寝れなかった。

理由?それは明白だ。隣で寝ている……あいつが無事なのか、気になるからだ。

もし俺が寝ている最中に痛み出したら? もしくは、声を出せずに苦しみ始めたら?……そう思って、気が付いたら……もう朝だ。少なくとも俺がたまに目覚めて、確認した感じでは……特に痛む様子もなく、いたって普通だ。……まぁ、よかった。


今日はまた忙しい日になるのは確定だろうな。先ずアザルの様子を確認するのと、あとでやってくるであろうメンテラへどう説明するか、そして……メカニックもやってくることだろう。昨日のあれが、社交辞令で無ければの話だが。



……そういえばあいつは、コーヒーを飲むんだっけか。……うん、飲んだ所はまだ見たこと無いな。


いつも通りと言う訳ではないが、何か彼女が飲むための物を準備することにする。

それに……飲み物以外にも、何か食い物を与えるのも良いと思ってしまう。昨日はそのまま気絶するように寝たのだから、幾らあいつでも……腹くらいは減っているだろうしな。


「……そう思っても、俺は料理なんてしないからなー……」

ああ、相当面倒だが……何か買いに行かないといけないな、これは。



相変わらずの街だ。交易目的のためだけに存在するような場所だから、目新しい物なんて遠い街からやってくるような異種族だけだ。

地面は馬車が通りやすいようにしっかりと整備されてはいるが、塗装が……まぁ、ひどい事だ。汚れを落とすのが面倒なのか、それとも単にコスト的な問題なのか……茶色く塗装されていては、はっきり言って汚い。それだけならいいのだが、建物もまた……センスが無い。どれも同じような形をしては、どれも同じ色で塗装されている。一部の商人の拠点や、倉庫なんかはまた別の色な事も、まるでこの街が交易の為だけに存在すると感じる。……いや、実際そうだろうな。


少なくとも、わざわざここに好んで住みに来るような輩はいるはずが無い。



市場の方は……本当に変わらない光景だ。色んな地方からやってきた人たちが、安く食材や物資を買いに来ては、また別の所にある食堂などで安く済ませては帰っていく。生き方としては正しいだろうな。

なんだかんだでこの街は住みやすい、と言ったら嘘ではない。騎士団の本拠地も同じ場所にあり、とにかく物価が安い。そして俺みたいな変な仕事を主にするような奴にとって、人の流れが多いこの街なんかはまぁ最高だな。


人ごみの中を歩くのは、余り好きじゃない。特に……目当ての物を買っては、早く帰りたい時にとっては最悪だ。


目当ての店は……確か、すぐ近くにあったはずだ。

あいつには高級なパンだとか、肉なんか与えなくていいのが救いだ。あとで文句とか言ってくるが……なんだかんだで食ってくれるような奴だ。


そんなことを考えていれば、相変わらず誰も買おうとせずに閑古鳥が鳴いてるような店に辿り着く。ここは相当安くて好きなのだが……まぁ、見れば分かるような所だ。


「今日も客は来てないんか?」

「お前以外は、まだ一人も」


毎回馬鹿にするように言っても、この店主には何の意味が無い。

一目見るだけですぐにわかってしまう、危ない感じがするような店だ。その証拠に……騎士団の連中も、たまに調査しにこの店にやってくることがあるくらいだ。


別に危ない感じがするだけで、売っているものは真っ当な物だ。とにかく安く、それにしては……品質がとにかく高い。相変わらず、どうやってこんな安く売ってくれるのかが謎だが。


「いつものって言いたいが……今日はちょっと豪華な物を頼む」

「豪華な物って……なんかいい事あったんかい?」

「逆だ、逆。いい事なんてあったら、お前の店なんかじゃ買わないっての」


ある程度慣れた関係だから、発言もあまり気にしなくてもいいのが救いだ。


「はいよ、レウィスさんよ? どうせお前と契約した、あの龍のためなんだろ?」

干した謎肉に、出来立ての様に見える一斤のパン。……うん、まぁちょっと豪華な物だな。いつもパンだけを買うってのを考えれば……相当豪華だ、これは。


「ま、あんまり深く探らないでくれ。それより少し急ぎだから」

あいつが起きる前に早く家に帰らないといけないな、これで。心理的に今のあいつは……多分、不安定な状態でもあるとは思う。そんな状態で一人にさせるのは中々酷な物だ。

ついでに店主には少し多めの金を渡す。釣りはいらんから、と一言だけ添えてから早歩きで帰るだけだ。


……起きてなければ、最高だ。

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不幸を招く龍はただ暮らしたい。 ぺあが @ph_neet

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