第7話
大した成果を得られぬまま、関西出張から戻った森本 稔、香川 信之、両刑事の耳に、新たなる新情報が飛び込み、二人は衝撃を受けた。
被害者の水野 道弘の司法解剖の結果、致命傷となった刺し傷に、不自然な点が見られたと言うのだ。鑑識の当時の見立てでは、凶器となった包丁で一突きに刺されたと思われていたが、被害者の胸に、一度刺した後、一旦包丁を抜いて、刺し傷に合わせるように、もう一度丁寧に刺し直した跡が見られたと言うのだ。容疑者の栗林 源一郎は、何故そのような行動をとったのか?その事を問い詰められた栗林は、以下のように語ったと言う。
『一度は刺した後、何の考えもなく、包丁を抜いてしまいました。かつて刑事をやっていた知識から、そのままでは出血多量で死んでしまうと思い、傷口を塞ぐ意味でも、もう一度同じ場所に刺したのです。発見が早ければ、
「どう思います?森さん」杉野中央署の通用口横に設置されている喫煙所で、香川刑事は缶コーヒーのプルトップを
「んー、恐らく栗さんは鑑識の能力を知った上で、問い詰められた事を想定して答えを用意してたんじゃないかな?普通なら、唐突にそんな事を問い詰められたら、もっと言い訳がましい事を言うと思うんだよ。それに何より、動機の部分がどうにも俺には引っかかって仕方ないんだ。言ってみれば
「ですよね。僕だって今まで見て来た殺人犯は、一様にして被害者に対する感情を
「何だ、お前、本当に撮ってたのか?花なんて関係ないだろ?」森本は後輩刑事の行動に、
「イヤ、なんて言うか、こんな
「それを言うんだったら、元刑事なのに、殺人を
「ちょ…待って下さいよ、森さん」香川も
森本は捜査一課の自分のデスクに行き、ノートパソコンを開いて何やら操作し出した。
「香川、これだ」森本がパソコンの画面に映し出させたのは、証拠物件の一つである、事件当夜のコンビニエンスストアの防犯カメラの映像だった。
「これが何かあるんですか?これは水野を栗さんが尾行してたって言う証拠映像じゃないですか?」香川の言う通り、栗林の犯行を裏付ける映像以外の何物でもない。しかし、森本はこの映像にこそ、栗林が
「見てろよ、今、水野が通り過ぎただろ?」そう言うと、森本は腕時計のストップウォッチ機能をスタートさせた。そして、次に栗林が現れた所で、ストップウォッチと映像を止めた。
「見ろ!19" 82' だ。これ、どう思う」森本の問いかけに香川は森本の言わんとする所が分からなかった。
「19秒が何だって言うんです?」香川の言葉に、森本はニヤリと笑った。
「良いか?香川、このおおよそ20秒と言うのは、歩く速度が時速4kmとして、水野との距離は大体、20m以上になる。尾行するのに20mはおかしくないか?」森本の言葉に、香川は刑事として、やっと言わんとする所が分かった。
「そ…そうですよ!尾行するんだったら、理想は10m〜15m!これは僕が栗さんに教わった事です。つまり、これは水野を尾行してるんじゃないって事ですよね」興奮気味に話す香川を
「いいか、それだけじゃないんだ。そんなの、ただ
「見てろよ、栗さん、真っ直ぐに前を見てるんじゃなく、周りをキョロキョロしながら歩いてるだろ?普通、尾行してるんだったら、対象人物から目を離さないのが鉄則だ。これは何も我々警察官に限った事じゃない。誰だって、尾行するってなったら、真っ直ぐに対象者を見ながら歩くはずだ」森本の言葉に、香川は右の
「それにこれも栗さんから教わった事ですが、尾行する時は、対象者と同じルートを歩く。でもこの映像を見れば、水野が映像手前を歩いているのに対して、栗さんは中央よりも、やや奥側を歩いている。まるで誰かが現れるのを
「そう、もしかしたら、この夜、栗さんは誰かが水野を殺害するのが分かっていて、それを止める為に、水野の後をつけていたんじゃないだろうか?」二人は根拠のない仮説を立証すべく、証拠映像を映し出したコンビニエンスストアから殺害現場までを洗うべく、捜査に
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