第8話

森本、香川、両刑事は証拠物件として提出された防犯カメラを映し出したコンビニエンスストアに来ていた。そこから殺害現場と思われる河川沿いまでは、約900mの距離があった。二人の刑事は、現場までの道程みちのりを、他に防犯カメラがないか、くまなく探した。

「おい、香川、あれはどうだ」コンビニエンスストアから行く事800m弱、森本刑事は電信柱に取り付けられた防犯カメラと思われる物を指さして言った。

「えーっと、ちょっと待って下さいよ」香川は、タブレット端末を操作して、マップを表示させた。そして現在位置をタップして、"防犯カメラ 管理" と打ち込んだ。

「どうやら、この通りは分かりにくいですが、一応は商店街になってるみたいですね。その商店街の管理組合の事務所が、次の辻を右に入った所にあるようです。そこに行けば、防犯カメラの映像も見れるかも知れません」両刑事は、目的の場所に早足で向かった。組合事務所には誰もおらず、"ご用の方はこちらまで" と言う貼り紙と共に、電話番号が記載されていた。香川は記載された番号に電話をかけた。警察からと言う事で、組合長と名乗る、住田 雄一と言う男が急いでやって来た。

「三丁目二番の防犯カメラですね。ちょっと待って下さい」住田は組合事務所に設置されたパソコンを操作し出した。

「えーっと、7月22日の21:00以降の映像ですね?」住田は再びパソコンを操作して、目的の画像を検索した。

「あー、ここからですね。良かったらどうぞ」パソコンのモニターを見るように勧められた両刑事は、モニターを凝視ぎょうしした。

「すみません、再生速度を速めたりは出来ますか?」森本の言葉を受け、住田は 》キーで早送りを《 キーで巻き戻しを、■キーで一時停止を出来る事を説明した。二人は早送りをしながらモニターを見つめて、人が通れば一時停止をし、人物を確かめ、また早送りをすると言う作業を繰り返した。

「おい、ストップだ」森本の掛け声で香川がストップキーを押したが、行き過ぎてしまい、少し巻き戻すと、そこには紛れもなく、栗林の姿が映し出されていた。

「これって、間違いないよな?」少し老眼がかかって来た森本は、モニターから顔を遠ざけてモニターを見た。

「はい、間違いありません。栗さんですね。もう少し戻しましょう」香川は映像を巻き戻したが、栗林の先を行く人物はいなかった。

「どう言う事だ?栗さんよりも前に水野が歩いているはずなんだが」香川は森本の言葉を受け、栗林が通った前から30秒あまり巻き戻して、>キーを押す度に、1秒づつコマ送り出来る機能を使って、じっくりと見ていった。

「森さん、これ、ここの影、もしかしたら水野じゃないですか?」香川は指し示した画像には、下の方にわずかに映り込む人影とおぼしきものだった。

「この防犯カメラは先っきのコンビニエンスストアと同じ、道の南側に設置されているから、コンビニエンスストアから変わらずに道の南側を歩いてる事になるな」香川は引き続きコマ送りしたが、その人影は、2コマで消えた。

「これは?何か早過ぎませんか?たった2秒で見えなくなるなんて」防犯カメラが映し出している範囲は分からないが、確かに2秒は早過ぎる。

「香川、この映像をスマホでってくれ。それから現場に行くぞ」森本は住田にぐに戻るからと言い残し、再び現場へと向かった。森本は香川を電信柱の下に立たせ、影が映り込んだ場所を特定していった。

「んー、大体10m強と言ったところか?」影が映り込んだ端から端までを計測したところの距離が分かった事で、管理事務所に戻った二人は、影が動く速度を推定した。

「おおよそではあるが、50mを10秒弱で通り過ぎた事になる。走り始めた初速を差し引いたら、数m手前から中距離走を走るくらいのスピードで駆け抜けた事になるな。どう思う?香川」香川は右手であごれながら考え込むと、映像をコマ送りしていった。

「やはり不自然ですね。この後、栗さんが通った映像が映し出されているのは、6コマ…つまり6秒ほどかかっています。と言う事はですよ、時速6kmくらい、大体早足程度のスピードです。尾行してるのなら、30mも距離を開けた対象者が駆け足をし出したら、尾行人だって駆け出しますよ」香川が自分なりの考察を話すと、森本は画像の栗林が消えた瞬間の所で画像を止めた。

「見ろ、最後の所だが、栗さんの足がかすかだが伸びて見えるだろう?つまりこの時点で、栗さんも駆け出しているんだよ」殺害現場まで、残り100mよりも手前から走り出した被害者と、100m手前になって、やっとの事で駆け出した容疑者。これが意味するところは何なのであろうか。この先は商店街の切れ目になっている為、防犯カメラはもうない。二人は最後に映し出された映像が意味するところに、事件の真相が隠されているとの思いを強めた。

「半落ち状態である以上、取り調べで真相にせまるのは無理でしょうね。森さん、どうします?」香川の問いかけは、森本にとっても難題以外の何物でもない。森本はある覚悟を決めて、この事件に対峙たいじしようとしていた。

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