第4話

「あ…あの、そ…捜査一課の…その、森本さんはいらっしゃいますか?」クリーニング店の娘、木村 久美からの電話を受け、森本は賭けに勝った事を確信した。森本は小さくども気味ぎみの久美の話しを何度か聞き返しつつも受話器に集中してメモを取った。久美の話しにると、今晩の九時〜十一時の間、母親が地域の寄り合いで家をけるので、その間に話しをしたいと言う事だった。話しの内容は親にも誰にも言っておらず、今後も話すつもりはないそうだ。その為のニ時間だった。


香川を引き連れ川田駅を降りた森本は、真っ直ぐに木村宅を訪れた。家に着くとニ人はニ階の家族がくつろぐのであろう居間いまに通された。

「私…あの男に…あの男に…ウウッ」久美はしゃべろうとしても嗚咽おえつれて上手うまく話せなかった。

「木村さん、無理はしなくても大丈夫です。ゆっくりで、ゆっくりで良いんで気が落ち着いたら話して下さい」この森本の気遣いある言葉で、久美は落ち着きを取り戻し呼吸を整え深呼吸をした後、お茶を一口含み、再び喋り出した。

「フーッ、スミマセン、私、あの男にレイプされたんです」久美の言葉に森本と香川はお互いの顔を見合わせた。

「今からニ年前の春頃だったと思います。その日は大学のサークルの集まりで帰りが遅くなりました。皆んなにはもう少しいて、帰りにタクシーを乗り合わせて帰ろうと言われたんですが、私は終電に間に合うからと言って、電車で帰ったんです。それが悪かったんですね。あの男は私と同じ電車に乗っていて、帰りに後を着けられました。小走りに帰ろうとしたんですが、ヒールをいていたので上手く走れずに捕まってしまって…」久美はつらい思い出を泣き声混ごえまじりながら、一生懸命に話した。

「木村さん、もう良いです。分かりましたから。スミマセン、辛い事を思い出させてしまって」森本は深々と頭を下げた。

「警察には言おうと思わなかったんですか?」若い香川が口を挟んだ。

「おい、彼女の気持ちを考え…」森本が部下をたしなめ様としたが久美は「良いです」と言って続けた。

「正直、早く忘れたかった。あれからは怖くて外出もままなりません。でも男が死んだと聞いて、私はその殺した人に感謝してます」

森本にも高校生になる娘がいた。それだけに久美の話しは胸をめ付けられた。

「今日は本当にありがとうございました」ニ人して頭を下げると駅に向かって歩き出した。

「栗さんに感謝か…なんか凄い話しでしたね。これで栗さんが殺害した理由が少し見えて来ましたね」部下の"栗さん"の言葉に突っ込む事無く森本も同意した。

「あぁ、あの正義感の強い栗さんの事だ。その辺の事件と関わっているのかも知れない。

しかし、まだ解明しなければならない謎はいくつかある。その第一歩がニ人の接点だ。そこから必ず動機が見えて来るはずさ」森本は歩きながらタバコに火を着けた。

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