タイプ・C
悦太郎
C型
新学期、僕の進学したこの高校は、どうやら自己紹介タイムなんてものを律儀に設けているらしい。僕はこの時間がなんとも嫌いだった。名前なんて名簿みればわかるし、今日知り合ったばかりのやつの好きな食べ物なんて心底どうでもいい。会話する良い機会だなんていうけれどこんなチンケな自己アピール如きで会話に繋げられるような強者なんてそうそういないとおもう。むしろ、第一印象をこんな短時間で相手に植え付けてしまうのは惜しい気さえしてしまう。
ここまでつらつらと文句を綴りあげたが、僕が一番億劫におもっていたのは他の何者でもない、“血液型”の紹介だった。自己紹介文のテンプレートに堂々と鎮座し続けるコイツほど、意味のない紹介はないと思う。ときに血液型で差別をする、いわゆるブラハラなんてことをする輩もいるようだし、たった四種類の固定観念がその人自体の区別の要因になるなんてこれ以上可笑しな話はないと思う。○型です、と言うと「たしかに!それっぽい!」なんて頭の悪そうな事を言われるのも気分が悪い。
今日の自己紹介は、出席順に紹介していく形なので、僕の番はまだまださきだった。皆の紹介をぼーっと聞き流しているけれど、このクラスはA型が一番多いらしい。もともと日本にはA型が一番多いと聞いたことはあるし、逆にO型は一番少なく感じられた。AB型も同じくらいだろう。皆揃って名前の後に○型です、なんて答えるものかだからまるでロボットだな、と心のなかで笑いながらも、自分の順番がまわってくるのをまった。
前のやつがすわり拍手がおこる。僕は名前を名乗ると、次に血液型、好きな食べ物、好きな教科を続けた。
「~……です。血液型はC型です。好きな食べ物は、ぁ~、うどんです。中学のころは数学が好きでした。これからよろしくお願いします」
拍手がおこり、席にすわる。
とりあえず大きな問題なく自己紹介でき、僕はホッとした。
全員が紹介し終えたところで、今日の授業も終わった。帰る準備をしていると、隣の席の男子が話しかけてきた。たしかこいつも、C型のやつだったきがする。
「ねぇ、お前もC型だったよな?俺もなんだけど、お前、どっちだった?」
C型は、O型やAB型よりも少しレアなケースだった。だから彼も、自分と一緒の血液型の僕に話しかけてきたのだろうか。だとしたら、彼は冒頭にいった通り、かなりの強者だ。
「あぁ、僕んとこは母さんだったよ」
「まじ?!俺も母ちゃんだった!なんだ、その、お前んとこの親父は泣いた?俺の家の父ちゃん、革命期の日にウォンウォン泣いててよぉ。なにがそんなに悲しいんだか」
「あ~…、
僕がなんでもなさそうにそう言う。
「お前すっげぇーな?!
「きっともうすぐ帰ってくると思うよ。C型になった人から、順次自宅に帰宅って施設のホームページに書いてあったから。日本中にB型ってやまほどいただろ、時間がかかるんだよきっと」
「そっか~」
隣の席の男子は、そう生返事をした。
そっちから聞いてきた癖に、そんなに関心が無さそうな彼の返事が癪に障ったが、まあそれは置いておいて。
彼の父親が気を病んでしまうのも仕方がないと僕は思う。
B型は自分勝手だ、マイペースだと言い始めたのはどこのどいつであろうか。おかげて、母親か父親がB型であった僕たちのようなこどもは、無理矢理にワクチンをうたれてC型にされてしまった。そんなのはまだ序の口で、成人しているB型は、強制的に施設に入れられる始末。彼のいったとおり、いつ帰ってくるかは未明である。
C型は、人工的な部分があるため、ほかの血液型より優れているらしい。と、いまでもまことしやかに囁かれている。どこかのメディアがそうたらしこんだのがきっかけだろう。それもただの噂にすぎない、根も葉もない信憑性に掛けた話である。本当にうんざりだった。そういう馬鹿げた
タイプ・C 悦太郎 @860km
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