第3話 よろず屋開店目指して、いざゆかん! ダンジョン探索!!

「お願いします!! よろず屋を開かせて下さい!!」

「ダメです。必要なモノはこちらにまとめてあるので、必要なものを取り揃えてからまたいらしてください」


 シンは真正面から土下座する。だが、女性は満面の笑顔のまま首を横に振る。

 彼女の見せる必要書類。そこには色々なモノが書かれていた。

 まず住居。店を開く為の家。

 次に、ギルドに寄付する金額。ギルドに土地を借りる上での場所代らしい。

 更にはギルド内で宣伝する為の広告料。

 その他諸々で、金貨というお金が1000枚は必要らしい。

 そういえば、生前神様が言っていた。


【良いですか? これから向かう場所の通貨くらいは知っておきましょう。金貨は一枚、1万円の価値。銀貨は1000円。銅貨は100円です。基本的な通貨で、日本円に換算しているので、分かりやすいと思います。良いですか? 覚えてくださいね】


 と、言っていた気がする。つまり、お店を開くまでに必要なのは日本円で1000万円。

 その真実が重くシンの心に圧し掛かり、全身全霊の土下座に移行した。


「すんません、そんなお金はありません!!」

「なら、稼いで下さい。大抵、お店を構える人は稼いでからいらしてます。初めてですよ? 貴方のように何も持たない一文無しがお店を構えようとするなんて」

「うぐっ……」


 何やら蔑む、サディスティックな声が聞こえたが、あの笑顔の受付嬢からは考えられないだろう。

 女性は椅子から立ち上がり、土下座しているシンの傍らに立ち、膝を折る。


「けど、稼ぎ方はいくらでもあります。むしろ、夢はそこに詰まってます」

「何? 本当ですか!? そのドリーム、オレに見せてください!!」

「分かりました。では、こちらを」


 女性の言葉に顔を上げたシンの目の前に何やら小さな袋が渡される。

 女性は可憐な笑顔を浮かべたまま、説明する。


「これはマジックパック。ダンジョンにあるアイテムを保管しておく為の袋です。貴方はこれから冒険者となって、ダンジョンを進んで、アイテムを集めてきて下さい」

「……ダンジョン、だと?」


 前世では何かと聞きなれた言葉を反芻すると、女性は小さく頷いた。


「はい。この先、あの扉、分かりますか?」


 女性は噴水の奥にあった道の先にある巨大な門を指差す。


「あの門の下は転送装置になっています。あそこから先はダンジョンと呼ばれる人類に課せられた神々の試練があります。そこには魔道具と呼ばれる私達の生活を支えるモノが沢山落ちています。実用性のあるものから、宴会芸用のモノまで。貴方はそれを取ってくる、冒険者になるんです」

「……つまり、なんだ。ダンジョンに入って、冒険者って奴になれば、店を構えるだけのお金を稼ぐことが出来るって事か?」

「はい。その代わり、ギルドは冒険者として登録するだけ。一切の支援は行いません。全ては自己責任。それが神々の試練。ですけど、成果を上げれば、それだけの対価はお支払いしますよ?」


 ニッコリと優しい笑みを浮かべるその奥にとても黒い影が見える。

 明らかに試している、というよりも、挑発しているようにも思える。

 人手不足なのか、と思ってしまうが、これは、是非もない。

 よろず屋を構え、人助けゆったりライフをする為に、背に腹は変えられない。


「……その話、受けます」

「契約成立ですね。では、ここにサインを」


 シンは女性からペンを受け取り、石版に描かれた文字列の一番下にサインをする。

 描けば書ける青白い光の文字。女性はそれを眺めてから、指差す。


「それでは、あそこに向かって下さい。良い夢を」


 女性のその言葉を背にシンは歩き始める。


「――全治のラプラスが測定不能なんて超レアケースを手放す訳にはいかないし……彼には頑張ってもらおうかな?」


 何やら女性の不穏な言葉が聞こえたような気がするが、この際は気にしない。

 シンにある道は一つ。このダンジョンとやらを乗り越え、大量のお金を手に入れるのだ。

 門へと続く道を歩いていると、突如、門から三人組の男たちが慌てて出てくる。

 その男の一人は頭を何かで殴られたのか、ぐったりとしている。

 その男を二人の男が支え、声を掛けている。


「おい、大丈夫か!?」

「くっそ、何が夢、だ!! あんなの危険すぎるだろ!!」

「早く診療所に連れてくぞ!! あそこなら治療してくれるはずだ!!」


 慌しく去っていくその背中を見送りながら、シンは思う。


 ――もしかして、ダンジョンって滅茶苦茶やばいところ?


 物凄く上手い話だな~、とは思っていたが、もしかして、あの女にハメられた?

 確かにさっき、物凄い不穏な事を言っていたし、彼らも夢とか言っていた。

 もしかして、口車に乗せられた? シンの心に妙な引っかかりを覚えるが。

 今更、引けない。もう、やるしかない。やらなきゃやられるだけだ。

 シンは巨大な門の下に到着する。その門の下には良くRPGで見るような青白い床。

 恐らくそれに乗れば、ダンジョン行きなのだろう。

 シンは一つ息を吐き、青白い床の上に立つ。


 瞬間――景色が一気に真っ白になり、ふとした瞬間、視界が晴れる。

 薄暗いじめじめとした洞窟。明かりは広場全体を取り囲むようにある灯篭の火だけ。

 そこで見える、異形の生命体。それは伝説で見た事がある。

 牛頭の人間。片手に血の付いた大斧。ミノタウロスだった。

 ミノタウロスはシンを見下げるように見つめ、口を開いた。


「ボウケンシャ……シスベシッ!!」


 裂帛の気合と同時に駆け出すミノタウロスに、シンは一つ息を吐いた。

 こいつがさっきケガをした人たちをやったという事だろう。

 ダンジョンだから、この程度は推測出来ていた。それに、もう腹はくくったじゃないか。


 なら、後は自分のやってきた事を信じるだけだ。

 そう、この右腕を。シンは腰を落とし、左手をミノタウロスの頭部に狙いを定めるように前に出す。

 そして、右手を引き、穿つ。

 刹那――ミノタウロスは拳のソニックブームが炸裂。そのまま吹き飛び、壁に激突。そのまま何もいう事無く、倒れ伏した。

 ――どうやら、やってきた事は無駄ではないらしい。

 シンは確かな手応えを得る。


「これなら……いける……やれるぞ!! 行くぜ、ダンジョンドリィィィイイイイム!!!」


 そんな奇声を上げながら、人助けゆったりライフを目指し、彼はダンジョンに足を踏み入れる。

 

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転生が遅れたので、修行してもよろしいか? ~異世界行って、よろず屋開いて、人助けゆったりライフします。〜 おしりこ @elsie23132

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