第24話 やっと一息。

「しっかし……大変だったな」


まるで一仕事終えた気分だ、それくらいアザルに刺さっていた破片を抜くのは、きついもんだ。

……別にきついと言っても、精神的にきつい方だ。


「お疲れ様、もうこんなこと、絶対したくないけどね……」

「ああ、同感だ」


メカニックの奴も相当疲れているのが目に見える。まぁそれも仕方ない、アザルをおんぶってはここまで連れてきたんだ。……寧ろよく体力が持った、としか言えない。

小柄だが、はっきり言って……アザルは思い。多分だがあの翼のせいもあるが、見た目にそぐわずに重さがある。


それにしても、あの破片は本当にきつかった。

別にあれを抜くのに手間がかかると言う訳でも無い、ただ……可能なら思い出したくない物だ。


「それにしても、魔力が不安定ねぇ」

「僕たちじゃ絶対分からないような感覚ではあるよね」


メカニックの言う通りだ。俺たち……少なくとも、俺たち二人はアザルみたいに極端に魔力に依存すると言う訳ではない。寧ろ魔力が弱いか、メカニックの様にほぼ魔力が無いなんてこともある。だから不安定になったとしても、せいぜい小さい違和感を感じる程度だ。


あいつにとっての魔力は、守りを固める盾でもあり、矛でもあるからな。


「一応聞いておきたいんだけどさ。アザルちゃんがああやって傷つく姿って、見たことある?」


あいつが傷つく姿ねぇ。……言われてみれば、一度も無い。

いつも攻撃されても、何かで弾いているか、すぐに無効化にする。……本当に、文字通り最強の使い魔だからな、あいつは。


「一度も無いな。少なくとも、こうやって過ごしてきた間は……一度も無かった」

「って事は……昔にこうやって傷ついたことがあるか……それか、痛みに耐性がすごくある、としか思えないよ。あんな破片とか、大きい傷があっても、一度も泣かないくらいだし……」


言われてみればそうだ。今魔力が不安定なあいつの身体なんて、所詮人間と同じくらいだ。ちょっとしたことで傷がつくし、出血だって簡単にしてしまう。その証拠が、あの刺さっていた鉄の破片だ。

前のアザルなら、剣で刺されようが何の意味を成さない。寧ろ刃が折れるくらいには弾き返せる。


「医者、本当に呼ばなくても大丈夫?」

「やめとけ。変に医者を呼んだら面倒な事にしかならない。あいつには……まぁ、残念だけど、少し我慢してもらうしか方法が無い」

「君が言うなら、仕方ないけど。……理由は?」


ああ、面倒だ。理由を言わないといけないのは。


「一応だが、あいつは''龍''だ。……それだけで厄介な事なのは、分かるだろ?」

「よく翼を見せるように歩いているけど、あ……あれは平気なの?」

「誰も龍族とは思ってないだろ、そもそも」


どこの世界に四つの翼を持ってる龍がいるんだが。俺が知る限りじゃ、アザル以外は存在しない。

だから……まぁ、龍以外の……うん、別の種族かなんかだとは思われている筈だ。



……それにしても、あの破片を抜いてからはぐっすり寝てるな。それくらい違和感を感じていたのだろうか。


「何はともあれ、アザルちゃんが無事でよかったー……路地で見たとき、さすがの僕も驚いたし」


突然血まみれ……ではないが、傷だらけの上に破片が刺さった少女なんて見かけた日には、心霊現象だと思ってしまうかも知れないな。


「それにしても、アザルの魔術が無効化されるってなると……はぁー、相当面倒な事になるとしか思えん。……銃の方は、どこまで進んでる?」

「半分くらいはもう終わってるよ?もう聞いてきたってことは……かなり急ぎ?」

「なるかもしれないな。出来るだけあいつに負担をかけないで……まぁ、俺がなんとかしないといけないって事だ」


アザルの魔術が通じない以上、必要になるのは……俺が昔に使っていた小道具達だ。こいつらなら魔力を対策されようが、問題なく使用できる。

それに、またアザルの魔力を借りて、魔術を使うとなれば……またあいつに問題がおこるかも知れない。


……この考えを言ったら、多分俺は怒られるだろうな、あいつに。


まぁ、今は問題ない。

あいつも何とか回復が出来ていることだ。それだけで良い。メンテラとかいう奴の依頼は……残念だが、少し後回しだ。


「じゃ、僕は帰るよ。……一応、明日また来るからね?」

「ああ、また明日、な」


用事を終えたのか、メカニックも家に帰るようだ。

……まぁ、それも仕方ないか。少し忙しくて、外を見ることもできなかったが……今はもう夜。あいつも眠いだろうし……俺もすることが無い。

アザルは……ぐっすり眠ってるのがよかった。


さぁ、明日どうなってるのか、気になるだけだ。

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