第11話
7月も終わりを迎えようとしており、降水量が少なかった梅雨も、ようやく明けた頃、小林管理官の勾留延長要請により、20日間の延長は認められたものの、捜査本部は縮小された。捜査員が半分にまで減らされた捜査本部に
捜査員達は、栗林の事件前後の行動を洗うべく、聞き込みに動き出した。しかし、それに納得をしていない者がいた。
「管理官!これじゃあ勾留延長した意味がないですよ。状況証拠も物証も、栗さんが真犯人だって示してるじゃないですか?これは栗さんが "自分が真犯人だ" って、我々に思わす為の何らかの意図で、
「分かってる、分かってるよ、森本警部補。捜査本部が縮小された以上、私は捜査員にどうこうしろとは言うつもりはない。あくまでも上層部の方針がそうだと言っているだけだ。栗林の事を何よりも知っている君達が、一番に真相を突き止められると私は思っている。自分の刑事としての信念に基づいて捜査してくれ」小林は自身の後ろめたさを
「分かりました。
「ちょっ…待って下さいよ、森さん!」香川も森本を追うように部屋を出た。
「頼むぜ、森本警部補…」小林は
例により二人は捜査資料室に閉じ
当初は複数人で進められるはずだった作業も、上層部の身勝手な決断により、森本と香川、二人だけで行わなければならない。午前中から始めた作業は、いつの間にか深夜にまで
「あー、分からん!香川、ちょっと一服に行くか?」森本が頭をガシガシ
「なぁ、香川。七年前の栗さんが辞めた頃の事、覚えてるか?」森本は使い捨てライターでセブンスターに火を着けた。
「覚えてるって、辞めた理由ですか?あれは確か…桜が咲く、ほんの少し前だから、三月の末だったかな?『俺はつくづく刑事と言う仕事の
「刑事の業ねぇ…んー、やはりその辺かな?香川、こうなったら、栗さんが辞めた頃の七年から八年前くらいの事件に
「栗さんが辞めた頃って言ったって、今までも散々、調べて来たじゃないですか?これ以上、何を調べるって言うんです?」香川も森本を真似るように煙を吐いた。
「んー、なんて言うんだろう…不可解な事件だとか、例えばだぜ、未解決の事件とか、普通は一課では取り扱わないような件とか、何でも良い。
「手にしたモン全部って、ちょっと森さん、待って下さいよ」香川は
果たして栗林は本当に殺人を犯していないのだろうか?もしそうだとして、真犯人を知っているとしたら、その誰かを
そうして一週間後、二人の刑事の執念により、"これ!" と思える案件を三件ピックアップした。それは二人が容疑者たる栗林と言う人物を知っているからに他ならなかった。
一つ目は8年前の12月18日、以前から捜査していた "連続変死体事件" の容疑者、
「あの時の栗さんも
二つ目は同じく8年前の9月12日、銀行強盗立て
SAT隊の
この事件は警察側の、犯人らが拳銃を所持していた事を見逃したのが原因と思われた。
「栗さんはこの事件の犠牲者、野田 圭一郎さんの葬儀にも参列しました。その奥さんの友利恵さんに、その後も接触していた可能性はあります」香川刑事の一言でこの事件をピックアップした。
三つ目は7年前の2月7日、杉野中央署管内で起きた "集団殺人放火事件" の容疑者、
その後の栗林らの捜査により、水上の犯行動機が判明した。それは水上の母親、水上
水上はこの時を境に殺害を決意したと見られ、その後に
「栗さんの性格からして、この事件が一番にしっくり来ますね。この後ですよ、栗さんが刑事の業がどうとか言い出したのは」
「うむ、とにかく順番に当たって行こう。今日はもう遅いし、これからまた例の店にでも行くか?」間もなく日付も変わるだろう時間、二人は居酒屋へと向かった。
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