第19話


 駅前からは一本の大きな道が縦に伸び、両脇には頑丈そうな建物が遠くまでびっしりと並んでいた。

 煙突から煙を噴き上げ、地球の工業地帯と似た光景の中を、俺達は街に向かって歩き始める。


 今は目的地が設定されている訳ではない。だが俺の中には三つほどの案が浮んでおり、とりあえずどれも街に向かう必要がありそうだ。

 莉奈はおじさんに城に留められてるか、おじいさんの家にいるか、地球に帰っているかのいずれかだろう。

 最初から莉奈がおじさん側だった以外に、俺を追ってヴェルザールにすぐ来なかった理由はそんなもんだ。勿論、おじさん側だったという合理的な理由は一つもない。


 俺達の次の行動の候補は、おじいさん達に何か助言を貰う事、怜奈の魔法で莉奈になんらかの発信をする事、そしてクレインマザー城に怜奈の力で強引に入り込んで莉奈を探す、この三つだ。ただ、最後のはもし若返りの魔法の手がかりが城にあった場合、その後の行動が少し難しくなってしまう。


「なあ怜奈。おじさんがいたらさ、眠らせたり出来る?」

「……出来るよ……でも私そんなので……済ますつもりないから……」

「そ、そっか。まあ出来れば穏便にな。あと俺の指示優先で頼むぞ」

「……わかった……一応ね……」


 帽子からツノを伸ばし、スカートからは尻尾が出ているこんなファニーな見た目なのに、怖い事を言う女だ。

 工業地帯を抜けると、最初に現れたのは宿場街。一応場所と金額を確認して、そのまま通り過ぎていく。


 繁華街に入った所で、ひときわ目を引く大きな建物に気付き、指輪を通して看板を読んでみると、冒険者ギルドと書かれていた。


「ああ、やっぱりこういうトコあるんだな」

「うん……魔物倒して売りに来たり……仕事を斡旋したり……冒険者に依頼を頼む窓口でもあるね……」

「俺達にはあんまり関係なさそうだな。見てみる?」

「ううん……いい……私魔術ギルド入ってるし……こっちにあんまり用事ない……」

「そっか」


 素通りしようと前を通ると、なんだか地球のゲーセンに似た、録音されたオモチャのような音声が流れていた。


(てーーてててててんててんてん てーーれれれー♪)

「ご通行中の皆さん、ステータスを見てみませんか? 二人の相性も占えます。的中率90%、クレインマザーの思い出にどうぞ~」

「……。」


 ギルドの入り口の脇には、透明な箱で固定された水晶玉があり、その横にコイン投入口と書かれた自動清算機のようなものが設置されていた。

 俺と怜奈は立ち止まり、じっと顔を見合わせる。なんだよステータスって……滅茶苦茶気になるじゃないか。


「よし怜奈。ステータスを見てもらうんだ」

「フフ……相性なんて……バカみたいだね……」


 という訳で3回ほどこの機械で遊んでみることにする。金貨しか持ってない事を怜奈に言うと、ギルドの中に入っていって両替してきてくれた。


 まずは相性からだ。ゲーセンの占いに運命を委ねるのは、間違いなくカップルの通過儀礼だ。一回500円くらいというこの機械、言っても勿論、俺達は真面目に捉えてはいない。

 水晶玉には指ほどの穴が一つ開いていて、そこに順番に指を入れていく。


「オマタセしました。結果をお取りください~」


 水晶玉が安っぽいピンクに光ったと思うと、傍にある小さなプリンターからジジジと紙が出てきて切断された。二人で同時に見ると、まず「呪縛」という大きな文字が書かれ、その下に詳細と思われる小さな文字がざっと並んでいる。


「大吉とかじゃないのな。えー何々……二人は永遠に続いてしまうかもしれない連鎖の中にあり……別れたくても決して別れられない恐ろしい運命の予感がします。逆らおうとすれば不幸が待ち、委ねれば永遠の中を生きる事になるでしょう……だとさ。呪縛ってぷぷっ」

「……うん……まあまあだね……」


 続けて500円を入れ、まず怜奈のステータスを見てみる。今度は怜奈だけ指を入れて、ぽんぱんぱぽーんという変なメロディーが流れ、プリンターから同じように紙が出てきた。


「えーと何々、おお。HP999/測定不能、MP999/測定不能、力573魔力測定不能、賢さ67運486……適正職業魔女、使用可能スキル魔女の全て、聖女と悪魔がレベルMAX……これどう違うんだ?」

「……わかんない……」


 さすが屋外で放置されている機械、かなりアバウトだ。だがしっかりコイツの中の3種類を見抜いてきている辺りは、油断できないとも言えるだろう。

 属性とか特記事項の欄にもやはり魔女だの聖女だの書いてあるが、怜奈は魔女だし聖女だし、特に変わった事が書かれている様子はなかった。


「よし……謎の紋様を背負いし俺の番だな……結構ドキドキするな」

「うん……頑張って……」


 500円を入れ、穴の中に指を入れる。再び変なメロディーが流れて紙が出てきた。

 怜奈がバシッと先に取り、「おー」と声を上げた後、あろうことかニヤっと笑いやがった。

 また優越感を感じさせる材料を与えてしまったのか、クソッ。怜奈の手から奪い、俺も見てみる。


「HP50/51、MP19/19……力38魔力8、賢さ70運385……すげー運だけ桁違いだわ! これガルーダさんの羽根の効果か!?」

「ぷっ……低っ……ママから離れちゃダメだよ……」


 化け物の失笑を完璧にスルーして、続きを読むと妙な事が書いてあった。


「特記事項:魔女の呪い、聖女の呪い、加護:魔女の寵愛、聖女の寵愛、悪魔の寵愛……ドラゴンの寵愛って何これ」

「おー……」

「もしかして俺……ドラゴンなの?」

「……絶対違う……考えてみて……祐に魔素入れた子が……もう一人いる……」

「ウソだろ? アイツのどこにドラゴン要素があるっていうんだよ」

「……お父さんの先祖には……竜族がいたみたい……」

「はー……初耳だな。でもなんかちょっとカッコいいな。勇者になったのもそういうルーツなのかな」

「……多分ね……普通は勇者になんて……なれないと思う……」


 莉奈がドラゴン……いまいちピンと来ないが、当然怜奈は知っていた様子なので、間違いないのだろう。

 次に会った時にはドラゴンネタでイジってやろうと思う。それにしても莉奈には尻尾もなければ角もない。一体何がドラゴンなんだろう。


 とりあえず総じて言えることは、それは俺が常々思っている事だが、ここの世界でコイツらが何であろうと、あんまり関係ないのだ。だから怜奈のリアクションも薄いし、俺も適当に受け止めている。


 だが俺の背中の逆位相とやらは、こっちの世界では呪いとかなんとか、コイツらがやらかした末の謎の結果だという事は判明した気がする。その件に関しては後でお仕置きをするとして、とりあえず俺はそのドラ子ちゃんに会うためにどうすればいいか、城の方角へ歩きながら、再び考え始めた。

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俺と幼馴染みの君たちと、異世界で始める家族ゲーム むぎめしpetit petit @odaijisan

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