お土産を買いに……


 バハル船長はだ。

 街の中でも治安の悪い地域に立つようせつで育った。

 孤児は増えるのに割り当てられる国からのえんじよきんを着服する領主のせいで、援助金は変わらず、バハル船長達は働こうとしたが養護施設育ちの彼らをやとうのを商人達はよしとしなかった。

 バハル船長はそのじんに理不尽で返すことを決めた。

 かいぞくになって商人達からうばう方法をとったのだ。

 それは、もちろんいいことではない。

 だが、そうさせてしまったのは他でもない私達商人だと思った。

 そんな悲しいせんたくをしなくてすむように、私はバハル船長の育った養護施設を買い取った。

 それと同時にがノッガー家の従業員養成所を作ったのである。

 私にも養護施設にも得はあっても損はない。

 だから、安心して海賊団の方達もノッガー家に就職してくれたわけだ。

 バハル船長と養護施設に顔を出そうと約束した日、お土産みやげを買っていこうと店をまわっていたらなぜかバハル船長とジュフア様が口論しているところにそうぐうした。

 そんな二人のそばにはお兄様と王子殿でんもいた。

 なぜ見てるだけなの?

 私はあわてて止めに入った。

 けんなんてやめてほしい。

 バハル船長にいつしよに買い物に行くか聞いたらあいまいな答えが返ってきた。

 女の人を待たせているのだろう。

 私はバハル船長に喧嘩しないようにくぎをさすとその場をはなれながら昔のことを思い出していた。

ひめさまが望むなら、姫様以外愛さないとちかうがどうする?』

 なまめかしくささやかれてこわいと思ったが、お父様づきのしつがバハル船長を取り押さえて助けてくれた。

 この執事、元暗殺者のためしんしゆつぼつなのだ。

『バハル船長、私にはこんやくしやがいますしバハル船長を満足させる技術もありません。ですのでプロのお姉様達にお願いしてください』

『技術は男が実地で教えるもんだろ!』

 バハル船長は執事におなかられてうずくまった。

『おじようさま、コイツを蹴り上げてもよろしいでしょうか?』

『すでに蹴った後じゃ……』

『……本気で蹴り上げてもよろしいでしょうか?』

『だ、よ』

『……そうですか』

 あまり表情を変えない執事の本当に残念そうな顔が今も忘れられない。




 気を取り直して買い物を再開させ、おの店をのぞいているとふいにかたたたかれた。

 かえるとそこにいたのは見たことのない男だった。

「何かご用でしょうか?」

「ノッガーはくしやくのユリアス様でしょうか? よろしければビジネスのお話をしたいのですが?」

 私は首をかしげるふりをして、男の全身をかくにんした。

 船乗りとはちがうヒョロッとした体格に、たよりなさげな表情。そのわりに目だけがギラギラして見えた。

「要点だけでもお聞かせいただけますか?」

「お見せしたい宝石があるのですが、手で持って歩ける物ではありませんので一緒に来ていただけませんか?」

 あやしい。

 私のそつちよくな意見である。

 私はニッコリ笑うと言った。

「申し訳ございません。見も知らぬ方からしい話をされても、ついていってはいけないと兄からきつく言われておりますので」

 私の言葉を聞くと男は表情をゆがめた。

「痛い目にいたくなかったらだまってついてこい」

 ああ、この人は私をゆうかいするつもりだ。

 私はニコニコしながら男についていくことにした。

 路地裏をクネクネと進み連れてこられたのは港近くの倉庫に使われている建物だった。

「さあ、そこにすわるんだ」

 言われた通りに安い造りの木のに座ると、わらわらと数人の男達が現れ私を椅子と一緒になわしばりつけようとしだした。

「目的を聞いても?」

「あんたには関係ない」

 私を縄で縛った男の一人が小さくつぶやいた。

「誘拐されているのに関係ないのですか?」

 私の言葉に息をむようにして黙る男。

 この、後から来た男達はどうやらいやいや付き合わされているようだ。

 何か事情があるのだろう。

 仕方がないので私はじようきようあくするために周りを観察することにしたのだった。

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